月刊バスケットボール5月号

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2022.02.12

女子ボスニア・ヘルツェゴビナ代表のキープレーヤーを探る - WNBA2021のMVPジョーンズだけではない脅威


ボスニア・ヘルツェゴビナ代表はFIBAユーロバスケット2021で5位に入った強豪だ(写真/©fiba.basketball)

 

 FIBA女子ワールドカップ2022予選で来日したボスニア・ヘルツェゴビナ代表とはどんなチームなのか。日本代表が過去に対戦したことがなく、本戦初出場を目指す立場のこのチームについて、大会開幕前日の2月9日に会見に応じたゴラン・ロヨHCの言葉を交えながら展望してみたい。


同チームは昨年のFIBA女子ユーロバスケット2021で5位に入り、今回の予選への出場権を獲得した。FIBA世界ランキングは27位で、今回の予選に出場したチームの中では最も低い。しかし現在世界の女子バスケットボールにおける最強プレーヤーと言える身長198cmのセンター、ジョンケル・ジョーンズという強力な武器を持っている。


このジョーンズを軸に、ユーロバスケットではグループラウンド初戦でベルギー代表に70-55と15点差をつけて勝利。その後トルコ代表とクロアチア代表も破って8強入りを決め、準々決勝ではフランス代表に67-80で敗れたものの、今回の予選への出場権がかかった5-6位決定戦でスウェーデン代表を82-63で倒している。


日本代表の恩塚 亨HCが会見で語ったところでは、核となるジョーンズを生かしながら周囲のスペシャリストたちがそれぞれの役割を高いレベルで遂行するのがこのチームの特徴。ユーロバスケットでの成績を確認すると、特に要注意のプレーヤーとして以下の5人が挙げられそうだ。

 

(写真/©fiba.basketball)

#4 ミリツァ・ドウェラ PG 178cm 31歳
ユーロバスケット 4.2P, FG28.6%, 3P33.3%, FT83.3%, 1.0R, 2.5A, 0.5S, 0.0B

 

(写真/©fiba.basketball)

#7 ニコリーナ・バビッチ G 177cm 26歳
ユーロバスケット 13.8P, FG55.8%, 3P57.7%, FT62.5%, 2.0R, 3.8A, 1.0S, 0.2B

 

(写真/©fiba.basketball)

#10 マリツァ・ガイッチ PF 185cm 26歳
ユーロバスケット 12.5P, FG48.7%, 3P37.5%, FT66.7%, 10.3R, 2.0A, 2.5S, 0.3B

 

(写真/©fiba.basketball)

#24 マティア・タビッチ SG 178cm 29歳
ユーロバスケット 7.0P, FG26.0%, 3P13.0%, FT72.2%, 2.5R, 4.2A, 1.3S, 0.2B

 

(写真/©fiba.basketball)

#35 ジョンケル・ジョーンズ C 198cm 28歳
ユーロバスケット 24.3P, FG49.5%, 3P32.5%, FT81.6%, 16.8R, 3.0A, 1.0S, 1.5B

 


最も注目すべきジョーンズはWNBAの2021シーズンにMVPに輝いたプレーヤーで、WNBAのオフ期間にあたる現在はロシアのUMMCエカテリンブルグでプレーしている。ロヨHCによれば、「コンディションは良好です。つい先週もユーロリーグの試合で28得点を獲ってダブルダブルを記録したばかりですよ」とのことで、間違いなく最も警戒すべき存在だ。


MVPに輝いたWNBA2021シーズンのアベレージは平均19.4得点、11.2リバウンド、2.8アシスト、1.3スティール、1.3ブロック。シューティングに関してもフィールドゴール成功率51.5%、3P成功率36.2%、フリースロー成功率80.2%と申し分ない。このうち得点はリーグ全体の4位、リバウンドは堂々の1位、ブロックショットとフィールゴール成功率も10位に入る好成績だ。


ユーロバスケットでの成績は、得点とリバウンド、ブロックショットがチーム1位。このうち得点とリバウンドは大会全体の1位で、ブロックショットは同2位だった。


同大会でチーム2位の得点源だったバビッチは、3Pショットを大会全体1位の高確率で決めている。つまりボスニア・ヘルツェゴビナ代表には、ユーロバスケットにおける最強ビッグセンターと最も恐るべきシューターがそろっているということになる。


バックコートのベテラン、ドウェラとタビッチの二人は現在安間志織がアイスフォーゲルUSCフライブルクの一員としてプレーするドイツのプロリーグ、ブンデスリーガのルトロニック・スターズ・ケルターンでもチームメイトだ。ドウェラはポイントガードの登録だが、ブンデスリーガで40%越えの3P成功率を記録している。ジョーンズに引きつけられてアウトサイドでオープンにすると、バビッチ同様に危険な存在だ。シューティングガードのタビッチは、ユーロバスケットではアシストがチーム1位だった。


もう一人挙げたガイッチは、ジョーンズとともにユーロバスケットで得点とリバウンドのダブルダブルをアベレージで記録した。またスティールはチーム1位であるとともに大会全体の5位。高さもあり、特にジョーンズがいる中では、渡嘉敷や髙田真希、赤穂ひまわり(ともにデンソーアイリス)、谷村里佳(日立ハイテククーガーズ)ら日本代表のフロントラインにとって攻守で大きな脅威となりそうだ。

 

大会開幕前日会見に登壇したゴラン・ロヨHCとミリツァ・ドウェラ(FIBA.WWCQT.OSAKA)

 


これらの戦力を率いるロヨHCは、ドイツのブンデスリーガでメディカルインスティンクト・ファイルヒェンBG74ゲッティンゲンのヘッドコーチも務めており、ドゥエラ、タビッチとともに安間を通じて日本のバスケットボールのエッセンスとレベルを直に感じている。ちなみに3人が在籍している2チームはすでに今シーズン安間のアイスフォーゲルと2度ずつ対戦しており、いずれもフライブルクが勝利した。


ロヨHCは会見で、「彼女(安間)はフライブルクでチームを2位に導いている素晴らしいプレーヤーです。彼女と同じように、日本代表のほかのメンバーも我々があまりなじみのないスタイルなので、適応していかなければなりません」と話していた。日本代表の最大の脅威は何かという質問には一言、「3Pシューティング」と答えた。


ロヨHCも、ともに会見に登壇したドウェラも、母国に史上初のワールドカップ出場という輝かしい歴史を届けようと高い意欲を持っている。FIBA世界ランキングはまったくあてにはできない。大会最終日の2月13日(日)に行われる日本代表との対戦は、ハイレベルで激しいプレーの応酬になるだろう。

 

大会開幕前日会見映像(FIBA.WWCQT.OSAKA)

 


取材・文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)



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