月刊バスケットボール5月号

Bリーグ

2021.06.02

優勝までの過程で見えた富樫勇樹の成長「スタッツ以外のところでチームを助けることができた」

 泣いても笑っても最後の1試合。6月1日、『日本生命 B.LEAGUE FINALS 2020-21』の運命のゲーム3が横浜アリーナにて開催された。ゲーム1では千葉が、ゲーム2では宇都宮が自チームの持ち味をいかんなく発揮し、前者は千葉が85-65で後者は宇都宮が83-59と完勝。死力を尽くした両クラブの対決は、いよいよ決着の時を迎えることとなった。

 

 互いにすべきことは一つ。この1シーズンを戦ってきた成果、そして優勝への思いをぶつけるだけだ。そんな思いがこもった前半は、両クラブの力が拮抗。

 

 勝敗を分けるポイントとなるリバウンドでは、ほぼ互角(千葉15、宇都宮18)。ミスの少ない締まった試合は第2Q序盤で千葉が28-18と10点のリード。しかし、タイムアウトを取った宇都宮が立て直し、ライアン・ロシターや比江島慎の3Pで応戦。取っては取られの攻防が最後まで続き、前半はお互いに35点ずつを取り合った。

 

 今季のチャンピオンシップで、前半をリードして折り返した場合の両クラブの勝率は100%というデータがある。しかし、この試合は同点。文字通り後半戦は未知の戦いだ。

 

 後半もクロスゲームが続き、残り5分、オフィシャルタイムアウトの時点でも56-55と宇都宮がわずかにリードするのみ。試合が動いたのはそのタイムアウト明け。ギャビン・エドワーズと富樫勇樹が得点を伸ばし、その勢いに乗るかのように前半で不振に陥ったシャノン・ショーターが63点目となる貴重なジャンパーを沈め、極め付けは残り38.4秒でのセバスチャン・サイズのティップショット。最終盤の時間帯でコート上の選手たちが役割を全うした千葉が大激戦をモノにした。

 

お互いの意地がぶつかり合った最終決戦はシーズンエンドにふさわしい一戦となった

 

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 71-62。この差について富樫は「終盤で何が勝ったという具体的なものはなくて、お互いが一つのポゼッションを守りあって、という状況が続いていました。こういったクロスゲームになればなるほど、一つ一つの気持ちやリバウンド、ディフェンスだったり、そこが最後の1点、2点のところにつながったのかなと。それしか思えないので、このチームで1年間やってきたことを最後の5分間に出せたと思います」と、振り返る。

 

 

 富樫自身、この試合では開始早々の2ファウルでベンチに下がり、第3Qまでの多くの時間をバックアップPGの西村文男に託すこととなった。最高の舞台でプレーできないことは富樫にとっても歯痒かったはずだが、それよりも何よりもチームが勝つこと。それが何よりも大切なことだった。

 

「あと一つ勝たなければ何の意味もない」。ゲーム1終了時に彼が口にした言葉だ。

 

 天皇杯のタイトルこそ獲得したが、リーグタイトルには手が届かなかった千葉。富樫個人としても2014年(当時は秋田ノーザンハピネッツに所属)の琉球ゴールデンキングスとのbjリーグファイナル、そして18年、19年のアルバルク東京とのBリーグファイナルと3度も苦汁をなめさせられてきた。

 

困難なシーズンを戦い抜いた仲間たちと勝ち取った悲願のタイトル。喜びもひとしおだ

 

「bjリーグ時代に有明コロシアムでのファイナルに敗れ、Bリーグでも横浜アリーナで2年連続で敗れ、今年でファイナルは4度目です。やっと(優勝を)つかめたなという思いです。過去3回のファイナルで何か自分に足りないものを感じていたので、そこを今年は…。数字的には前のシーズンや過去3回のファイナルに比べて良かったとは思いませんが、それでもまた違うところでチームを助けることができたかなと思いますし、本当にようやく優勝できてすごくホッとしています」

 

 喜びと安心感、そんな感情が伝わるような落ち着いた語り口調で、富樫は言葉を並べた。

 

 富樫自身の言うスタッツ以外の面での貢献はこの試合では特に顕著だった。以前であれば絶対に犯さなかったファウルをチームのために使い、ベンチではコートに出ていく選手に最後まで言葉をかけ続ける場面が何度もスクリーンに映し出された。

 

大野HC(左)は誰よりも富樫の成長を感じていたに違いない

 

 自分がダメでも仲間が何とかしてくれる。そう信じることができる仲間に出会い、富樫自身も成長を見せた。大野篤史HCは富樫の変化についてこう答えた。「彼自身はあまり感じていないみたいですけど、僕としてはかなり成長したと思います。特にチャンピオンシップに入ってから前半のロッカールームに入る前に聞こえてくる声の中に、少しずつ勇樹の声も聞こえてくるようになりました。(キャプテンになって)1年目で完璧になったかといえばそうではないですが、着実にステップアップしたと思います。来年以降もリーダーとしてやっていってほしい」

 

 ようやく笑ってシーズンを終えることができた千葉と富樫。船橋発チャンピオン行のフライトは、3年がかりで目的地に到着した。

 

写真/©︎B.LEAGUE

取材・文/堀内涼(月刊バスケットボール)



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