月刊バスケットボール5月号

岩手県大槌町に夢のバスケコートを作ろう – 東日本大震災復興支援、花道プロジェクトの決意(1)

岩手県東部の三陸海岸に面した大槌町に、東日本大震災からの復興のシンボルとなるような、夢のアウトドアバスケットボールコートが誕生しようとしている。2020年11月20日、大槌町は東日本大震災の伝承活動に活用するため旧町役場庁舎跡地の環境整備を進める方針を示し、同年12月にはその一環として大槌町役場旧庁舎隣接地にバスケットボールコートを建設することを了承したのだ。

 

大槌町に2021年10月1日(金)にオープン予定のアウトドアバスケットボールコート見取り図


このコート建設の動きを中心的に推進してきたのは、震災発生から約8ヵ月後の2011年11月から地元の復興支援に力を注いできた花道プロジェクトという団体だ。
花道プロジェクトは、震災後の復興支援にボランティアとして参加していた矢野アキ子さんと河谷秀行さんが、その活動を通じて意気投合して誕生した慈善団体。矢野さんは広島県福山市在住だが、大槌町との往復2,400kmという距離を飛び越えて、震災直後から今日まで現地の復興支援にかかわり続けている。コート建設に関しては、2016年から足掛け5年を費やして大槌町との交渉を重ねてきた。
当初花道プロジェクトの考えは、津波で家屋の1階が天井まで浸水するほどの大津波に襲われた大槌桜木町に桜の植樹を行い、花道を作って全国から観光客を呼び寄せようという考えだったという。しかし「桜木町」という町名と「花道」を作る活動が、二人に大人気コミック『スラムダンク』の主人公である桜木花道を連想させた。
それなら植樹と一緒にバスケットボールを絡めた町おこしをすれば、全国からたくさんの人々を呼べるのではないか。ならば誰もが楽しめるバスケットボールコートを作ってしまおう。
そのアイデアを発端に矢野さんは河谷さんとともに花道プロジェクトを設立し、植樹に関しては2013年4月7日に実現。その後も今日まで活動を推進してきた甲斐あって、アウトドアコートも今年の10月1日(金)に完成予定だ。
ただ、復興支援活動の実際はきれいごとではない。聞こえの良い植樹やバスケットボールでの町おこしといっても、地域住民の気持ちを汲みながら、ニーズに即した支援を提供しなければ独りよがりになってしまう。また、建設区画交渉や建設資金集めは苦労の連続だという。2月19日からは90日間を期限とするクラウドファンディングを立ち上げ、広く協力を募っている。
震災発生直後からの復興支援活動に伴うさまざまな心の動きや体験について、矢野さんにお話をうかがった。まず聞いたのは、震災発生時の体験と、往復2,400kmの距離を飛び越えてまでなぜ大槌に飛んでボランティアをやろうと決意したかの2点。以下はその答えをまとめた手記だ。

 

2019年に解体された大槌町役場旧庁舎。その跡地隣接区画でコート建設計画が進んでいる 写真/柴田 健(2013年撮影)

 

 あの日は勤務中でした。会社でかけっぱなしにしているFMラジオから「東北地方で大地震が起きた」というアナウンスを聞き、急ぎネットニュースで調べたところ、現在進行形の津波が町を襲っている映像を見つけ、ただただこんなことがこの日本で起きていることが信じられなく、知り合いがいるわけでもない地域の惨状に涙が止まりませんでした。
私は仕事の都合上、年に2~3回仙台に出張をしていまして、お取引先の皆さんの無事を祈るくらい身近な心配事でした。
その年、私は子育てがひと段落して大きく安堵したときでもありました。ところが自分でも予想もしていなかったことに、この「安堵」が私の心にぽっかり穴を開けてしまったような虚無感を生んでしまい、毎日震災のニュースを見ながらいわゆる鬱のような状態になってしまいました。
そんなときに仙台のお取引先との会議で5月25日に現地入りすることが決まりました。ふと「これを逃したら私は2度とボランティアとしてあの地に足を踏み入れることはないだろうし、それをきっと一生後悔する」と思ったのです。家族に相談するために、なんで行きたいのか考えを整理し始めた頃から鬱状態を抜け出せたと思います。
それからはどうやったら被災地にボランティアとして参加できるのか方法を探す日々が続き、きちんと自分の気持ちを説明できる確固たるものが生まれました。歴史に刻まれるようなこの大惨事を体験した以上、いつか娘の子どもたちに「あの時はどうだったの?」と聞かれたときにちゃんと答えられる人でありたかった、これに尽きます。
戦争の体験を伝えるのと一緒かもしれません。
私の住む広島県福山市では揺れを感じることはなかったですし、直接生活に支障の出る輪番停電のような体験もしたわけでもないですが、この時を生きた日本人として、きちんと自分の言葉で伝えられる大人でありたかったということになるかと思います。(パート2に続く)


花道プロジェクトの大槌町役場旧庁舎跡地隣接区域バスケットボールコート建設費支援
クラウドファンディング申し込み↓↓↓
https://readyfor.jp/projects/hanamichi1031

問い合わせ: 花道プロジェクト
電話: 090-4651-1055(担当矢野)
公式サイト: http://hanamichi.info/

 

取材・編集/柴田 健(月バス.com)

(月刊バスケットボール)



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