月刊バスケットボール5月号

本橋菜子(東京羽田ヴィッキーズ) - FIBA女子ワールドカップ2022予選日本代表候補名鑑

 

写真/©fiba.basketball


本橋菜子(東京羽田ヴィッキーズ/埼玉県/早稲田大学)
PG 164cm/55kg 1993/10/10(28歳)
Wリーグ2021-22: 3.5P, FG30.4%, 3P22.9%, FT100.0%, 1.3R, 2.1A, 0.4S, 0.0B
東京2020オリンピック: 6.8P, FG41.7%, 3P50.0%, FT100.0%, 1.3R, 1.7A, 0.2S, 0.0B

FIBAアジアカップ2019: 17.0P, FG50.0%, 3P47.8%, FT76.9%, 2.0R, 5.0A, 0.6S, 0.0B

 

 本橋菜子のWリーグ2021-22シーズン前半戦のスタッツは、冒頭に並べてはいるもののあまり実力の参考にはならない。平均出場時間が13分程度であり、コンディション向上に重点を置きながら実戦感覚を維持するような起用状況だからだ。東京2020オリンピックの数字も、それがあること自体に意味があるのであり、本橋本来のパフォーマンスは、万全な状態ならもっと戦ったことだろう。これらの数字は存在自体に意義がある。


冒頭の数字で最も意義があるのはFIBAアジアカップ2019の数字だろう。本橋の日本代表キャリアにおける数字や表彰的な意味合いに加え、日本代表の活動の流れの中でも大きな意義を持つ大会だったからだ。4連覇を達成した同大会で、本橋は得点とアシストで大会全体の1位となりMVPを獲得している。小柄なことが不利だという概念を真っ向から否定し、その時点では翌年開催のはずだった東京2020オリンピックに向かうトム・ホーバスHC体制の日本代表に、金メダル獲得を語る資格が本当にあることを感じさせる大活躍だった。


大会延期が決まった後、2020年11月の右ヒザ前十字靭帯損傷による戦列離脱から、その約9か月後のオリンピック出場をかなえた経過からは、決意や闘志、夢をかなえたいという情熱など、本橋自身のさまざまな心の動きが伝わってくる。同時にそれを見守ったファンの側は「人間は心底気持ちを込めて物事に取り組めば、本当にすごいことができるのだ」と思えたのではないだろうか。「体の大きさでプレーするんじゃない。心の大きさでプレーするんだ」というNBAレジェンド、アレン・アイバーソンの名言も頭に浮かんでくる。

 

写真/©JBA

 

 

 厳しかっただろう大ケガからの治療とリハビリを辛抱強く頑張った報いとして、究極の大舞台であるオリンピックの決勝戦で、世界最強のアメリカ代表と戦う舞台に立つ。コートに入るや否や劣勢の流れを断ち切る3Pショットを沈め、最後は大健闘の銀メダルを持ち帰る。青春ドラマの脚本家でも思いつかないような劇的な物語を、本橋は現実の世界でやってのけた。


今、FIBA女子ワールドカップ2022予選を控えた恩塚 亨HC率いる日本代表の強化合宿では、「新しい日本のバスケットスタイルを落とし込むところから始まったんですけど、やはりみんな対応力、理解力が高いです。だんだんと形になってきているので、ここから本番に向けて楽しみだなと感じています」と新たな意欲を持っている。4年前の前回のワールドカップは9位という成績。「自分にとって初めての代表活動・世界大会だったので、本当にがむしゃらに無我夢中でやっていました」と本橋は当時を振り返った。しかし今はがむしゃらさだけではなくなっている。


「オリンピックほかたくさん試合経験を積んで、何も考えずに無我夢中でやっていた頃とは違った感じで臨んでいます。バスケットで日本を元気にできるようにとか、夢を届けられるようにといったことを表現できるように、この仲間で大会に臨みたいなと思っています」


メンタルな側面での成長を実感し「今はコミュニケーションも大事にしながら、自分だけにならずにチーム全体を見てプレーしていけたらいいなと、ちょっと余裕ができたかなと思っています」と本橋は話した。成熟度を増した心とともに、そのドラマティックなバスケットボール人生があらたなクライマックスに向かって動き出している。

 

取材・文/柴田 健(月バス.com)

(月刊バスケットボール)



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