月刊バスケットボール6月号

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2021.01.06

NCAA Div.Iファイナルシーズンを戦う池松ほのか(ロバート・モリス大)①

 NCAAディビジョンIのロバート・モリス大に2017年に入学した池松ほのかが、大学生活最後のシーズンを迎えている。シーズンが始まったばかりの12月半ば、池松本人と彼女をロバート・モリス大(以下RMU)に誘った森田麻文Aコーチ、そして池松のポテンシャルを高く評価してチームに迎え入れたチャーリー・ブスカイアHCにインタビューを申し込んだ。
取材・文=柴田 健/月バス.com 写真=RMU WBB

 

ロバート・モリス大で最終学年を迎えた池松ほのかは厳しい環境下で奮闘している


コロナ感染拡大下、「1試合1試合、今日が最後と思ってプレーする」

 

 今年の大学4年生たちは、あらゆる意味で非常に難しい状況に直面しながらバスケットボールに向き合っている。アメリカにおける新型コロナウイルス感染拡大の様相は日本とは比較にならない規模を呈しており、日本時間1月4日時点で大雑把に感染者数が2千万人越え、死者30万人越え(日本は同日時点で感染者数約24.6万人、死者数3600人台)だ。
厳重な感染予防・管理対策の下で進行している今シーズンのNCAAバスケットボールは、女子も男子も“非常事態”。池松のRMUにおけるファイナルシーズンは異例ずくめとなっている。この先にどんな未来を切り開いていくことができるのか。予測の難しさという意味では、かつてNCAAディビジョンIで活躍した誰よりも過酷な境遇とも言える。「いつ試合がなくなるかわからないっていう状況なので、去年みたいに自分の数字とかチームの勝率とか、そういうのよりは、1試合1試合をちゃんと…。今日が最後かなと思って100%で臨むことが自分の目標」と静かに話す池松の表情は柔和で、物静かな語り口にキリっとした大人の魅力がある。自分自身と向き合い、将来を見つめる若きアスリートの輝きが、オンライン・インタビューの画面越しに日本にいるこちら側にも届いてきた。


夢をかなえたNCAAディビジョンIの舞台

 

 RMUはペンシルバニア州ピッツバーグ郊外、ピッツバーグ空港からクルマで15分ほどのムーンタウンシップという町にある。池松を同大に勧誘した森田麻文Aコーチによれば「これまで恐い思いをしたことがない」という。日本人にも住みやすいクリーンな街並みと治安の良さ、そして日本人女性がチーム作りの核となるAコーチを務めている環境で、池松はディビジョンIのキャリアを始めた。
森田Aコーチについてはあらためて別企画で紹介する予定だが、2013年から2年間、滋賀レイクスターズ(当時はbjリーグ)でAコーチ兼通訳を務めた人物だ。その後2014-15シーズンからRMUでAコーチを務め今シーズンが7年目となる。
小さな頃からアメリカでプレーしたいという夢を持っていた池松がそのチャンスを手にした背景には、いくつかのポイントがあった。その一つが、地元熊本県で通っていたクラブチームの指導者同士のネットワークがこの森田Aコーチとつながっていたことだ。「どこの大学で、どのレベルでということはなく、とにかくアメリカでバスケがしたかった」とおぼろげだった夢が現実味を帯びたのは2017年の春。「以前からほのかの存在は知っていた」という森田AコーチがRMUでアメリカ国外でのリクルーティングを進める中、この年3月の段階でポイントガードをもう一人必要とする状況が生じたのだ。森田Aコーチが池松にコンタクトしたのは、すでに池松が卒業後の4月に入ってからだったという。
池松には、アメリカ行きを希望するほかのプレーヤーと比較してアドバンテージが2点あった。学業成績と、日本の女子バスケットボールでは現時点であまり浸透していないワンハンド・ショットである。

 

日本の女子では少数派のワンハンド・ショットがNCAAディビジョンI行きの決め手の一つになった


道を切り開いた高校での学業成績とワンハンド・ショット

 

 アメリカ留学を希望するならば誰しも、①高校時代の成績、②SAT(アメリカの大学入学に必要な進学適性試験でScholastic Assessment Testの頭文字)、さらに③TOEFL(非英語圏居住者向けの外国語としての英語力を測る試験で、Test Of English as a Foreign Languageの頭文字)の合計点で一定基準を満たさなければならない。「高校の時の成績がオールAだったので、SATの成績が低くてもよかったというのがあって…。中学・高校の頃から気を抜かないで勉強していてよかったなって思ってます」と池松は当時を振り返った。
高校時代の成績が良いことは留学において非常にプラスになる。森田Aコーチによれば「5段階評価で平均3.5くらいないと難しい。…高校の成績が良ければその分、必要とされる統一テスト(上記SAT)の点数が下がるんです。統一テストで必要な点数を取るというのが、日本人にとっては英語ができないと難しい」のだ。それが「ほのかの場合はほぼ満点に近い成績を持っていたので、統一テストは正直、受けるだけでいいというくらいだった」という。
ワンハンド・ショットはクラブチームに通い始めた小学校6年生の頃から身につけていた。しかも「やっぱりいいシューターだったんですよ」と森田Aコーチは池松のプレーヤーとしての魅力を語った。「(ディビジョンIでは)何でもできることも大切だけど、これだという武器がないと難しい。彼女の場合は、追いつかなければいけないところもたくさんあったけれど、シュートが入ったというのがありますね」。チャーリー・ブスカイアHCにもこの点はアピールした。

リクルートする側の見方として森田Aコーチは次のように話してくれた。「ワンハンドのほのかだったらこのくらいのスペース(肩幅ほどの長さを両手で示しながら)でも打てるけど、(リリースポイントの低い)ツーハンドの子がブロックされずに打とうとするとこのくらい(先ほどの倍程度を示しながら)必要になってくる。となると、狭いワイドオープンを作る方が簡単なので。ツーハンドがダメというわけではないけど工夫が必要になりますよね」。池松のワンハンド・ショットはツーハンドにくらべてリリースポイントの高さがアドバンテージなのだ。その上「ほのかはそこそこクイックでも打てるので、身長は低いですがちょっと間をあけてあげれば打てる」と分析する。

 加えて池松の素直な性格も魅力だった。「楽しそうにバスケをして、楽しそうにアメリカに来たいと話して、人間的にうちのチームにフィットすると思って」という森田Aコーチの進言に、ブスカイアHCは「一度話してみようか」と答えた。
ブスカイアHCは池松のプレーを見た第一印象を次のように話す。「(シュートが)よく入るし、楽しそうにプレーする子で、とても元気がいいねという印象でした。…ハンドリングとドリブルもうまく、1番でも2番でもいけそうでしたね。私たちはちょうどそんな柔軟な人材を探していたんです。ディフェンスではフットワークが素早く、ボールの前に立ちはだかっていました。簡単に攻め込まれることはなさそうでした。できる限りカバーを必要としない方が良いわけですから。そういった点を見て、うちのチームで力になってくれると思えました」。ワンハンド・ショットに関しても「(元から身についているので)我々からも指導がしやすい」と話し、それがプラスに働いたことを明らかにした。
晴れて2017年5月、池松はRMUとのNLI(入学誓約書のようなもので、National Letter of Intentの頭文字)にサイン。チームとして日本人プレーヤーを受け入れるのは初めてのことだった。

 公式戦デビューは同年11月11日。2017-18シーズンのノンカンファレンス・ゲーム初戦、ビッグテン・カンファレンスの強豪ミシガン州大が相手だった。ブスカイアHCは池松をスターターとして起用した。ボックススコアをひもとくと観衆は5,038人と記されている。58-100と大敗を喫した。しかし、わずか半年前には考えられないような大舞台で、池松は5得点に4アシスト、2ステイールと爪あとを残した。熊本出身の168cmのポイントガードが、想像を超える大きさで夢をかなえた日である。(パート2に続く

 

(月刊バスケットボール)



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