月刊バスケットボール5月号

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2021.01.08

NCAA Div.Iファイナルシーズンを戦う池松ほのか(ロバート・モリス大)②

 日本で過ごした高校時代まではっきり言って無名の存在だった池松のRMUにおけるここまでの3年間は、日本のバスケットボール史においても高評価に値するものだと思う。華々しい数字を残したルーキーイヤーだけでなく、チーム事情や自身の内面的な戦いに向き合いながら成長を遂げた3年間は尊い。その足跡の主なものを拾っておこう。長くなるが大学公式サイトで記されているものからいくつかリストアップしてみたい。

取材・文=柴田 健/月バス.com 写真=RMU WBB

※パート1もぜひお読みください

 

日本国内で大きく報じられる機会が少なかった池松の足跡は、価値ある功績に彩られている


オールカンファレンス・ルーキーチーム入り
そして価値ある“格闘”の3年間

 

☆学生アスリートとしての特筆すべき功績
3年連続でノースイースタン・カンファレンス(以下 NEC)の学業成績優秀者名簿入り(2018~2020)


☆プレーヤーとしての表彰
2017-18オールNECルーキーチーム選出
同シーズン中2度NEC週間最優秀新人賞受賞

☆特筆すべき記録
2020-21シーズン開幕前時点の通算3P成功率(.376)はRMU歴代5位

 

☆キャリアハイライト
〇2017-18(1年生)
・全32試合に先発出場し、ポストシーズンのWNIT(National Invitation Tournament)出場に貢献
・3P成功率(.414)がNEC3位、3P成功数が同8位(2.0)、アシスト(2.8)が同10位(いずれもチームハイ)
・二桁得点11回、得点でのチームハイを7回記録
・ここまでのキャリアハイである25得点を12月31日の対セイクレド・ハート大戦で記録(フィールドゴールは13本中8本成功、うち3Pは10本中7本成功)
・ここまでのキャリアハイである8アシストを1月29日の対セントラルコネチカット大戦で記録(8得点、5リバウンド)

 

 〇2018-19シーズン(2年生)
・全32試合に出場(うち14試合に先発)し、チームのNCAAトーナメント出場に貢献
・平均3P成功数(1.7)がNEC8位にランクイン
・二桁得点6回、得点でのチームハイを4回記録
・2018-19のシーズンハイとなる19得点(府フィールドゴールは11本中7本成功、うち3Pは7本中5本成功)を1月21日の対セントラルコネチカット大戦で記録

 

 〇2019-20シーズン(3年生)
・全30試合に出場(うち15試合は先発)し、チームハイの3P成功率(.396)と平均3P成功数(1.4)を記録
・二桁得点を6回、得点でのチームハイを2回記録
・シーズンハイの17得点を3月5日のセントフランシス大戦で記録

より詳しいスタッツ情報は、RMU公式サイトで確認できる(英語表示)
※3年目はコロナウイルス感染拡大によりNECトーナメントの途中でシーズンがキャンセルとなった

 

 3年間を振り返る池松自身は「1年生のときはケガ人が多かったので、ポイントガードをしたりツースポット(シューティングガード)をしたりで、ある意味運が良かったと思います」と謙虚だった。2年生になると故障から復帰したメンバーや新入生が加わったことでガードの人数が増え、役割が変わった。池松はこのシーズン、主にシューターとして起用された。「変化に対応しなければならない年だったというか…。若かったこともありプレータイムが減って不安にもなり、シュートも入らなくて」。ただ、アップダウンに悩んだこの年、RMUはNECチャンピオンとしてNCAAトーナメント出場を果たしている。
ブスカイアHCはタイムシェアを指向し、かつディフェンス面の意識が強い。そのようなコーチの下でシーズン全試合に出場し、しかも半数近くに先発起用されて平均3P成功数でNEC8位にランクインするとともにチームとしても成果を残せた。これは池松の内面的な格闘がRMUにとって無駄ではなかった証しと見てよいだろう。
3年生となった2019-20シーズンは、再びポイントガードとして起用されるようになった。あらためて変化に対応しつつ、池松は自分本来の姿を見つけることに苦労した。「変化に適応するのは得意なんですよ。でも自分が何なのかというのが自分でわかっていないというか。…自分はどういう考えなの? と聞かれたときにこうだという答えが(自分自身に)なくて」。結果としてこのシーズンも自身としては浮き沈みを実感しながら過ごすこととなった。そしてやってきたのが新型コロナウイルスの爆発的感染である。最終的に3年目は、NECトーナメント準々決勝終了時点で残る日程がキャンセルとなってしまった。

 

インタビューで池松はにこやかな笑顔を見せてくれた


コロナ下でのファイナルシーズン
難局に立ち前を向く池松

 

 迎えた2020-21シーズンは、前代未聞の事態の中で進行中だ。あらたにホライズンリーグに編入した最初のシーズンにもかかわらず、厳重な感染予防・管理対策の下、練習がまったく思うようにできない。試合があるかどうかも、はっきり言って直前までわからない。例年なら11月から12月にかけて行われるノンカンファレンス・ゲームが多くのチームでいくつもキャンセルになっている。試合開催のわずか数日前に対戦相手が変更になる例もある。中には地元行政との話し合いの中で開幕前にシーズン丸ごとをキャンセルしたり、ノンカンファレンスを何試合かこなした時点でシーズン継続を断念してしまった強豪チームもある。
RMUは殴りつけるような荒波の直撃を食らってしまったような状態だ。当初予定されていたノンカンファレンスの2試合はキャンセル。12月12日のホライズンリーグ開幕戦以降は試合こそできているものの、初戦の対ノーザンケンタッキー大戦から年内は勝ち星なしの4連敗(12月21日の取材時点。この後1月4日までに連敗が6まで伸びている)。スコアから判断すれば、平均失点60.8はさほど危惧するような数字ではないとも思えるが、オフェンス面では平均得点が43.0.4試合中2試合は40得点に達していなかった。ボックススコアを見ると、その間池松自身も4試合で放ったスリー13本すべてがミスショットと厳しい結果が出ている。いったいどんな状態なのか?
「(12月19・20日に行われたミルウォーキー大とのシーズン第3・4戦目は)足を捻挫して…。メンタル的に、ケガのことを心配していたり試合のことを心配していたりして100%ではなかったのが反省点でした」と池松は話した。「その前週(対ノーザンケンタッキー大戦との今シーズン初戦)は、その2日前まで練習ができなかったんです。隔離状態で…」。
ブスカイアHCもコロナ対応による練習不足を現時点での成績の大きな要因に挙げた。「安全や予防対策の一環でいくつもの施設を閉鎖しなければいけないんです。自分たち自身は大丈夫でも、規則やガイドラインを遵守しなければいけません。7週間に渡って予定していたトレーニング期間のうち6週間は何もできませんでした。地域の決まりでその間自室にこもらなければいけなかったので、エクササイズもランニングさえもできませんでした。非常に重要なウエイトトレーニングも、です。プレーする体ではありませんよ」
できることと言ったらビデオを見て頭の中での“イメトレ”をすることくらいだ。「でも実際にやってみなければ感覚的につかめませんよね。コートに立って自分の力を尽くして取り組んでみなければ」。その上ノンカンファレンス・ゲームで経験を積むこともできなかった。「言い訳にはしたくないのですが、学生たちが直面している状況は分かってほしいと思います」とブスカイアHCは続けた。幸いにもコロナ陽性者はチーム内では出ていない。池松の故障も重篤なものではなさそうなので、今後の復調を願うばかりだ。
今シーズンのNCAAバスケットボールでは、地域ごとに異なる規則やガイドラインに沿って活動するため、大学の所在地により練習やトレーニングがある程度できるところとそうでないところの格差が生じている。それでも、ノンカンファレンスの試合を経てカンファレンス・シーズンを迎えたチームと、RMUのようにまったくと言っていいほど準備ができないチームが同じフロアで勝負するのだ。「皆本当に頑張ってくれました。結果は伴わなかったとはいえ、最大限の努力をしてくれましたよ」とチームの奮闘を称えた後、「これは本当に危険な状態だとわかってほしいのです。ケガをしないように祈るような気持ちなんですよ…」とブスカイアHCは懸念を示しながら開幕からの4試合を振り返った。
池松はシーズン初戦の段階ではチーム全体が「(身体的に)試合をできるコンディションではなかった」と認めたが、「まだ序盤だと思っています」と笑顔を見せた。ホライズンリーグの公式戦は2月20日の最終戦まで全20試合あり、毎週末同じチームとの連戦が続く。まだまだ挽回は可能だし、レギュラーシーズン後のカンファレンス・チャンピオンシップという舞台もある。今後の奮起に期待したい。
最後になるが、今シーズンはすべての学生アスリートがレッドシャツ扱いのため、4年生の池松も希望すればあと1年競技に参加する資格を得られる状況ではある。しかしそれは現時点で考えていないという。そして将来的にバスケットボールとどう向き合うかは決めていないそうだ。コロナ禍の社会情勢で、将来的な方向性はじっくり検討して進んでいかなければならないだろう。
難局に立つ池松だが、彼女はオフコートでも特筆に値する実績を持つ学生だ。「こんな状況なので、バスケットを今後どうするかもわからないので、今を楽しもうと思ってます」というのも素直な気持ち。その中で、在籍4年間のすべてで学業成績優秀者名簿に名を連ねられる可能性もあることに触れると、「4年間に一度も4.0GPAをもらったことがないので、最後のセメスターは4.0をもらいたい」と高い目標を掲げた。そんな池松には、ぜひともこの先長くバスケットボールに携わってほしい。彼女の体験は、日本人バスケットボールプレーヤーとして非常にまれな輝きを放つものなのだから。(パート1を読む


(月刊バスケットボール)



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