月刊バスケットボール5月号

Bリーグ

2022.05.15

秋田ノーザンハピネッツがもう一つ上に行くために育つ、育てる - 前田顕蔵HCの思い

 バスケットボールが盛んな地域の一つとして知られる秋田県の県庁所在地、秋田市をホームタウンとする秋田ノーザンハピネッツ。老若男女、職業も何も問わずバスケットボールに関心を持つ人が多いこの土地で、県内初、東北では仙台89ERSに次ぐ二つ目のプロバスケットボールクラブとして、2010年のbjリーグ公式戦初登場以来愛される存在として発展を続けてきた。

 


クラブ創立以来初のチャンピオンシップ進出。2021-22シーズンは秋田ノーザンハピネッツにとって飛躍のシーズンとなった(写真/©B.LEAGUE)

 

飛躍のシーズン、初のチャンピオンシップ進出


Bリーグ創立初のシーズンだった2016-17シーズンの成績はB1で18勝42敗(勝率.300)。東地区6チーム中5位と振るわず、B1残留プレーオフ1回戦で横浜ビー・コルセアーズに2勝1敗で敗れてB2降格の屈辱を味わった。しかし翌2017-18シーズンには、B2でその時点でまでのBリーグ最高勝率となる 54勝6敗(勝率.900)の成績で東地区優勝を果たし、1シーズンでB1に舞い戻った。以降昨シーズンまで勝ち越しで終わったことはなかったが、2021-22シーズンは31勝23敗(勝率.574)とクラブとしての歴代最高成績を手にし、ワイルドカード下位としてクラブ初のチャンピオンシップ進出を果たした。負けられない状態で勝ち続けて、シーズンの最終日につかんだ成果だった。


5月13日・14日の両日に沖縄アリーナで行われたクォーターファイナルでは、B1史上最高勝率で勝ち上がった琉球ゴールデンキングスを相手に初戦60-74、第2戦56-77のスコアで敗れた。「この2試合が自分たちの現在地」。シリーズ敗退が決まった後、前田顕蔵HCは飛躍のシーズンの幕切れをそんな言葉で評価した。


課題は数字に現れている。トランジションが速く、フィジカリティーの強さを生かしてどう猛にリバウンドに食らいつく琉球のスタイルに40分間対抗し続けることができなかった。どちらの試合も勝負がかかった第4Qに、ほぼ2倍の差でリバウンドの勝負に負けた(初戦5-10、第2戦7-13)。ターンオーバーの数もどちらも第4Qに琉球の2倍犯していた(初戦4-2、第2戦6-3)。ターンオーバーは2試合全体の合計で36個。そこからの失点が35あった。オフェンスでは、最大の武器である3Pショットが初戦で18本中4本(成功率22.2%)、第2戦が16本中3本(成功率18.8%)。琉球のアグレッシブなディフェンスの前に、持ち味を完璧に封じ込められてしまった。


逆に良かった点もいくつもあった。レギュラーシーズンにリーグ5位の平均84.4得点を記録していた琉球のオフェンスを、平均75.5得点に抑えることができた。どちらの試合も第1Qは僅差ながらリードして終えていた。初戦では第4Q開始から9-3のラン、第2戦では第3Qに17-3のランと、自分たちの時間帯を作ることもできていた。またどちらも一度は2ケタ点差で劣勢に立ちながら、第4Q半ばに4点差まで詰め寄る場面があった。

 

 その時間にリバウンド1本、ターンオーバーを1本我慢、3Pショット1本がこのシリーズでは来なかった。

 


チャンピオンシップでも攻守で闘志あふれるプレーを見せた中山拓哉(写真/©B.LEAGUE)


初戦の第4Q、12点差から4点差に詰める9-3のランで7得点を挙げたのが田口成浩だった(写真/©B.LEAGUE)


川嶋勇人はアウェイの独特な雰囲気にも動じず、初戦でチームハイの13得点を記録した(写真/©B.LEAGUE)

 

 


今シーズンのブロック王アレックス・デイビスは第2戦で6本のショットを豪快に叩き落した(写真/©B.LEAGUE)


攻守に要となる存在のジョーダン・グリン。今シリーズでは特にディフェンス面で堅実な貢献を見せていた(写真/©B.LEAGUE)


どちらも2ケタ点差をつけられての黒星だったが、最終的な点差以上に緊迫感のあるシリーズだったし、勝てるチャンスはあった。琉球との差は、今のハピネッツにない「勝負強さやリードをひっくり返させない強さ」があったこと。前田HCは会見でそう語っていた。それがハピネッツの現在地ということなのだろう。

 

地域・支援してくれる人々と一緒になって進みたい


アウェイの地で初日が5,680人、2日目が6,743人という大観衆が集まったシリーズは、誰にとっても簡単なものではないだろう。その中でもレギュラーシーズン最強チームを相手に秋田らしいバスケットボール、秋田県のチームらしい粘る強さを見せることはできたのではないだろうか。

 


気持ちを込めてプレーした古川孝敏。第2戦はゲームハイの15得点でチームを鼓舞した(写真/©B.LEAGUE)

 

 前田HCに続いて会見に登壇した古川は「秋田らしさ、全力で皆が気持ちを出して戦えたところは本当に誇れること」と話し、声を詰まらせた。「もちろん結果を獲れるのがベストだと思います。でもチームとして戦えたので、胸を張って帰れると思っています」。秋田県人の“バスケットボール目”は厳しい。地元の人々が恥ずかしく感じるようなプレーなどできない――目を赤くして答えた古川の言葉から、大きな期待に応えようとの思いを持って懸命に戦った闘士の悔しい思いが伝わってきた。

 


前田顕蔵HCは自らに言い聞かせるように「個人として何よりも自分が成長しなければいけない」とも話していた(写真/©B.LEAGUE)

 

 

 飛躍のシーズンは終わったが、ハピネッツはこれまでよりも高い目標をあらためて描くべきスタートラインに立っている。これからどんなチーム、どんなクラブになりたいのか、目指すべきなのか。前田HCが敗退後の会見で話した内容を最後にまとめておきたい。


――バスケどころの秋田県で今後クラブとしてステップアップを考えたときに、どんな思いを持っているか


秋田の人たちはハピネッツのことを本当に大切にしてくれています。能代工業高校(現能代科学技術高校)、秋田いすゞ(1984年に当時のトップリーグだった日本リーグの2部に所属し、天皇杯優勝の快挙を成し遂げたチーム)の歴史がある中でハピネッツができて、その中で育てられたクラブだと思っています。
僕たちの歴史としては、B2に降格して、戻ってきて今のチームを育てているクラブです。今回CS(チャンピオンシップ)に出られたことはもちろん、秋田の皆さんにとってもクラブにとっても選手たちにとっても、僕自身にとっても大きな経験になったのは間違いありません。ただ、この現在地からもう一つ上にいくには何が必要かを突き詰めて育てていく、育っていくことを思い描いています。それがブレることはありません。
選手たちの成長、クラブの成長に何が必要かというと、基本的に僕たちはチーム、フロント、ブースター、地域のスポンサーの方々と一緒に進んでいくことが大事です。あらためて沖縄アリーナにきて、多くの人が感じたことだと思うのですが、これが秋田にあったら、このアリーナが秋田にできたら、クラブとして大きなことだと思います。そう感じることができたのも非常に良かったのかなと思います。


――チャンピオンシップで得たもの、刺激になったこと


この経験を無駄にしてはいけない。自分たちの現在地はここ。琉球との差は何なのかをしっかりそれぞれが見つめて進んでいくことが大事です。
CSに出るということは優勝する可能性があるステージに入ったことであり、一つ大きな経験でした。ただ、簡単じゃない。ホームでできることの強み、小さなミスがゲームを決めてしまうことを経験した大きなステップでした。

 

文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)



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