男子日本代表

男子日本代表

2021/11/23

トム・ホーバスHC率いる男子バスケ日本代表、5つのキーワード(前編)

 

FIBAワールドカップ2023アジア地区予選を前に、男子日本代表は11月15日から強化合宿を行っている(写真/©JBA)

 

 真っ暗な夜空が、東の地平からほのかに赤みがかった明るさを増していく。「暁」と表現される未明から早朝にかけての時間帯は、強い日差しが差し込んでくるまでのひとときであり、まだ起きている人も少なく、西の暗がりには、晴れていればきらきらと星が輝いている。

 

 その後に続く時間帯は、現代でも時折耳にする「あけぼの」や「東雲」といった言葉で言い表され、「あさまだき」というあまりなじみのない表現も存在するということを、男子バスケットボール日本代表についていろいろと資料を見ているうちに知るようになった。


 今夏のオリンピックで日本代表を率いたフリオ・ラマス氏は、間違いなく日本に暁をもたらした。2019年に中国で開催されたFIBAワールドカップでは、日本が舞台だった2006年以来13年ぶり、自国開催以外ならば1998年のギリシャ大会以来21年ぶりの出場を果たした。オリンピックは1976年のモントリオール大会以来、実に45年ぶりの出場。この2つを実現した意義は言うまでもなく非常に大きく、至高の舞台で念願の勝利を手にできなかったとしても、その功績は称えられるべきだろう。


 女子日本代表を東京2020オリンピックで銀メダル獲得に導いたトム・ホーバス氏は、ラマス氏とは異なる地点からスタートした(女子代表は5年前のリオオリンピックでベスト8入りしたている)のはまちがいないが、暁から日の出を経て「朝」も越え、「昼」のくくりに入る時間帯まで一気にワープする瞬間を目撃したようなインパクトがあった。まさしく快挙。それ以外の何物でもない実績を残したホーバス氏が男子代表を率いることになり、いよいよ11月27日(土)・28日(日)に、FIBAワールドカップ2023アジア地区予選Window1で、中国代表を相手にその初陣を迎える。今月15日からは強化合宿が始まり、闇を西の地平に追いやる作業にいよいよ取り掛かっている。

 

合宿でのトム・ホーバスHC。会見では中国との対戦の勝利に向けた強い意欲を語っていた(写真/©JBA)

 

 「選手達はすごくいいエネルギーで始まって、これまで4回練習したんですけどエネルギーが全然落ちていないんです。全員が一生懸命頑張って、すごく良い合宿の出だしです。競争が激しいです」。ホーバスHCは、合宿期間中の19日に行われたズーム会見で、チームの印象をこう言い表した。「目標は勝つこと。当然です。今は24人。いろいろなプレーをたくさん入れたので、誰がそのルールを覚えられるか、パフォーマンスができるかどうかをチェックしています」


 対中国2連戦までの短い間に、ホーバスHCは女子代表と同じプレースタイルで戦う強力なチームを作ろうとしている。会見では、実戦での仕上がりを見られないことを難点として挙げていたが、一方で「あのスタイルは男女の別なく日本にフィットする」と女子代表のモデルに対する自信を見せている。


 プレーヤーたちがホーバスHCのスタイルを完全に理解し、その意図を遂行するには時間が足りていない中、チームの真価は試合当日にならなければわからない。あるいは今回の試合を見た後にもまだまだわからないかもしれない。しかしその特徴は5つのキーワードでつかめるように思う。


1. 代表への熱い気持ち


 新チームはどんなバスケットボールで勝とうとしているのか。それは確かに最大の注目ポイントではある。しかし、一定レベルのパフォーマンスを担保したプレーヤープールの中でホーバスHCが最重要視しているのは、代表入りに対する意欲のようだ。今回の24人の代表候補には、東京2020オリンピック経験者が5人しかいなかったが、これは新チームでの変化を望んで声をかけなかったのではなく、同大会前の代表候補も含め、広く声をかけたことをホーバスHCは明かしている。ただ、アプローチしたプレーヤーの多くが、東京2020オリンピックを一大目標としていたことから、現時点ではモティベーションが同じではないようだ。


 一方、招集された候補プレーヤーたちは、ズーム会見でいずれもが今回の招集に非常に前向きな思いを語っている。代表関連には「これまでかすりもしなかった」という寺嶋 良(広島ドラゴンフライズ)は、日本代表入りを「夢」と話した。昨シーズン千葉ジェッツでBリーグ初制覇を達成した原 修太は、今回が「最初で最後のチャンス」だと話し、静かな闘志を燃やしている。常に心の片隅に代表入りへの思いを秘め、それを目標にジェッツで自らを鼓舞し続けてきたのだという。


 彼らと同じく今回が初のフル代表合宿参加となった森川正明(横浜ビー・コルセアーズ)は、「30になる年で初選出されるという意味を考えなければいけない」と引き締まった表情で答えた。「この合宿に経験するためだけに来たのではなく、しっかりメンバーに残って代表戦を戦ってみたいという気持ちが強いです」

 

 東京2020を経験した比江島 慎(宇都宮ブレックス)は、内面をリフレッシュして今回の招集に応じた。会見では「新体制になっても僕を必要としてくれたことが光栄で、本当にうれしい」と話し、「世界の舞台で1勝もしていない中で終われない。女子を世界2位まで持っていってくれたバスケットを経験して見たかった」と強い気持ちを見せている。ホーバスHCは就任時の会見で、東京2020オリンピックでの経験は大事と語っていたが、ベテランの比江島がこんな熱量で貴重な経験をつないでくれるのは心強いにちがいない。

 

 勝たなければいけないというよりも、勝ちたい男たちが、勝つための機会を求めて競い合う。その結果選ばれる勝者だけが、中国との激闘に臨むことになるのだ。

 

「負けたままで終わるものか!」という比江島 慎の強い気持ちは、チームの活力になるだろう(写真/©JBA)


2. 日英バイリンガル


 ホーバスHCのコーチングの大きな特徴の一つが、日本語力を駆使したコミュニケーションの力だということは、すでに広く知られていることだろう。緊迫した実戦の現場で重要局面を迎えているときに、タイムアウトで日本語を駆使して熱く語るホーバスHCの姿は、メディアでたびたびフィーチャーされてきた。日本文化に対する理解度の深さを土台に、ホーバスHCは、プレーヤーとコーチングスタッフがお互いに感情やアイディアを通わせやすい環境を作り出すことができる指揮官だ。そうした期待は、ホーバスHCの就任発表会見時に、公益財団法人日本バスケットボール協会(JBA)の東野智弥技術委員長も話していたことだが、それがあっという間に、実際に作られただろうことが、JBA発信の映像などから感じられる。

 

 また、シェーファー アヴィ幸樹(シーホース三河)によれば、ホーバスHCとの会話は、2人だけでなら英語だが、チームでのミーティングなどでは日本語だという。こうした2ヵ国語の使い分けが、チーム全体の意思の疎通の助けになるのは間違いないだろう。

 

バイリンガルのシェーファーアヴィ幸樹は、彼自身もチームの潤滑油になりうる存在だ(写真/©JBA)

 

 同じ意味で、バイリンガルのアシスタントコーチたちの存在も大きなポイントになりそうだ。佐々宜央(宇都宮ブレックス)、前田顕蔵(秋田ノーザンハピネッツ)、勝久ジェフリー(川崎ブレイブサンダース)の3人のアシスタントはいずれも、誰か一人の通訳に頼ることなく2つの言葉で議論を展開することができるのは大きい。これはコーチングスタッフ間だけではなく、帰化枠のプレーヤーたちとのコミュニケーションにおいてもアップグレードされる項目だ。

 

アキ・チェンバース(群馬クレインサンダーズ)をかわしてダンクに向かうマシュー・アキノ(信州ブレイブウォリアーズ)。両者は基本的に英語でコミュニケーションだが、今回のチームでは言葉の壁をさほど意識する必要がない環境がある(写真/©JBA)


3. 頭を使う


 会見に応じた候補プレーヤーたちは異口同音に、ホーバスHCのスタイルが非常に頭を使うスタイルだとも話している。


 ただ、富樫勇樹(千葉ジェッツ)が会見で語ったところでは、やりたいことは「ペイントでの得点と3Pショットを増やすこと、さらにポゼッションの数自体も増やしたい」ということで明確になっている。その意味では、プレーヤー側はやりやすいのではないだろうか。

 

 頭を使うという部分では、戦術の遂行のために富樫は「慣れなきゃいけない部分がある」と話した。斎藤拓実(名古屋ダイヤモンドドルフィンズ)によれば、スタイルとしては「女子バスケットのイメージそのまま」だが、特にポイントガードには、セットプレーを単に覚えるのではなく、各ポジションの動きを頭に入れて先の先まで読んでプレーを組み立て、指示できるかどうかが問われているという。

 

斎藤拓実は会見で、女子代表の町田瑠唯のプレーを例に挙げて頭脳的なプレーに対する意識を語っていた(写真/©JBA)


 頭を使うのはガードだけではない。女子代表で町田瑠唯と高田真希、赤穂ひまわりらがたびたび見せた絶妙の合わせを男子でも遂行していくには、オフボールにおける状況判断が欠かせない。パワーフォワードの野本建吾(群馬クレインサンダーズ)、スモールフォワードの須田侑太郎(名古屋ダイヤモンドドルフィンズ)、森川、原らが口をそろえて発した言葉がまさしく状況判断であり、彼らはそれぞれがこの部分に自信を持って合宿に臨んでいる。


 町田はオリンピック期間中に、自らのアシストが脚光を浴びたことを受け、自分はパスを出すだけで後は周りが決めてくれるので「感謝しかない」といったコメントをして笑顔を見せた場面があった。そうしたあ・うんの呼吸を生み出すには、オンボール、オフボールのどちらのプレーヤーにも研ぎ澄まされた判断力とオートマティックな身体の反応が必要だ。

 

 これが今回中国代表に対して、どの程度のレベルで発揮できるかはわからない。ただ、「朝メシ前」に片付けようと焦ることもないだろう。磨きをかけるのはここから先だ(後編に続く)。

 

野本建吾は状況判断についての成長に自信を見せている。今回の大法合宿はその成果を示す機会だ(写真/©JBA)

 

取材・文/柴田 健(月バス.com)

(月刊バスケットボール)

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