月刊バスケットボール6月号

NBA

2022.03.03

“マイガイ(My guy)”渡邊雄太を元気づけるパスカル・シアカム - ラプターズのケミストリーを象徴するリーダーの笑顔

 日本時間3月2日(北米時間3月1日)にトロントのスコシアバンク・アリーナで行われたトロント・ラプターズ対ブルックリン・ネッツの試合後会見の場で、ラプターズの中心的プレーヤーであるパスカル・シアカムに、渡邊雄太についてコメントをもらう機会を得た。この試合でシアカムは18得点、8リバウンド、6アシストを記録し、109-108の勝利に貢献した。ファウルアウトしたことは不運だったが、終始ゾーンディフェンスというNBAでは珍しい戦術で対抗してきたネッツに、自身の得点力をうまく生かして揺さぶりをかけ、チームオフェンスをけん引していた。

 


渡邊はこの試合で出場機会を得られなかったが、このところ目に見えて復調してきている。この日と同じネッツを相手にブルックリンで行われた前日のアウェイゲームでは、第4Qに豪快な“ポスターダンク”をたたき込むなど7得点、4リバウンド、1アシスト、1ブロック。1月から2月上旬にかけては調子を崩して出場機会が減ってしまったが、オールスター・ブレイク明けの3試合ではフィールドゴール成功率、3P成功率とも60.0%を記録しており、シューティングタッチも明らかに向上している。現状ではベンチから登場する10番目、11番目のプレーヤーだが、その位置としては“贅沢”なオプションをニック・ナースHCに提供する存在になってきた。


チームの主力として、大きな波に揺さぶられた今シーズンの渡邊をシアカムはどのように見ているのか。以下のシアカムの回答からは、信頼や期待の中で良好な関係が作られていることが感じられた(シアカムの回答のみ本人の英文回答もつけました)。

 

 

ユウタのダンクは10点満点の20点!!


――東京からの質問です。渡邊雄太選手について聞かせてください…。


もちろんです、わかっていますよ! 僕のことには興味ないんでしょう!(本人も会見場大爆笑) ユウタについてどんなことを知りたいんですか?

Of course, I know, I know! You don’t care about me bro! What do you want to know about Yuta, my guy!?

 

――昨夜のものすごいダンクについてです。スコッティ(バーンズ)は10点中8点と言っていましたが、あなたはどう採点しますか?


あのダンクですか!? 10点満点の20点です!!
Oh, his dunk!? 20 out of 10!!

 

――え?10点中20点ですか!?


ええ、すごかったです。僕の反応を見ましたか?思わず立ち上がっちゃったじゃないですか。あれは日本中で流されろだろうと聞きましたし、そうなってもらいたいです。あれはタフでしたね!
Yeah, awesome. Did you see my reaction like I was…, I was up, man. Yuta, I think somebody said it’s gonna be all over Japan and I hope it is. He was…, it was tough!

――オッケー。で、もう一つですが…。


彼、「オッケー」くれましたよ(会見場の記者たちに笑顔を見せながら)
He said “okay”!


――明らかに彼は1か月ほど苦しんでいました。あなたは何か激励や助言などをしましたか?


ええ、でもユウタは大丈夫ですよ。僕はユウタが大好きです。いつもつついてやるんですよ、時間があれば彼のところに行って元気を出すようにね。ここはNBAだということは何度も繰り返し話していますが、どこかで必ず機会が訪れます。ユウタはとても良いヤツです。一緒にいて気分の良いヤツですよ。その彼が一日一日しっかりやるべきことをやっている。そんな男には常に機会がやってきます。彼は間違いなくその機会を生かせると思っていますよ。だから「このまま頑張れ、機会は必ず来るから」ということを話しています。
Yeah, no like…, Yuta is great man. I love Yuta. And I always poke at him you know every time I every… check him every second that I get you know just keep his spirit up. And again, it’s the NBA. I feel like I keep repeating myself but we all got to get an opportunity at some point. Yuta is a great person. He’s a great guy to be around. And he gets his work done every single day. You know I think that guys like that will always get an opportunity. And I‘m sure he’s going to run with it when it comes. So, I’m just you know, yeah, like “stay with it and the opportunity is coming”

 

 

優しさと気合いでチームをけん引するオールスター


このやり取りの前にシアカムは、渡邊と同じように前半戦で苦しんだマラカイ・フリンの復調について、厳しいNBAの世界で我慢強く努力した結果機会を得、それを生かしていると話していた。

 

 このインタビューの翌日、シアカムはラプターズのGリーグチームであるラプターズ905の試合会場にも姿を見せ、チームを激励し、ファンとの交流を楽しんでいた。オールスター候補としてシーズン前半を盛り上げた主軸プレーヤーのこうした度量の大きさは、間違いなくラプターズのチーム内に前向きな力をもたらすはずだ。


メキシコ州立大学出身のシアカムは、2016年のNBAドラフト1巡目27位指名でラプターズが獲得したオールラウンダーだ。1994年4月2日生まれで、同年10月13日生まれの渡邊とは学年的に同期。NBAデビュー初年の2016-17シーズンは出場時間も毎試合15分程度で、平均4.2得点、3.4リバウンドと大きなインパクトを残すまでには至っていない。このシーズンにはGリーグで5試合プレーしており、当初は苦労を重ねる日々だった。


しかし翌2017-18シーズンには“ベンチ・モブ(控えの暴れん坊たち)”の一人として頭角を現し、ラプターズがチャンピオンシップを獲得した2018-19シーズンにはスターターに定着。平均16.9得点、6.9リバウンド、3.1アシストの成績でチームの歴史的な大成功(アメリカ国外のフランチャイズがNBAを制した初のケース)に大きく貢献した。翌2019-20シーズンには初めてオールスターにも選出されている。


身長206cm、体重104kg。今シーズンはポイントガードからときにはセンターポジションまで、チームのニーズに応じてどんな仕事も積極的にこなしている。アベレージは平均21.1得点、8.4リバウンド、5.2アシスト、1.3スティール、0.7ブロックで、このうちリバウンド、アシスト、スティールはキャリアハイ。スピンムーブやユーロステップなど巧みなフットワークと身のこなしを生かし、気合いを入れて大声で叫びながらゴールに向かう迫力満点のドライブが大きな魅力だ。


日本時間3月1日(北米時間2月28日)にアウェイで戦ったブルックリン・ネッツとの試合では、第2Q残り7分40秒あたりのディフェンスで、リバウンドでボックスアウトした渡邊がプッシング気味に飛び込んできたジェームズ・ジョンソンに押し倒されボールを奪われたシーンがあった。「ファウルだろ!」と言わんばかりに「ヘエエイッ!」と大声で叫びながらカバーに飛び込んできたのがシアカムだった。シアカムはイージーバスケットに向かうジョンソンの動きを阻止。しかしジョンソンはポンプフェイクでシアカムをかわしてリバースレイアップを狙った。


ここで今度は、すかさず立ち上がった渡邊と、逆サイドにいたスコッティ・バーンズがしつこくコンテストし、ジョンソンのショットを失敗に終わらせる。「飛び込め! リバウンドだ!!(Get that s—t! Rebound!!)」。シアカムのゲキが飛んだ。


こぼれたボールをバーンズがマラカイ・フリンにティップし、ラプターズは攻撃に転じた。ここからのポゼッションで、サディアス・ヤングがコーナーの3Pエリアでスペースを取りディフェンスを広げる中、渡邊はタイミング良くペイントにダイブし、ポストアップしたバーンズの絶妙なパスを受けてレイアップを決めている。バーンズへのインテリア・パスを通したのはシアカムだった。


コート上の一往復だけですべてを語れるとは思わないが、この流れには渡邊を含めたラプターズの良さが凝縮されていた。その拠りどころがシアカムだったのは必然の出来事だったと言えそうだ。

 


取材・文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)



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