月刊バスケットボール24年3月号

Bリーグ

2022.03.17

弓波英人- B3新規参入長崎ヴェルカの快進撃を支える「陰の刺客」インタビュー(1)

 現在32勝2敗の成績でB3の首位を走る長崎ヴェルカ。新規参入とはいえ、B1・B2経験者が多く、B1のアルバルク東京を率いていた伊藤拓摩がGM兼ヘッドコーチを務めるチームが“強い”ということは、開幕前から囁かれていた。


このチームにおいて、2月5日に諫早市中央体育館で行われた対豊田合成スコーピオンズ戦で、ちょっとした変化が起こった。それまで出場機会が一度もなかったガードの弓波英人が、初めて公式戦のコートに立ったのだ。

©長崎Velka

 

 

 弓波はNCAAディビジョン1のジョージアサザン大学を3年間で卒業し、昨夏ヴェルカに加わったガードだ。3年で卒業というのは書き間違いではなく、弓波は学業成績が優秀だったために飛び級で学士の称号を得たのだ。大学時代はウォークオンとしてチームを盛り上げる存在だった。将来はコーチの世界での飛躍を目指しており、プロとして加わったヴェルカでは伊藤GM兼HCが構築したコーチングチームをスタッフとしてサポートしながら、プレーヤーの経験を積むというデュアルキャリアとも言えそうな取り組み方をしている。


オンコートのデビューを果たすまでの弓波は、プレーヤーとしてのトレーニングとワークアウトの傍ら、試合中は基本的にスタッフとしてスカウティングデータの収集を担当し、試合がない日は子どもたち相手にスクールコーチも務める日々だった。しかし一生一度の瞬間に、弓波はさすがと感じさせる輝きを見せた。


最初のオフェンス機会で3Pショット成功


105-64と大量リードを奪った第4Q残り2分46秒コートに入り、わずか22秒後のことだった。本人いわく、「いつもならチームメイトたちがやっているハーフコートのセットで、たまたまオープンでゴールは狙うタイミングが巡ってきました」。左ウイングの3Pエリアでボールを受けた弓波は、迷いなくシューティング・モーションに入る。しっかりしたバランス、まっすぐゴールに向かう左手のストロークから放たれたボールは、ズバッとゴールを射抜いた。


この劇的なショットから数日を経た2月の半ば、B3リーグ開幕後としては初めて、弓波にインタビューする機会を得た。

 

©長崎Velka

 


――プロとして初出場した感想はどんなものでしたか?


出場するかどうかは直前までわからなかったんです。試合の前日、帰る間際に拓摩さんから「一応ユニフォーム準備しておいてね」と言われてはいたのですが、当日のウォームアップの時点でもわからない状態でした。
もう試合開始の80分くらい前になってから、拓摩さんに声をかけられて、それまではスタッフとしてほかのプレーヤーのウォームアップを手伝っていたんですが、急いでユニフォームを着て…ということになりました(笑) 拓摩さんには80分前の会話の最後に「Enjoy!」と言ってもらいました。
準備する暇もなくユニフォームを着て、ウォームアップに入りました。普段ベンチでやっていたスタッフの仕事ができなくなるので、その部分のコミュニケーションを取るのに磯野さん(磯野 眞アナライジング・コーチ兼オンザコート通訳)と話さなければいけません。だから試合のことを考える余裕がなかったですね。スタッフの作業もコートに出るまでしていましたし(笑)
残り4分くらいで拓摩さんが後ろを振り向いて、「残り2分で行くから準備しておいて」と言われて、そこから磯野さんに作業をお願いしてベンチの後ろでストレッチをはじめました。


――3Pショットのプレーはデザインされたものだったのですか? みごとに決めましたね、デビュー戦の最初の1本ですよ!


特別なプレーではないのですが、いつもやっているプレーをドローアップした状況で、たまたま空いたという流れです。自分でも正直、決められてびっくりしました! でも、自分で言うのもなんですけど、何か「持っている」と思います。ドライブはミスりましたけど…、レイアップは落としちゃいけないですね(弓波はこの試合でフィールドゴール2本中1本成功の3得点)。

 

©長崎Velka

 


子どもたちの前で見せられて良かった


――ご家族はどんな反応だったか


やっぱり両親は一番喜んでくれました。あの後すぐに、磯野さんがあの部分の映像を切り取って両親に送ってくれたみたいで、本当にありがたい、良いチームに入ったなと思います。


――弓波さんの人気は長崎でも高まっていると思いますが、ご自分ではどんな感覚ですか?


スクールのコーチをしていることもあって、子どもたちがたくさん会場に来てくれています。でもその分きつい部分もありました。小学校1-2年生はダイレクトに「どうして弓波コーチは出ないの?」みたいな質問をぶつけてくるんですよ。だからあのような形で出場できてよかったです。

 

©長崎Velka

 

 将来的にNCAA、あるいはNBAでのコーチとしてのキャリアを夢見ている弓波は、開幕前から「大学時代から憧れていた伊藤拓摩HCの下でやりたい」という思いを語っていた。その伊藤GM兼HCとは、「オファーとしてはプレーヤーでも、コーチングの勉強に重点を置く」という考えを共有している。だからこそ、コートに立つことよりもベンチの後ろでスカウティングデータ収集に全力を注いできた。「スタッフ業務に従事することは当初からの想定内。早いうちに取り組むべき」というのは伊藤HCの親心でもあった。


しかし、プレーヤーとして登録する以上、コート上で輝く瞬間を残したいと思って当然だ。弓波本人の「プロとして胸を張れるだけのパフォーマンスができるようにしておきたい」という思いも以前から聞いていた。


小さな子どもたちに教えるのが好きという弓波には、期待のこもった視線が痛かった日もあったに違いない。しかし、開幕前に「子どもたちの目があるからこそプレーヤーとしての自分を追い込める」と語った弓波の手から生み出された一撃必中の3Pショットは、その十分子どもたちの期待に応えるものだったはずだ。(パート2に続く)

 

 

取材・文/柴田 健(月バス.com)

(月刊バスケットボール)

 



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