月刊バスケットボール5月号

日本のバスケットボール文化を変えたい - トム・ホーバス&コーリー・ゲインズの提言

 2月25日(金)から28日(月)にかけて沖縄アリーナで開催されるFIBAワールドカップ2023アジア地区予選Window2に向かう男子日本代表のトム・ホーバスHCと、あらたにアソシエイトHC(以下AHCと記述)に就任したコーリー・ゲインズ氏が、21日にズーム会見に応じた。


ワールドカップに関しては、日本代表の本戦進出がすでに決定している。Window2は、結果が大切なのは大前提としても、それ以上に内容を問われる対戦になるだろう。日本代表が26日(土)に最初に対戦するチャイニーズ・タイペイには、211cmのビッグマン、ウィリアム・ジョセフ・アルティーノが加わっており、昨年のFIBAアジアカップ2021予選時のチームとは異なる印象だ。また翌27日(日)に対戦するオーストラリア代表は若手中心のメンバーでやってくる。装いも新たな両チームだが、ホーバスHCは相手チームのスカウティングよりも自チームの構築に重点を置いているという。日本代表の初戦前日となる25日(金)に、オーストラリア代表とチャイニーズ・タイペイ代表の試合があるので、そこで両チームを研究する考えとのことだ。


自チームに関しては、昨年11月のWindow1直後には、その時点でのメンバーをベースにしてあまり広げない考えを示していたが、実際に合宿に招集されたメンバーは、さまざまな理由からあらたに加わったプレーヤーが比較的多く含まれている。オリンピアンの金丸晃輔(島根スサノオマジック)や大ベテランの帰化プレーヤー、ニック・ファジーカス(川崎ブレイブサンダース)の名前もあり、そこから選りすぐりの最終ロスターのポテンシャルが相当高くなることが期待できる。ホーバスHCは、前回招集されたプレーヤーたちがあらたなシステムに対して慣れてきて迷いなくプレーできてきていることに対する手応えも言葉にしていた。新メンバーに関しては、いかにそれに適応できるかが、最終ロスター入りのカギとなりそうだ。

 


代表候補招集の難しさに戸惑うホーバスHC

 

 こうした基本的な情報とともに、今回の会見で得られたコメントには、少なくとも2点、Window2の領域を超えた重要な指摘があった。そのうち一つは、ホーバスHCが日本語でいくつかの要点を挙げながら語った、プレーヤー招集過程の難しさだ。


今回の合宿には、新型コロナウイルス感染拡大の影響により延期されたBリーグの試合がリスケジュールされてきていたために、希望したプレーヤーの半分が参加できなくなったという。もちろん、健康状態も含め候補プレーヤー自身の事情もあっただろうが、「Bリーグとのコミュニケーションを良くしたい。代表が強くなればBリーグも人気が高まる。そうした意味で、残念だった」とホーバスHCは率直な思いを明かしていた。パンデミック下のシーズンでもあり、元々Bリーグの試合が多い中、プレーヤーたちのメンタル面、フィジカル面のコンディショニングが難しく、また重要なのは十分承知の上だ。それでも「FIBAのWindowで戦うときには代表に集中したい。良い選手すべてを集めたい。今回は中途半端。日本のために良いチームを作りたい」という指揮官の言葉は重い。「今回短期間の合宿に来てくれた選手に感謝したい。皆、一生懸命頑張っている」ともホーバスHCは話していた。


代表招集に関してホーバスHCは、現時点の日本の手法がNBA的だと言い表し、アメリカのようなプレーヤー層の深みを持っていない日本が、個別チームでプレーヤーを育てる手法で強い代表を作るのは難しいとも話した。アメリカ代表ならば、レブロン・ジェームズが欠けてもケビン・デュラントが出てくるし、ステフィン・カリーがダメでもデイミアン・リラードというように、頂点を目指すに十分なレベルが控えているというわけだ。

 

 そうした環境が明らかに非現実的な日本にあって、どんな手法が良いかまでコメントは及ばなかったが、ホーバスHCは日本代表とBリーグ双方のコミュニケーションの改善を強く望んでいた。

 

昨年11月の中国代表との第2戦でのトム・ホーバスHC(写真/©FIBA/WC2023)

 


バスケットボール文化を変えたい


こうした招集にまつわる指摘に加えもう1点、ホーバスHCとゲインズAHCがそろって話していたのは、「日本のバスケットボール文化を変える」ということだった。しかし文化を変えると言っても、何をどう変える必要があるのか。ゲインズHCに尋ねたところ、以下のような答えを返してくれた。


「文化と言えば、それは競技に対しどのようにぶつかっていくか、どのように臨むかということに落とし込まれていきます。例えばこんなことが言えるでしょう。毎日の練習には準備万端でやってきて、全力を注ぎ、毎日上達する。普段よりも長くかかるかもしれないとしても、一日一日何かをつかんで帰る。そうした競技に対する向き合い方ですね。ものすごく挑戦的であること、デイフェンスでも、何をするにしてもです」
“When you say culture, it breaks down to how you attack a game, how you approach the game. So, I would say a good example would be - you come to practice every day ready to play, to work hard, to get better each day. Now it may take longer than usual. But each day you’re going to get something out of it. And it’s a way you approach the game. So, you’re gonna be very aggressive. Aggressive on defense, aggressive on all things.”


ゲインズAHCのさらにかみ砕いた説明は、「狩人に狙われる立場では、生き延びるために自分を守ることに精いっぱいになってしまいます。狩人の立場になれば、試合を獲りに行くようになります。文化という言葉が意味するのはそうしたことです(When you’re being hunted, you’re just defending yourself and trying to survive. When you are the hunter, you’re taking the game. That’s what I mean by culture.)」というもの。全力で頑張るのは、ダメージを受けないようにするためではなく相手を倒すため。日本のバスケットボール界に、そうではない文化を感じるからこそのコメントだろう。


これらの2つの指摘を決してネガティブに捉える必要はなく、逆に非常に前向きな思いの現れだ。ホーバスHCもゲインズHCも、最高峰NBAでの経験もあるアメリカ人コーチの視点で率直な思いをぶつけている。要求がこれまで以上に高いのは当然だろう。

 

 沖縄アリーナでグループラウンドを行うワールドカップを控えた日本代表が、ついに世界レベルに到達する好機を迎えている。沖縄で快進撃、そしてマニラの決勝トーナメントで大暴れしようじゃないか。10年前、5年前に比べれば飛躍的に向上した日本のバスケットボールのレベルを、さらに大きく向上させようという目的意識は誰にも共通のもののはず。そのためにもっともっと話し合いたいし、アグレッシブになりたい。

 

 両者の提言はこんな言葉で置き換えられるのではないだろうか。

 


取材・文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)



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