月刊バスケットボール5月号

Bリーグ

2022.05.13

B1最高勝率の琉球ゴールデンキングスはこれまでとどう違うのか

 琉球ゴールデンキングスは、2008年のbjリーグ制覇で沖縄のプロスポーツチームとして初めて日本一を達成して以来、Bリーグスタート以降も毎シーズン好成績を収めてきた。しかし、今年こそBリーグでの初優勝を達成するのではないかという期待や予想が毎年のようにあった中、過去5シーズンそれは実現されていない。

 

Bリーグ創立後初の日本一を目指す琉球ゴールデンキングス。B1歴代最高勝率をマークした今シーズンはチャンピオンシップでの戦いぶりにもこれまで以上の注目が集まっている(写真/©B.LEAGUE)

 

 開幕節に、大型補強で話題となったアルバルク東京に対しホームで連勝という好スタートを切った今シーズンは、リーグ全体1位となる49勝7敗(勝率.875)でリーグ戦期間を終えた。この成績はクラブとして過去最高だっただけでなく、リーグ戦期間におけるB1全体の過去最高勝率だった。11月14日の対群馬クレインサンダーズ戦から、年をまたいで今年の3月9日に行われた広島ドラゴンフライズとの試合までは、Bリーグ新記録となる20連勝も達成。天皇杯では初の4強入りも達成した。


今年のキングスはさまざまな点がこれまでと違う。どんな結果を導けるかは誰にもわからないが、これまでと違う点を並べると、そのまま“異なる結果”を得られる可能性も感じられる。

 

昨シーズンとの違い(1) コーチ交代とロスターの変質


琉球のコーチングスタッフには、昨年まで2シーズンに渡ってチームを率いた藤田弘輝現仙台89ERS HCに代わってbjリーグ時代に琉球を初の日本一に導いた桶谷 大HCが復帰した。また、桶谷HCを支えるアシスタント陣にも栗野 譲、東山 真(ともにAコーチ兼通訳)と新たな人材が登用されている。桶谷HCは、琉球のバスケットボールカルチャーの土台を築いた人物の一人と言える存在であり、創立2シーズン目で日本一達成という飛躍の歴史を実体験として語れるリーダーだ。

 


桶谷 大HCはbjリーグ時代に2度琉球を日本一に導いている(写真/©B.LEAGUE)


ロスターも変動している。バックコートでは、ベテランの石崎 功が引退した一方で、昨シーズンまで千葉ジェッツに所属していたコー・フリッピンが加わった。フリッピンは今シーズン7.5得点、1.8リバウンド、3.2アシストにリーグ5位の1.4スティールのアベレージを残し、移籍後早々大きなインパクトをもたらした。豪快なダンクで沖縄アリーナを沸かせることもしばしばあり、祖父が沖縄在住という縁もあることからホームのファンの人気も高い。出場するたびにチームに勢いをもたらす存在となっている。

 

 フロントラインではキム・ティリ、船生誠也はチームを去ったが、小寺ハミルトンゲイリーとアレン・ダーラムというフィジカルが強いビッグマンが加わった。小寺は身長206cm、体重130kgの帰化プレーヤーで、数字に現れにくいスクリーンセッターとしての仕事や巧みなボールさばきなど、サイズだけではない存在感を見せている。ダーラムのフィジカリティーはどのチームにとっても脅威だ。身長198cm、体重100kgでパワーフォワードとセンターという登録データは、フロントラインとしては小柄だが、体の使い方のうまさとスピードを強みとして平均14.9得点、7.6リバウンド、2.6アシスト、フィールドゴール成功率54.3%、3P成功率32.3%と、数字上もわかりやすい活躍を続けてきた。

 


古巣千葉ジェッツ相手に豪快なダンクを決めたコー・フリッピン(写真/©B.LEAGUE)

 

 プレーメイク面のキーマンである並里 成(平均6.0得点、3.7アシスト、0.8スティール)、リーグ9位の平均17.1得点を記録したドウェイン・エバンス、平均10.4リバウンドがリーグ3位のジャック・クーリー、3P成功率ランキングでリーグ9位となる38.4%を記録した岸本隆一ら既存戦力に、カギとなる新加入プレーヤーの力が溶け込んだことで、見るからにスピード感とフィジカリティーの高い “キングス・バスケットボール”がこれまで以上のレベルで展開できるようになった。また、桶谷HC体制下で、究極の目標達成のために自己犠牲いとわない姿勢が、上記で触れたプレーヤーだけでなくチームの全員から発散されている(後述のプレーヤーたちのコメントも参照)。昨シーズンまでそういった特徴がなかったということではなく、それらがアップグレードされたことを今シーズンの成績は示していると言えるだろう。

 

 

新加入のビッグマン、アレン・ダーラム(上)と小寺ハミルトンゲイリー(写真/©B.LEAGUE)

 

 


昨シーズンとの違い(2) 数字上の変動


コーチ陣とロスターの変動に加え、個々の精進の結果として、チーム全体のパフォーマンスがアップグレードされていることは、スタッツからも感じることができる。今シーズンのキングスは得点(84.4)、リバウンド(40.9)、アシスト(21.1)、スティール(7.6)、フィールドゴール成功率(47.4%)、3P成功率(36.5%)でいずれも過去最高の数値を記録した。この中でリバウンドはリーグトップ。この項目で琉球がトップとなったのは初めてのことだ。また、得点(5位)、フィールドゴール成功率(6位)、3P成功率(5位)、アシスト(8位)、スティール(4位)もトップ10に入る好成績だった。ターンオーバー(12.0)も少ない方から数えて9位タイ。これらそれぞれが高い勝率を実現できた大きな要因だ。


3Pシューティングに関しては、岸本と今村圭太の日本代表における経験も影響しているように感じられる。両者はトム・ホーバス日本代表HCの下で機会を得てFIBAワールドカップ2023アジア地区予選でプレーしたが、そのセレクション過程では3P成功率とディフェンス力が重要な要素だった。

 


写真上=今村圭太 下=岸本隆一(©FIBA.WC2023)


岸本は昨シーズンも3P成功率38.7%でリーグ10位に名を連ねており、今シーズンはそのレベルをほぼ維持した形で数値としては上昇してはいない。ただしアテンプトは1試合多くプレーした昨シーズン(56試合で282本)よりも、今シーズン(55試合で310本)の方が多く、積極性を増しながら精度を維持したと言うことができる。今村に関しては昨シーズンと今シーズンで同じ56試合に出場してアテンプトが281本から313本へ、成功率も34.9%から37.1%へと上昇した。チームとしての精度向上は、両者の意欲的な取り組みがチーム全体を触発した結果とも推察できる。その裏にあるリバウンダーたちのリーグ1位の頑張りも光っている。

 

 


昨シーズンとの違い(3) 沖縄アリーナを満員にできる

 


5月4日の対千葉ジェッツ戦は8,263人の大観衆が沖縄アリーナを埋めた(写真/©B.LEAGUE)

 

 これまでファイナル進出を達成できていない琉球にとってもう一つ大きな違いは、ついに沖縄アリーナを満員にできるようになったことだ(今後のコロナ禍の動向にもよるが)。5月4日に行われた千葉Jとのホームゲームでは、8,263人の大観衆を集めることができた。


桶谷HCが「こんな時代が日本にきたんだ。ホームで8,000人…。これから子どもや孫に自慢できるなと思いました」と言い表したその情景の中で行われるチャンピオンシップで、やはりファンの力も大きく試合を動かすことだろう。アウェイのチームを応援にしにくるファンももちろんいる。夢のアリーナを満席にして行われるチャンピオンシップ・シリーズでどんな情景ができ上り、どんな展開が待っているだろうか。この点は琉球ファンだけではなくバスケットボールファン全体の興味の対象にもなりそうだ。


桶谷HCはシーズン最終戦後の会見でも、「CS(チャンピオンシップ)で勝つためには沖縄のファンの皆さんの力が何としても必要です」と語っていた。「僕たちを勝たせてくれるのは間違いなく沖縄アリーナ、沖縄の人々の声援。僕たちにとってはめちゃくちゃ大切なシックスマンです」。ファイナルは東京体育館だが、そこまでに至る戦いを勝ち進むとすれば、その舞台は常に満員の沖縄アリーナ。これは昨シーズンまでになかった要素だ。


プレーヤーたちが感じる「今シーズンのキングスの強さ」


終盤戦以降琉球を取材する機会があるたびに、可能な範囲で今シーズンのキングスがそれまでと比べてどう強くなったと感じるかを質問させてもらった。その中で岸本は、「どういう状況下においても、それぞれが自分の役割を全うするということが例年になくすごく強かったと思います」と話し、チーム全員の姿勢や意識の高まりを要因として挙げていた。シーズン中の故障離脱への対応も大きな課題だったようで、「キャプテン(田代直希)をはじめチームメイトのケガが多くて、前日まで準備していたことが当日変わってくるというシチュエーションも何度もありました」と振り返っていた。


田代は昨年11月6日の新潟アルビレックスBBとの試合で左膝前十字靭帯断裂、左外側半月板損傷及び左大腿骨外顆骨挫傷により全治10ヵ月と診断され、今も離脱中だ。リバウンドの要のクーリーもウイルス性肝炎で11月から12月にかけて欠場が続き、2月半ば以降は牧 隼利(右足首三角靭帯及び三角骨周囲炎)がプレーできていない。期待のビッグマンとして獲得した渡邉飛勇は、シーズン前に右肘を故障し、結局ここまで1試合も出場せずに過ごすこととなった。そのなかでも好成績を残せたことで、琉球のプレーヤーたちが強い自信を得ていることを、岸本のコメントは感じさせる。


並里は「控えの選手を含め誰が出てもクォリティーが変わらないというのが、今年のキングスの強さだと思います」と話していた。調子の波がある中、「必ず誰かがステップアップしてきたことでシーズンを通じて強さを維持できた」という。また、別の記者とのやり取りでは、桶谷HCの下でキングスのチーム内にプレーヤー同士が言うべきことを言い合う厳しさが、それまで以上に高いレベルで存在していることにも言及していた。

 


今シーズンの琉球には全員が貢献できるチーム一丸の強さがこれまで以上にあることを並里 成は語った(写真/©B.LEAGUE)


小野寺祥太は並里と同じ趣旨の内容を異なる角度から言い表した。「去年もあったものですが、去年よりもチームとして誰が出てもハードにできるという部分が大きくて、出だしが悪くてもベンチから出てきたセカンドチームの人たちが流れを作ることができています。ベンチ、スタートに関係なく全員がチームとしてバスケットボールをできていると思います」。昨年3月に腰椎椎間板ヘルニアの手術を受け、昨シーズンのチャンピオンシップではプレーすることができなかった小野寺は、「一つ一つのプレーが大事になってきますが、躊躇せずにしっかりアグレッシブにいくことを忘れずにやっていきたい」とチャンピオンシップに向けた意欲も語ってくれた。

 


ベンチから貢献をもたらす小野寺翔太は、3P成功率がチーム2位の38.8%。大きな力だ(写真/©B.LEAGUE)

 

 

 

いよいよ本番、チャンピオンシップ


キングスはリーグ戦の最後の5試合が3勝2敗。その中には前述のとおり8,263人の大観衆が集まった沖縄アリーナで千葉Jを破った5月4日の一戦があり、リーグ戦最終日の5月8日に同じ沖縄アリーナで広島に喫した57-86という悔しい敗戦が含まれている。昨シーズンの王者を破った前者では、観客数がリーグ新記録であり、後者では得点57が広島としての最少失点記録樹立を許す結果だった。


シーズン全体の勝率に比べやや不安定な印象を残す終盤戦だったが、琉球にとっては気持ちの持っていき方の点で決して簡単ではなかった流れであることも事実だ。千葉Jとの一戦に92-84で勝利した後の会見で、桶谷HCは、西地区優勝と第1シードを決めて3試合を残した状態で、満員の観客の前でキングスらしいバスケットボールを披露し、昨年の王者でありかつ天皇杯の借りもある千葉Jを倒さなければならなかった難しさを語っていた。


その4日後の広島との最終節第2戦は、前日81-77で勝利したことでB1の過去最高勝率更新を決めた直後。故障者もいる中で普段とはがらりと異なるスターターで臨み、リズムに乗れず序盤から大きく突き離される展開だった。


5,602人のファンが見守る中での29点差の黒星は、リーグ戦最高勝率のチームとして望ましい結果ではないだろう。桶谷HCに「少しやられすぎだったのではないか」と率直に問いかけたところ、「今日見に来てくださったお客さんたちや、会場を作ってくれた関係者の皆さんたちに申し訳ないなという思いがすごくあります。ゲームプランを作ったのは僕で、選手たちはそれに対して頑張ってくれました」と指揮官として責任を感じていた様子だった。それだけに是が非でも勝ちたいチャンピオンシップになっている。「CSの初戦に何としても勝ちたいという思いの中で、(ゲームプランについて)皆も理解してほしいという話を選手たちにしていました。CSの初戦に勝つことで、この結果が初めて報われる、皆さんに許してもらえると思っています。ぜひとも初戦に勝ちたいという気持ちでいっぱいです」


その2日後、チャンピオンシップ開幕3日前の取材会で岸本にこの試合について聞くと、「負けて良い試合などないのですが、西地区1位とリーグ全体1位が決まった後、チームとしてチャンピオンシップをいかに戦っていくかに焦点を当てていこうと話していたので、勝っても負けてもその瞬間に出た課題を次に修正して準備していくことに変わりはないという共通認識を持っていました」との答え。この試合に関する頭の整理はすでに済んでいる様子で、「皆それぞれチャンピオンシップに向けて良いメンタリティーを持っていると思います」と話していた。


リーグ戦全日程を終えた今、終盤で昨シーズンの王者に勝利した後で悔しい思いをした結果として、念願の王座獲得への狙いが再確認されたような状況でもある。この流れが、秋田ノーザンハピネッツとのシリーズにどのような影響を及ぼすかも興味深い見どころの一つだ。西地区5連覇を決めた際のチーム写真に桶谷HCの姿はない。「日本一になったら写真に入りたい」という思いも明確に言葉にしていた桶谷HCのリーダーシップが、クラブの念願をかなえるか。いよいよクォーターファイナルは5月13日(金)からだ。

 

4月23日にホームで島根スサノオマジックを破り、琉球は西地区優勝を決めた(写真/©B.LEAGUE)

取材・文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)



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