月刊バスケットボール6月号

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2022.05.22

町田瑠唯は「短時間でもゲームを変えられる」 - ナターシャ・クラウドからの期待と激励

 ワシントン・ミスティクスの一員としてWNBAデビューを果たしてから6試合に出場した町田瑠唯。日本時間5月21日(北米時間20日)に行われた直近のアトランタ・ドリームとの一戦では、それまでで最少となる8分45秒の出場で無得点、2リバウンド、3アシストにとどまった一方で、第3Qから第4Qにかけての劣勢を跳ね返す逆転ランで中心的な役割を演じるなど、目を引く貢献ぶりだった。

 


この試合はお互いに4勝1敗同士で首位の座を争う2チームの激突であり、ミスティクスには今春のドラフトで全体3位指名を受けたシャキーラ・オースティン、ドリームには同全体1位指名のライン・ハワードという期待のルーキーがいることから、高い関心が寄せられていた。第1Qはいきなり “激熱ルーキー・バトル”が全開で、オースティンはこのクォーターに放ったフィールドゴール4本すべてを成功させて8得点。ハワードはその上を行く3Pショット4本すべてとフリースロー3本すべて成功の15得点。両者の強烈なパフォーマンスが試合全体のインテンシティーを高めたことも影響してか、前半終了時点で44-44の同点という非常に引き締まった内容だった。

 

ライバル相手のアウェイゲームで逆転劇を演出した町田


町田は第1Q残り3分57秒にベンチから登場。最初の見せ場はコートに入ってすぐのオフェンスで、フロントコートに入って最初に捌いたパスがケネディー・バークのドライビングレイアップにつながりいきなりアシストを記録。第1Q終了間際には、ナターシャ・クラウドの3Pショットがこぼれた後、ルーズボールに飛び込んでジャンプボールに持ち込んだシーンもあった。このプレーは町田にとって、WNBAキャリア初のオフェンスリバウンド。しかし残念なことに、ナイスプレーだったにもかかわらず続くジャンプボールで相手ボールとなったために、記録上ターンオーバーもつけられてしまった。


そのプレーに続くディフェンスではリバウンドに食らいつき、瞬時に速攻に転じフロントランナーとなったクラウドに鋭いバウンドパスを送る。クラウドはこのプレーでファウルを受けフリースローで2得点を奪い、ミスティクスは第1Qを27-25で終えることができた。これもアシストはつかなかったものの、町田のおぜん立てが得点につながった場面だった。


後半、52-58と劣勢に立つ第3Q残り1分7秒にコートに立った町田は、ここから第4Q残り6分19秒まで続けてプレーしたが、その間にアシスト2本を含む好プレーでチームに良い流れをもたらした。


この流れでの最初の見せ場は第3Q最後のポゼッションで、センターフォワードのエリザベス・ウィリアムズのレイアップをアシストしたプレーだ。最終クォーターに突入する直前に反撃ムードに拍車をかけたこのプレーで、町田はウィリアムズとのハイピック・プレーで相手のディフェンダー2人が寄ってきたところでゴールに向かってスリップしたウィルアムズに絶妙なバウンドパスを通した。

 

 第4Qが始まってすぐ、町田は最初のポゼッションでドライブ&キックからシャトリ・ウォーカー-キンブローの3Pショットをおぜん立て。次のオフェンスでも、オフボールのスクリーンプレーでワイドオープンになったウォーカー-キンブローにパスをつなぎ、そこからウォーカー-キンブローがキャッチ&シュートでファウルを獲得。フリースロー3本を決めた。インターバルをはさんでのこの3ポゼッションすべてで得点を演出した町田の存在感は、数字以上に大きかった。

 

 試合後マイク・ティボーGM兼HCは、町田の出場時間が短くなった背景について、「この試合では早い時間帯に非常にフィジカル面が強いプレーヤーを起用しました。ナターシャも非常に良いプレーぶりで16得点、5アシスト。リバウンドも良く取っていましたからね。人によって出場時間が偏ってしまう夜もあるものです(“I mean it was a game where we were playing you know some very physical players early. And then you know Natasha was playing so well tonight. I mean you know Natasha had I think 16 points, 5 assists and rebounds. There are going to be nights some people play more than others.)」と説明した。

 


アトランタ・ドリームとの試合後の会見dねおマイク・ティボーGM兼HC(画像をクリックするとインタビュー映像が見られます)


町田の活躍については、「今日は経験の多いプレーヤーを長めにプレーさせたのですが、彼女を起用した後の第3Qから第4Qの序盤にかけてウチは勢いづきましたね。ナターシャを常にボールを持っていなければならないというプレッシャーから、一緒にプレーした数分間は解放してくれたと思います。(This was one of those ones where you know I kept the group out there that you know has been here longer, more experienced. But yet she came you know and as you said in the third quarter and the start of the fourth, we got a little bit of roll going. It took some pressure off Natasha to not have to handle the ball the whole time. We played them together for a few minutes.)」と評価。「日々皆の状況は変わりますから。今夜は偶然こんな形になりました(You know from night to night, things are going to hanged or everybody. Tonight was just one of those nights)」と話し、町田の出場時間の短さが評価の良し悪しとは無関係であることを強調していた。


ティボーGM兼HCは先週、ウィリアムズがチームに合流した際の会見でも、充実したタレントがそろうロスターの中でいかに出場時間を管理するかについて、「それが一番難しいかも…」と苦笑いで答えていた。その中で町田の出場時間に増減が出るのもいた仕方がない面があるようだ。

 

得点はもっと狙ってかまわない


ティボーGM兼HCに続いて会見に登壇したスターティングガードのクラウドは、「9分でも29分でも、ルイはゲームを変えられる。いろんな良い形でチームにとって大きな存在になってくれています(Nine minutes, 29 minutes, Rui impacts the game. She impacts our team in so many positive ways. You’re seeing the depth of our bench)」と自らをバックアップする町田の存在感の大きさを高く評価していた。「ウチは誰が出てきても柔軟に対応していけることを見せてくれています。ルイはみごと。(渡米して)いきなりの活躍ですからね(You’re seeing the versatility and the ability to sub in and out a lot. Rui’s just phenomenal. She’s been great from the jump)」

 


左から会見に登壇したナターシャ・クラウド、シャキーラ・オースティン、アリエル・アトキンス(画像をクリックするとクラウドのインタビュー映像が見られます[1分15秒過ぎあたりから])

 


「言葉の壁があってもチームをけん引してペースを高め、オープンのチームメイトにパスを送り、自分でも攻めて、ディフェンスもとにかく厳しくて、コワいくらい。コートの隅から隅までついていきますから。彼女がいることでうちはタフになれるし、ディフェンスに志向性が生まれています。すごく助かっているし、これからもウチのためにすごい活躍をしてくれるでしょう(She caught up, I mean, to have a language barrier and still be able to lead our team, to be one of the leaders to push pace, to find open teammates, to find herself and then defensively she’s just tough. She’s mad. She’s guarding you 90 feet from the basket. She gives us just the toughness and then intentionality on the defensive end. So Rui’s been great for us. she’s going to continue to be great for us.)」


クラウドは一つアドバイスもしている。「もっと得点を狙っていいよ」ということだ。この試合でフィールドゴールアテンプトが3Pショット1本だけで無得点だったのを見ているからだろう。「彼女にはもう少しゴールを狙ってほしいですね。これは言い続けていこうと思います。彼女が頑張っているのは知っていますから、こっちも信頼しています。もっと狙っていってほしいです(We just need her to shoot the ball a little bit more. And we’re going to continue to tell her that because she puts in the work and we trust her and we need her to shoot that ball)」


クラウドは昨年、ヨルダン代表の一員としてFIBAアジアカップ2021ディビジョンBに出場している。実力的には圧倒できるレベルのヨルダン代表で、クラウドはほぼセットアッパーの役割に徹していた。言葉の壁がある中で、独りよがりにならずチームに期待される最大限のポジティブをもたらすために、自らが選択した役割だった。町田とはほぼ同世代(1歳上)で、知らない世界にいきなり飛び込む同じような体験もしているクラウドの言葉には特別な意味もありそうだ。

 

 クラウドと町田の経験で違っているのは、今両者が立っているのがアジアのディビジョンBではなく、女子バスケットボールの世界最高峰だという点だ。その舞台で遠慮してはいられないことを、クラウドは知っている。「できるんだから、やっちゃえやっちゃえ! 数字として得点も残した方がいいよ」。ほがらかだが芯の強い姉御肌のクラウドが、そんなふうに町田の背中を押す情景も浮かんでくる。その激励を受けて町田がどんな成長を見せるか、今後が楽しみになる会見だった。



取材・文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)



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