月刊バスケットボール5月号

Bリーグ

2022.03.11

11年目の3.11に寄せて - 桶谷 大(琉球ゴールデンキングスHC)

 2011年3月11日はいつもと同じようにやってきた。しかしこの日を境に、突如として人々の生活は大きく変わった。悪魔のような激しい大地の揺れと想像を絶する規模の津波、その後続いた原発事故が、数えきれない人々の生活に甚大な影響を及ぼした。

 

 ある報道によれば今も3万人を超える人々が避難生活を余儀なくされている。未だ行方がわからないままの近親者を探している人々がいる。悲しい、つらい思いをしている人々がたくさんいる。

 

 バスケットボールにかかわる立場として、どんな生き方をすればよいのだろうか。かつて岩手ビッグブルズを率い、現在は琉球ゴールデンキングスのヘッドコーチを務める桶谷 大が、当時を振り返りながら、自身の考え方と被災地・被災者に向けた思いを手記として公開している。

 

©RYUKYU GOLDEN KINGS

 

――当時の状況と心境


震災が起きた時、浜松・東三河フェニックス(現 三遠ネオフェニックス)とのアウェー戦のために移動をしている飛行機の中でした。空港に到着して、そこのテレビに映し出されている映像を見て震災が起きたことを初めて知りました。その時も、最初は「普通ではないことが起きている」ということしかわからず、徐々に「大きな地震が起きて本当に大変なことになっている」と理解していったのを覚えています。
試合も中止になり、チームは翌日すぐ沖縄に戻り、その後bjリーグの3チームが活動中止、リーグ戦も中断となりました。
リーグ戦が再開に向け動いていたものの、毎日のように木村さん(木村達郎代表取締役社長)と「日本がこのような未曾有の危機に直面している状況で、我々は本当にバスケットボールをしていていいのだろうか」と、正しい答えのない会話をしていたのを覚えています。
最終的には、こういう状況でプロスポーツチームの本当の存在意義は何なのかと考えた際に”スポーツの力で少しでも多くの人へ希望を届けること”、それができるのであれば、「我々はバスケットボールをやらなければいけない」という結論に達しました。もちろん選手もスタッフもこの状況でプレーするという選択をすることは本当に難しかったと思います。

 

©RYUKYU GOLDEN KINGS

 

 

――仙台89ERSから志村雄彦(現仙台89ERS社長)のキングスへの特別加入


活動中止となった仙台89ERSから志村選手が特別加入でキングスの一員としてプレーすることになり、チームに合流した際に、現地のことや状況を選手やスタッフに話をしてくれました。彼の言葉を聞いて、自分に何ができるのだろうと考えさせられていたとき、志村選手が「忘れないでください」ということを言っていて、その言葉は今でも自分の心に残っています。

 

――自分にできることを求めて岩手ビッグブルズへ


2011-12シーズンにキングスで優勝、そしてそのオフにキングスとの契約を終え、自分自身まだ若く優勝直後でもあり、モチベーションをどこに持っていこうか迷っている時期がありました。そんな中、契約終了のリリースが発表された直後に岩手ビッグブルズから「優勝ヘッドコーチとして岩手に力を貸して欲しい」と連絡がありました。
震災があった後から、中古も含めてバスケットボールシューズをかき集めて被災地にいる子どもたちに送る活動はしていました。ただ、岩手からのオファーがありあらためて「自分が今持っている力で岩手のために何かできるのであれば」という思いから、その他クラブからのオファーをお断りして岩手ビッグブルズで活動する事を決めました。
岩手に行ったときに最初に連れて行ってもらったのが被害の大きかった沿岸部でした。中心部から沿岸部に行くのも困難で、そして復旧が始まっているのかわからないほど震災の爪痕も残っていましたし、思っている数十倍復旧作業が困難なことであると痛感したのを覚えています。

 

――岩手の人々との交流であらためて感じたスポーツの力


岩手時代に、被災した学校に行きクリニックや交流イベントなどを行っていたときに、「岩手ビッグブルズは地域の人たちのために頑張っているし、岩手ビッグブルズには入れるかわからないけど僕も地域の人のために頑張りたい」と言ってくれた男子生徒がいて、その子が数年後にその沿岸地域で消防士として地域を支えていると聞きました。
その他にも多くの方と話をして、「岩手ビッグブルズを見て元気になった、前向きになれた」とおっしゃってくださる方が大勢いて、すべての人ではないですがスポーツの力で希望を届けることができるということを実感できました。そして、これこそがプロスポーツチームで活動する我々の存在意義だと今でも思っています。そういう思いを常に持ち続けていて、東北にある仙台89ERSでの活動を決めたのもそういった思いで決断しました。

 

©RYUKYU GOLDEN KINGS

 

―――今の自分の芯となる思い


プロスポーツチームとして成績を残すことは大事だと思います。ただ、強ければいい、自分達だけお金儲けできればいいというのではなく、ファンや地域の方、応援してくださる皆さまが我々に期待していることは勝敗以上の部分にも多くあって、それを、バスケットボールを通じて表現し続けることが我々プロの使命だと思っています。
多くの方が死や絶望を経験してなお、大きな使命を持って生活、仕事をしているのを目の当たりにしてきて、自分がちっぽけに感じましたし、目の前の勝った負けたに一喜一憂することは本当に小さいことだと感じています。勝敗以上のことを伝え続けることが大事ですし、そのような形で、震災から今までの経験や考えてきたことが今の自分の芯の部分に根付いているんだと思います。

 

 

11年目の3.11に寄せて - 与那嶺 翼(琉球ゴールデンキングスU18 HC)

 

(月刊バスケットボール)



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