月刊バスケットボール8月号

Bリーグ

2020.11.02

林翔太郎(新潟)、古巣・川崎に“27分17秒”の恩返し

 暮らした街の数だけ故郷があると思うことができれば、人生はとても豊かで幸せだ。

 

 Bリーグ、新潟アルビレックスBBの林翔太郎は、生まれ育った北海道で高校卒業までを過ごした後、東海大九州へ進学のため遠く熊本県へ。さらに、卒業を目前に控えた2018年1月、故郷である北海道深川市出身者では初のプロバスケットボールプレーヤーとして川崎ブレイブサンダースに入団、神奈川県に居を移した。

 

 Bリーグでも常に優勝を争う川崎は、チーム内の競争も厳しく、それまで旭川大高時代のインターハイ出場やU23日本代表の経験がある林にとっても、安定してロスターの枠を勝ち取ることは容易ではなかった。2018-19レギュラーシーズン、出場した53試合の平均プレータイムは9分53秒、平均得点は1.8点。続く2019-20シーズンは新型コロナウイルスの影響でシーズンが途中で終了してしまったとはいえ、出場した22試合の平均プレータイムは4分53秒、平均得点は0.7点と低迷した。

 

 迎えた今年4月、林の名はBリーグの公示する自由交渉選手リストに掲載されるが、6月、求められて新潟への移籍が決まった。

 

きれいなプレーではなく、もっとがむしゃらにプレーしなければ

 

池田(左)や五十嵐ら百戦錬磨のベテランからは学ぶものも多い

 

 2020-21シーズンが開幕して間もなく1か月が経とうとしていた10月28日、新潟は敵地での川崎戦を迎えた。

 

 そこまでの9試合で新潟は3勝6敗と負け越していたが、チームの期待を担った林は、平均プレータイム27分44秒、平均得点は6.6点と奮闘していた。

 

「全然もの足りないと思っています。けれど焦りはありません。チームも大きくメンバーが変わっていますし、連携の部分もまだまだ他のチームと比べたら劣っている部分がありますが、ゲームを重ねるごとに良くなっているように感じています。伸び代しかないと思いますし、練習を積み重ねてさらに良くしていきたいと思います。

 

 個人としては、きれいなプレーばかりしようとしていたので、もっとがむしゃらにプレーしないといけないと思っています。オフェンスもディフェンスも、誰よりも積極的に、泥臭くプレーしていきたいです」

 

 林はそのようにここまでの戦いを振り返った。チームと自身の現状を把握し、課題が明確になっているのは、飛躍的に伸びたプレータイムによるものに違いない。さらに、チームにおける自身の役割と今シーズンの個人としての目標についてこう語っている。

 

「プレシーズンから毎試合、先発出場させてもらっていますので、まずチームに勢いをもたらすようなプレーを求められていると思います。オフェンスだけではなく、ディフェンスでも相手のエースを止めることであったり、スタッツに残らないプレーをしていきたい。もちろん、平均10点以上を目指していますが、その時に求められていることに柔軟に対応してチームの勝利に貢献できることを一番に考えています」

 

 まだ25歳の林にとって、新潟での日々は学びとチャレンジの連続だ。

 

「五十嵐(圭)選手をはじめ、池田(雄一)選手、佐藤(公威)選手は経験が豊富で、練習や試合の時にいつもアドバイスをもらっています。新潟は今年で20周年の歴史あるチーム。その一員であることを自覚して、『新潟と言えば林!』と言ってもらえるようなプレーをしていきたい」

 

 新天地で充実した時間を過ごしていることが、その言葉からにじみ出ている。新潟は林にとって、第四の故郷になりつつあるようだ。

 

「新潟はとても暮らしやすいところ。暑いのは苦手なので夏は本当にたいへんでしたが、寒いのは得意なので、最近は涼しくなってきてうれしい(笑)。食べ物もおいしいですし、(チームの拠点の一つでもある)長岡は特にラーメンが美味しいです」

 

第三の故郷、川崎への里帰り

 

かつての仲間やファンの前で成長した姿を見せられた

 

 10月28日、とどろきアリーナで行われた川崎との試合、新潟は69-92で敗れた。

 

 林にとって移籍後、初となる古巣のホームでの戦いはどのようなものだったのだろう。

 

「試合前はとても緊張していました…前日からですが(笑)。けれど、試合が始まってからは本当に楽しかったです。負けてしまいましたが、シンプルに試合を心の底から楽しむことができました」

 

 ティップオフ直前、林は川崎のベンチに向かって手を振り、笑顔で軽く頭を下げていた。

 

「川崎の選手たちやスタッフの皆さんに『お帰り!』と言っていただきました。本当にうれしかった」

 

 ゲーム終盤、川崎の厚いディフェンスの前になかなかシュートチャンスに恵まれなかった林は、エアポケットのように訪れた僅かなチャンスに3Pシュートを放ち、ボールは見事リングに吸い込まれた。その瞬間、本来アウェイであるにもかかわらず、会場の拍手が林を包み込んだ。

 

「川崎のファンの人たちが本当に温かく迎えてくださって、一選手としてとても幸せでした。成長した姿をコートで見せることが恩返しになると思うと、また頑張ることができます」

 

 この試合後の会見で、林と同期で川崎に入団した青木保憲は、林についてこんなふうに語っていた。

 

「プレシーズンから何試合か新潟さんでのプレーを見ていて、(林は)すごく楽しんでいるなと感じました。シュートも思い切って打っていますし、持ち味のランニングプレーも出ていて、伸び伸びプレーしているなと。今日の試合は、同じチームで戦った同期が(相手チームに)いるということで負けたくないという気持ちもありました。特別、言葉を交わすことはありませんでしたが、試合中(近くに行ったときに)軽くポンポンっと(笑)。同期と別のチームで戦うというのは初めてのことなので、すごく新鮮な感覚がありました」

 

大活躍だった青木。この写真で青木の背中を追う林の存在に駆り立てられた部分もあったはずだ

 

 故郷とは、そこに心が通じ合う人がいる…ということでもあるのだろう。

 

「(青木とは)3年間、川崎で苦しいときも楽しいときも一緒に頑張ってきた仲なので、いつも刺激を受けています。この試合も、敵ではありましたけれど青木の活躍はうれしかったですし、僕も負けていられないなと改めて思いました。初めてプロに入ったときの同期なので特別な思いがあります。これからもお互いに切磋琢磨していけるよう努力しなければ…そう思わせてくれる存在です」(林)。

 

 この試合、林のプレータイムは27分17秒、そして7得点を挙げた。単なる数値ではなく、そこにはかけがえのない友である青木への思いや、第三の故郷である川崎への恩返しの気持ちが込められていたに違いない。

 

写真/©︎B.LEAGUE 取材・文/村山純一

 

(月刊バスケットボール)



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