月刊バスケットボール6月号

NBA

2022.03.01

“ポスター・ダンク”炸裂! - 渡邊雄太復調に盛り上がり始めたトロントの“ラプターズ・ビート”たち

“WA-TAH-NAH-BEY!! Whoaa!! Puts Kessler Edwards on a bedroom poster!!”
「ワ・タ・ナ・ベ!! ウワァァッ、ケスラー・エドワーズの上から決めたダンクは寝室用のポスターになってしまいそうですね!!」


日本時間3月1日(北米時間2月28日)にブルックリンのバークレイズ・センターで行われたブルックリン・ネッツ対トロント・ラプターズの一戦で、実況を担当した“ジョーンジー”ことポール・ジョーンズ氏は、渡邊雄太の強烈なスラムダンクをこんなふうに言い表した。トロントではもうベッドに入る時間も近くなった第4Q終盤に、渡邊がエドワーズの頭越しに成功させた豪快なダンクが、カッコいいポスターになりそうな一撃だった…という意味合いが含まれている。

 


トランジションで素早く攻め上がりスビ・ミハイリュクからのパスを受けボース・ハンドでゴールに襲い掛かった渡邊のこのダンクは、この日のNBAトップ10プレーの第6位にランクインした。直後の“アンドワン”のフリースローを落とし、続くディフェンスでキャム・トーマスの3Pショットにファウルを犯したのはいただけなかったが、ラプターズのベンチが総立ちになり、17.112人が来場したバークレイズ・センターに大歓声を湧き起こしたこのスラムダンクは、2月以降初めて出場時間が10分を越えた渡邊が相当調子を上げてきていることを印象づけた。


試合は133-97でラプターズが勝利。最終的に13分24秒プレーした渡邊は7得点、4リバウンド、1アシスト、1ブロックを記録した。7得点は2022年に入ってから最高の数字。フィールドゴールは5本中3本成功の成功率60.0%で、3Pショットも2本中1本成功の50.0%と効率よく決めた。


ニック・ナースHCは2日前のアトランタ・ホークスとの試合前会見で、このところ第4Q終盤の時間帯までコートに送り出すことがなかった渡邊を、より緊迫感のある時間帯に起用して試したい意向を語っていた。この日はそれを実行。渡邊は日本時間2月11日(北米時間2月10日)の対ヒューストン・ロケッツ戦以来初めて、第2Q残り9分10秒に出場機会を得た。そのタイミングでは3分35秒間のプレーでベンチに下がったが、登場直後のディフェンスでリバウンドをつかむと、残り7分24秒には左サイドでポストアップしたスコッティ・バーンズにボールが入ったところでタイミングよくペイントへのダイブを試み、バーンズからのパスを受けレイアップを決めている。


元気を取り戻してきた渡邊のプレーぶりを見て、トロントの“ラプターズ・ビート(ラプターズを追いかけるメディアメンバー)”たちも敏感に反応していた。この日のような状況は、渡邊が安全衛生プロトコル入りして以来なかったことだ。

 


一番の盛り上がりはやはりダンク関連。あの一撃の直後には、トロントの有力記者として知られるダグ・スミス氏やマイケル・グリンジ氏、ジョシュ・ルーウェンバーグ氏らがツイッターで反応。試合終了直後、トロントのテレビ局TSNが選ぶパフォーマー・オブ・ザ・ゲームに選ばれたスコッティ・バーンズ(前半にフィールドゴール10本すべてを成功させ28得点、16リバウンド、4アシスト、5スティールを記録する大活躍)へのインタビューでは、コートサイド・レポーターのケイラ・グレイ氏が、バーンズ自身についての質問の前に「ユウタのダンクを10点満点で何点だと思いますか?」という質問を投げかけていた。バーンズは「8点ですかね…。フリースローを落としたから(笑)」と厳しい採点だったが、これは決めて認めさせないといけないだろう。


試合後の会見では、カナダで人気の高いラプターズ関連のポッドキャスト『The Raptors Show with Will Lou』のホストを務めるウィリアム・ルー氏が、ナースHCに渡邊のダンクへの感想を求めていた。ルー氏は自身のショウを「カナダで最もユウタに友好的なショウ(most Yuta-friendly show)」と自負し、渡邊とラーメンを一緒に食べに行くことを今シーズンの目標の一つに掲げているほど、渡邊のプレーを気に入っている人物だ。このところルー氏から渡邊関連の質問はほとんどなかったが、やはり調子が上がってくれば静かにしてはいられない(ルー氏は質問をしなくても、ポッドキャストでディレクターのアレックス・ウォン氏とたびたび渡邊の話題を取り上げている)。


ルー氏の求めに応じたナースHCは、以下のように回答した。


「良かったです。ユウタはタフなプレーを決めてくれました。彼は攻守どちらでも、ゴール近辺で起こるだろうあのようなプレーを恐れていません。今回は決めてくる方でした。見られて良かったです。日本でも報道されると思いますけど、どうでしょうね!?」

“It was good. Yuta made a tough play. You know he’s never afraid to go in and make a play, consequence play at the rim both sides. He was on the delivering end this time. It was good to see. They’ll be playing that one in Japan a little bit, don’t you think!?”

 

試合後会見でニック・ナースHCは、「ユウタのダンクは日本でも報道されるでしょう!?」と笑顔で話していた

※写真をクリックするとラプターズ公式YouTubeのインタビュー映像が見られます(6分50秒過ぎからルー氏、ルイス氏とのやり取りが続きます)


ナースHCへの渡邊関連の質問はほかに、「ラプターズ・リパブリック」というラプターズに特化した情報発信で知られるコミュニティーサイトのルイス・ザッツマン氏からも飛んでいた。内容は、渡邊がバーンズ、サディアス・ヤングと一緒に出場した第2Qについて。いずれもカッターとして機能する3人の同時起用がどんな利点を生むか、というもので、ナースHCは「彼らはお互いのプレーを起点に動くんです。誰が何をやるか決めていかないといけないときがあります(They’ve gotta kind of play off to each other. They’ve gotta decide who’s gonna do what sometimes)」と切り出し、以下のように説明していた。


「彼らは皆うまくスペースを作ることができます。優れたカッターであり、かつスペーサーなんですよね。でも同時に同じカットをしても意味はありませんから、今朝もウォークスルーで少し話したんですけど、誰がその場に留まり、誰がカットし、誰がほかのことをやるか、有機的にこなせることが大事になるんです」
“They both…, you know they all can space it a bit. They all are probably better cutters. Then they are spacers. But they can’t all cut together. So, there is a little…, is one of the things that we talked about here this morning in our walk-through a little bit was trying to get organized on who’s gonna stay out there, who’s gonna cut, who’s gonna do some of that stuff”
「ぜひそうできるようになってほしいですね。もしうまくかみ合って今夜のように(お互いの動きを)理解できたら、彼らで何度も得点を決められますよ。今日は何本か決めてくれましたよね。サッド(ヤング)、プレシャス(アチウワ)、クリス(ブーシェイ)、ユウタら大きなウイングプレーヤーたちが3Pショットを何本かずつ決めて、二次的なスキルを高いレベルでやってくれていました」
“It’s good. I mean listen, if they can get some chemistry and figure that out a little bit like they did tonight and then obviously they hit a bunch of shots you know. They all threw some in, too, right? Thad, Precious, Chris, Yuta, you know, all those kind of bigger wings all threw in a couple 3s, too. So, kind of doing their secondary…, maybe skill very very high level tonight.”

 


ラプターズは日本時間3月2日(水)に、この日と同じネッツを、今度はホームのスコシアバンク・アリーナに迎え撃つ。この試合からはアリーナの入場人数制限が解かれ、フルキャパシティーの状態で試合を行うことができる。“ポスターダンク”を見た直後だけに、地元ファンの渡邊に対する期待も膨らんでいるだろう。大観衆の目の前で堅実な貢献をもたらすことができれば地元ファンを熱狂の渦に巻き込むことができ、その後の活躍にも弾みがつきそうだ。


文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)



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