月刊バスケットボール5月号

NBA

2022.02.12

ウィザーズの今後に光をもたらす 八村 塁の復調とクリスタップ・ポルジンギス獲得

 ブラッドリー・ビールが左手首の故障で離脱し窮地を迎えたと思われたワシントン・ウィザーズに、明るい光が差し込んでいる。大きな要因は八村 塁の復調と大型トレードでのクリスタップ・ポルジンギスの獲得だ。

 

 

勝負どころで躍動する八村


日本時間2月11日(北米時間10日)にウィザーズのホームであるキャピタルワン・アリーナで行われたブルックリン・ネッツとの試合は、終盤までもつれる大接戦となった。その中で八村は21分44秒間プレーして12得点、4リバウンド、4アシスト、2ブロックを記録。ウィザーズの113-112の勝利に大きく貢献した。3Pアテンプト2本はいずれも成功、フィールドゴール全体も8本中5本成功の成功率62.5%という非常に効率の良いオフェンスに加え、ディフェンスでも第3Q終盤にキャム・トーマスの速攻でのレイアップを豪快に空中で叩き落すなど見せ場を作った。

 

 ベンチスタートだった八村が最初に得点に成功したのは第1Q残り5分19秒のプレー。左ウイングでネッツのフォワード、デイロン・シャープと1対1となり、ドリブルからプルアップでロングツーを成功させた。第2Q半ばには、オールスター・フォワードのブレイク・グリフィンと右ウイングで1対1となり、ドライブでペイントに押し込んでから、ポンプフェイクをかませてターンアラウンド・ジャンパーに持ち込みこれも成功。前半の得点を4に伸ばす。


55-59と4点のビハインドで始まった後半はさらにギアアップ。第3Qは残り5分11秒にカイル・クーズマからのパスを受け、ハイポストからジャンプショットを沈め6得点目。その約2分半後の残り2分47秒に前述の豪快なブロックショットが飛び出す。さらに残り2分8秒にはトランジションで左ウイングから78-76と逆転する3Pショットが決まり、残り1分7秒にも右ウイングでスポットアップして2本連続となる3Pショットで81-76と突き放し、ウィザーズの逆転劇を攻守で演出した。

 


八村の攻守における活躍も光り、ウィザーズは第3Q終了までに86-78と8点のリードを築くことに成功。第4Q終盤のネッツの猛追も振り切って勝利をつかんでいる。


ケビン・デュラントを故障で欠き、フィラデルフィア・セブンティシクサーズとのトレードのウワサが出ていたジェームズ・ハーデン(その後実際にトレードが成立)も欠場したネッツは、カイリー・アービングが31得点を記録したものの攻守に精彩を欠き10連敗。一方ウィザーズは、八村のほかにもクーズマが15得点、13リバウンド、10アシストでキャリア初のトリプルダブルを記録し、司令塔のハウル・ネトもフィールドゴール9本中7本を成功させて21得点。ウィザーズはいまだ通算成績25勝29敗でイースタンカンファレンス11位と厳しい状況だが、トレードデッドラインに当たったこの日、大きな動きもあった中で出場した9人のプレーヤー全員が得点し、そのうち7人が2桁得点を稼ぐチーム一丸の結束を見せたこの試合は、今後に向けポジティブな手応えを感じさせるものだ。


八村はこの試合が今シーズン15試合目で、ここまでのアベレージは8.1得点、3.7リバウンド、1.1アシスト、0.3スティール、0.3ブロックという数字。フィールドゴール成功率は徐々に上昇してきており、現在45.1%。また3P成功率41.9%は昨シーズンのアベレージを9.1ポイント上回るキャリアハイ。直近3試合は出場時間が20分以上に伸びており、ビール離脱後の5試合中4試合で20分越えを記録している。苦しい状況下での5試合はシューティングが非常に好調で、3P成功率が60.0%(10本中6本成功)、フィールドゴール全体も50.0%と非常に頼れるフィニッシャーとなっている。

 


オールスターのビッグマン、ポルジンギスを獲得


チームとしてのウィザーズはこの日、前述のとおり大きな補強に動いた。身長221cmのビッグマン、クリスタップ・ポルジンギス獲得は中でも最大の話題。オールスター・センターが八村のチームメイトとして加わることになる。


ポルジンギスは今シーズン、ダラス・マーベリックスで34試合に出場(すべてスターター)し、平均19.2得点、7.7リバウンド、2.0アシスト、0.7スティール、1.7ブロックを記録している。NBAでのキャリアは現在6シーズン目で、通算でのアベレージも18.7得点、7.8リバウンド、1.5アシストとバランスの良いパフォーマンスぶりを示している。長身に加え機動力やシューティングにも長けており、NBAでもほとんど誰がマッチアップしてもミスマッチを生み出せるプレーヤーだ。

 


ウィザーズはポルジンギス獲得とともに、マーベリックスから今年のNBAドラフトにおける2巡目指名権(プロテクト付き)も手にした。代わりにポイントガードのスペンサー・ディンウィディーとシューターのダービス・ベルターンスが、マーベリックスに送り出されている。また、ウィザーズでは同日、ポイントガードのアーロン・ホリデイも金銭トレードでフェニックス・サンズに移籍。フロントラインでアクティブに暴れていたモントレズ・ハレルも、バーノン・ケアリーJr.とイシュ・スミスの2人との交換でシャーロット・ホーネッツ入りとなった。


後半戦と来シーズン以降に向けチーム構成を大きく変えたウィザーズだが、八村とカイル・クーズマ、デニ・アブディヤの3人をフィーチャーするフォワードでは大きな動きはない。チームとしてこのトリオを、一つの核となりうる存在として重要視していることが感じられる。


この補強は、ウィザーズがビールを欠く後半戦にも勝気満々であることを示唆するとともに、ビールの契約最終シーズンとなる2022-23シーズンがプレーヤーオプションとなっている状況で、その更新・延長に大きな意義を持っている。チームとしてチャンピオンシップ獲得の期待を感じられるようなチーム作りをしなければ、ウィザーズはビールを失う可能性があるからだ。ビールの今シーズン全休が決まった今、可能性としてはすでに、ビールがウィザーズで最後の試合をプレーした…という状況になることさえ考えられる。


八村らフロントラインの若手コアを残し、オールスターのビッグマンを獲得した今回の動きは、ビールにチームのビジョンと勝利に向けた意欲を十分に感じさせるものと思われる。今シーズンのポルジンギス効果はもちろん、来シーズン以降ビールとポルジンギスのコンビが実現すれば、非常に大きな武器となるだろう。チーム力の大幅な向上が期待できる中で、八村のさらなる躍進にも拍車がかかる可能性がありそうだ。

 


文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)



PICK UP