月刊バスケットボール5月号

NBA

2021.12.21

襲い掛かるパンデミックの猛威に揺れるNBA

 厳しい感染対策を施した上でのバブル状態でのプレーオフ開催、レギュラーシーズンの試合数削減などにより、パンデミックに襲われた過去2シーズンを乗り切ってきたNBAは、今シーズンは開幕時点からフルキャパシティーでファンを試合会場に迎え入れ、大声援の中で行われるかつての熱狂を取り戻していた。レギュラーシーズンの試合数も1チームあたり82試合に戻り、一方でパンデミックのポジティブな副産物とも言えるプレーイントーナメントのシステムは昨シーズンに続いて行われることになった。シーズンたけなわとなる年末年始のホリデーシーズン以降、いっそう白熱した展開が期待されている状態だ。


ところが12月に入ってから状況が一変。70人を超えるプレーヤーが安全衛生プロトコル適用下に入り、試合実施に必要なプレーヤーの人数がそろわないチームが続出したことで、NBAは日本時間12月21日(北米時間20日)現在で7試合の延期を発表することとなった。2試合が延期対象となっているブルックリン・ネッツでは、ケビン・デュラント、ジェームズ・ハーデン、カイリー・アービングという最大のスター3人がそろってプロトコル適用となった。アービングはワクチン接種を避けていたためにチーム活動への合流を禁じられていたが、チーム内での感染拡大により合流許可が出た直後のプロトコル適用だ。


カナダが入国管理規定を強化したことにより、トロント・ラプターズと対戦するためにアメリカから入国するには、必要なワクチン接種を済ませていなければならなくなった。仮にトロント入りした後に陽性が判明した場合にはアメリカへの帰国に支障が出てしまう懸念から、日本時間12月19日(北米時間18日)のラプターズとゴールデンステイト・ウォリアーズの試合に際しては、ステフィン・カリー、ドレイモンド・グリーン、カナダ出身のアンドリュー・ウィギンズというウォリアーズの中心となるプレーヤーが入国を控える事態にもなっていた。この試合では観客数にも再び制限がかけられていた。


パンデミックによる過去2シーズンの損失を取り戻す意気込みで今シーズンを迎えたオーナーたちは、試合の延期を是が非でも回避したい意向を持っている。ファンの立場としても、ようやく帰ってきたNBAの熱気を、安全への十分な配慮を大前提として体験できることを願っていることは、各地のアリーナが盛況であったことからも明らかだ。


予定通りに試合運営ができるようにと、プロトコル適用により欠場となるプレーヤーのロスタースポットを埋めるフリーエージェント獲得についてリーグと選手会が条件調整に入り、週末には早くも新たなルールについての合意が形成されたことが報じられている。NBAには、故障続出などの非常時にチームが規定人数以上のプレーヤーと契約することができるハードシップエクセンプションという特例措置がある。今回の合意で、パンデミックの影響が強まったことを受けさらにその効力を強化させる形となる。


リーグと選手会が合意した特例措置は、有力インサイダーのエイドリアン・ウォジュナロスキー氏が情報筋から入手したというメモによれば、短期的な契約形態に基づき各チームに一時的な補強を許可・義務化する措置となっている。日本時間12月20日(北米時間19日)から2022年の1月19日までの期間限定で、以下のような規定を含んでいるとのことだ。


☆1人が安全衛生プロトコル適用となった場合、一人を補強できる
☆2人が適用下となった場合は二人の補強が可能で、一人は必ず補強しなければならない。
☆同様に3人が適用下となれば3人の補強が可能で、2人は必ず補強しなければならない

☆適用下のプレーヤーが4人になれば、4人の補強が可能で、3人は必ず補強しなければならない


あらたに加入するプレーヤーのサラリーは、年間のチームサラリーにはカウントされない。またツーウェイ契約プレーヤーの出場試合数には50試合までという制限が付けられていたが、このルール下で撤廃されるとのことで、リーグとしてのシーズンの安全な続行に向けた強い意志を示す内容だ。


リーグやチーム関係者、ファンの安全が第一なのは間違いない。しかし、パンデミックで元気をなくした社会全体に、NBAの存在が力をもたらしていることも感じられた開幕からの約2ヵ月を振り返ると、続行していくこと、それに向かって議論していくことには大きな意義があることもまた事実だ。


パンデミックに揺れるNBA。今は関係者やファンの安全とシーズンの成功を願って見守るほかない。


文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)



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