月刊バスケットボール6月号

NBA

2022.04.18

緊急事態のラプターズ、渡邊雄太に求められる地道な貢献

 プレーオフ初戦でローテーションのうち3人にアクシデントが起こったトロント・ラプターズ。今シーズンのチームで最も多くスターターを務めたスコッティ・バーンズ(74試合)、ギャリー・トレントJr.(69試合)の2人と、トレードデッドライン直前にチームに加わって以来、即戦力として大きな貢献をもたらした控えフォワードのサディアス・ヤングが、フィラデルフィア・セブンティシクサーズとのシリーズ第2戦当日の4月18日午前12時30分付(北米東部時間)のインジャリー・レポートで、いずれも「Doubtful(危ぶまれる状態)」となっている。

 

主力3人にアクシデント


バーンズは初戦の第4Qにジョエル・エンビードと交錯し、左足の上にエンビードの127kgの体重がかかった状態で足首をひねるという不運に見舞われた。ヤングも初戦第2Qに利き手(左手)の親指を過伸展。初戦でシーズンアベレージ(18.3得点)の半分以下となる9得点にとどまったトレントJr.は、実は1週間程度前から万全の状態ではなかったとのことで、「コロナ以外の体調不良」という発表がなされている。ニック・ナースHCは初戦翌日の練習後会見で、3人が第2戦(日本時間19日[火])に出場できるかどうかについて「彼らは誰も良い状態ではなさそうです(It doesn’t look good for any of those guys)」と話しており、見通しは決して明るくない。


ナースHCは同じ会見で、ローテーションの幅を広げる考えも明かしている。「以前にもやっていたように、誰かを試して出来が良ければローテーションの一角として使っていくような状況(Probably I think it’s going to be one of those situations where you’ve seen me do this before where we’ll try…, maybe try somebody and if they have a good stint, they end up getting the rotational minutes)」と話し、ベンチプレーヤーの名前を複数挙げていた。


今シーズンの後半戦ではほとんどローテーション外で、思うように出場機会を得られずに過ごしてきた渡邊雄太に関しても、「ギャリーが出られない場合には、たぶんユウタにそのポジションでシューターとして期待することになるでしょう。あるいはアルモニ(ブルックス)もそうですね(If Gary is out, we’re gonna have to look at probably Yuta in that position as a shooter, or Armoni there as well)」と話している。初戦の試合前に行われた会見では、渡邊の役割について以下のようにもう少し詳しく説明していた。

 

 

 

 

「試合中4分間から6分間、あるいは8分間程度でしょうか、アウトサイドから狙えるシューターをもう一枚ほしいと感じる時間帯があるんです。数試合前にユウタを起用した際、出来が良かったので結局そのまま12分間プレーし続けましたが、あれが我々のやり方です。役割を渡して、うまくいったら最後まで続けるときもあります」
“We do have at times in games where there is four to six or eight minutes stretch where we feel like we need another perimeter shooter. We stuck Yuta in there a few games ago and he started playing well and that ended up being 12 straight minutes. That’s kind of how we do it. We give you your stint and if it’s going really well, it could turn into the end of the game sometimes.”
「前にも話したように、ユウタは、我々が9人でローテーションを考えている中でギリギリのところにいる状況です。でもその9人がずっと当たり続けたり、良いコンディションでいられるかはわかりません。シリーズ中、皆がずっと万全でいられるかどうか。私の意見としては、彼はその次に出てくるウイングのシューターです」
“And I would say again like I’ve told you before he’s right at that cusp of… you know I think we got nine guys we’re going to play for sure. But that doesn’t mean all those guys are going to be firing or staying healthy or would it be healthy all series long and he would be in my opinion probably our next kind of wing shooter that we would go to in this situation.”

 

 その想定が現実となった今、初戦で自身初のプレーオフ出場を果たした渡邊にとって、第2戦以降の試合は真価を問われると同時に、自らの貢献でチームの窮地を救う機会となるかもしれない。

 


シクサーズとのプレーオフ初戦前の会見でのニック・ナースHC(写真をクリックすると会見のやり取りが見られます)

 

 

ディフェンスでの貢献が大前提


ナースHCはシューターとしての期待を語っているが、得点源の一人であるトレントJr.に代わる役割を一部担うとしても、それはディフェンダーとしてのアグレッシブかつ精度の高い仕事が大前提だ。初戦でシクサーズが131-111の勝利を手にすることができた大きな要因の一つには、ターンオーバーをわずか3つにとどめたことが挙げられている。オフェンスの111得点よりも、131失点が痛かったのだ。

 

 渡邊が出場機会を得られる場合、ファウルトラブルを避けながら、初戦で38得点を挙げたタイリース・マクシーや、22得点に14アシストのジェームズ・ハーデンにタフな思いをさせてミスを誘発すること、重戦車のようなエンビード(19得点、15リバウンド)を慌てさせるダブルチームを遂行すること、トバイアス・ヤングやダニー・グリーンに楽に3Pショットを打たせないことなど、チームメイトと協力して遂行すべき仕事は多い。

 

 渡邊にはどのプレーヤーともマッチアップの可能性がある。一つ一つのポゼッションで小さな仕事をきっちり積み重ねていくことが重要だ。スティールやブロックがなくても構わない。ハーデンやエンビードが困った表情を浮かべる瞬間を何度作れるか。


その上で初戦のダンクのように、ペイントに攻め込んでフィールドゴール1本を決める、あるいはナースHCが期待するウイングからの3Pショットを1本でも決めて、勢いをもたらしたり流れをつなぐことができるようなら、オフェンスに関しても合格点になるのではないだろうか。得点面のメインはフレッド・バンブリート(初戦は3Pショット7本中4本を成功させて18得点)やパスカル・シアカム(チームハイの24得点)、OGアヌノビ(シアカムに次ぐ20得点)らの役割だ。もちろん渡邊自身が2桁得点を記録できたら評価にもつながるだろうが、それ以上に彼らのビッグゲームを引き出すことのほうがラプターズの勝利に直結する重要事項に違いない。


ナースHCは初戦の結果について、シクサーズのアグレッシブさと力強さを称えるとともに、自らの構想自体は良かったにもかかわらず、遂行力が伴わずラプターズらしさを表現できなかったことを悔いていた。層の厚みに関する状況は即座にどうにかなるものではないが、ベンチにいるのはその構想を遂行できるタレントだけ。渡邊ももちろんその一人として、地道でハイレベルな貢献を求められる。シリーズ本番はこれからだ。

 


文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)



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