月刊バスケットボール5月号
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林咲希
SG 173 cm
ENEOSサンフラワーズ[/caption]

 

[東京2020 女子日本代表の横顔]

日本の浮沈のカギを握る破壊力抜群のピュアシューター

 

 福岡県出身の林咲希はミニバスチームのコーチをするなど、地域のバスケットボール界に貢献していた父親の影響でバスケットボールを始めた。ミニバス時代、父親は男子を教えていたが、何かとアドバイスをくれる存在でもあった。精華女子高では、毎日始発で通って練習を積み重ね、3年生のインターハイでベスト16入り。しかし、ウインターカップには出場できなかった。同期の福岡は、中村学園が強く、そのエースだったのが安間志織(トヨタ自動車アンテロープス/日本代表候補)だった。

3Pシュートのスペシャリストのイメージが強い林だが、高校時代まではインサイドでプレーしていた。それでも高校時代にアウトサイドシュートの基礎を教わったことが、後に生きてきた。大学時代から3Pシュートに本格的に取り組むと、ユニバーシアードに出場するなど、頭角を現すようになった。日本代表としては2018年のアジア大会、そして2019年のFIBAアジアカップに抜擢。決勝の中国戦で3Pシュートを立て続けに決めてインパクトを残した。さらにオリンピック最終予選(出場権は得ていたが、出場が義務付けられていた)では、ベルキーとの対戦で20分の出場時間で8本の3Pシュートを決めるパフォーマンスを見せた。

 それこそトム・ホーバスHCが林のことを「特別なシューター」と呼ぶゆえんだ。ホーバスHCは女子選手もワンハンドシュートを打つべきだと考えているが、両手打ちでも、長距離からクイックで打ち、高確率で決める林や三好南穂らのシューター陣の存在は認めている。そして、日本独自の戦略を担う欠かせない存在として位置付けているのだ。

 しかし、ポルトガルとの強化試合では得意の3Pシュートが思うように決まらず調子を落としている。それでもホーバスHCは、林の復調を信じて代表に選んだ。すでに実績がある林は、他国のチームが警戒してくる。つまり、林がいるだけで、相手ディフェンスは林を警戒することで、他のポジションに好影響を及ぼすからだ。もちろん、警戒されるだけでなく、「特別なシューター」として、多くの3Pシュートを決めてもらわなければ、日本がメダルを獲得することは叶わない。それは林自身も十分に自覚している。

「今まで支えてくださった方々への感謝の気持ちを全面に出し、私の武器である3ポイントシュートでチームの目標である金メダル獲得に向けて貢献できるよう、頑張ります」と力強くコメンする。

 2017年8月、林が日本代表としてユニバーシアード大会に出場している最中に、最も影響を与えた父親が亡くなった。バスケットボールとの出会いを作り、支えてくれた父親。本当ならばその後、A代表入りし活躍した姿、そしてオリンピックに出場する姿を最も見てもらいたかった存在──。そんな天国の父親に届くように、林はオリンピックの舞台で、“特別なシュート”を決め続けるに違いない。

(飯田康二/月刊バスケットボール)



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