月刊バスケットボール5月号

NBA

2022.01.26

1.26 - 特別な日に思い出すコービー・ブライアントの姿

 1月26日という日が多くのバスケットボール愛好者にとって特別な日となって丸2年が過ぎた。コービー・ブライアントが次女ジアナとともに帰らぬ人となった2020年のこの日を迎えた。引退したとはいえ若々しく意欲に満ちたコービーと、バスケットボールに情熱を注ぐ13歳のジアナの笑顔は、当時のまま今もソーシャルメディアにあふれている。

 

 筆者が最後にブライアントを生で見る機会となったのは、2016年のNBAオールスターウイークエンドだった。トロントがホストで、NBAが初めてアメリカ国外でオールスターウイークエンドを開催した年だ。


現在は、渡邊雄太が所属するトロント・ラプターズがホームとする町なのは言うまでもない。しかしこのウイークエンドで現地にいたのは八村 塁の方だった。ゴンザガ大学に進む前の八村は、このウイークエンド期間に行われていたバスケットボール・ウィズアウト・ボーダーズのプログラムに参加していたのだ。


エアジョーダンXXXのリリースもこのタイミングで、ジョーダンブランドのショップには朝4時前から長蛇の列ができていた。雪も舞っていたこの朝、現地の午前6時時点の気温は摂氏マイナス23度という、極寒かつスニーカーヘッズには喜ばしい数値を示していた。まさしく凍てつくような空気の中、是が非でもAJ XXXを一足手に入れたい人々が、紙コップ入りのアツアツのコーヒーを時折すすりながら、店内に入れるかどうかの確約もないまま辛抱強く開店時刻を待っていた…(筆者は結局、別の取材が始まるまでに入店できず、改めてその日の午後並びなおして1足手に入れた)。


スラムダンク・コンテストでは、ザック・ラビーン対アーロン・ゴードンの世紀の対決があった。カール-アンソニー・タウンズ対アイザイア・トーマスのスキルズチャレンジファイナルは、ビッグマンのタウンズがスピードとテクニックに長けたトーマスを倒し盛り上げた。3Pシュートアウトはクレイ・トンプソン、ステフィン・カリー、デビン・ブッカーのファイナルとなり、トンプソンが初タイトルを手にした。


今思い出しても、いろんなおもしろみがあるオールスターウイークエンドだったが、その中でもメインはやはりブライアントだった。2015年11月の段階で、すでにブライアントがこのシーズンを最後に引退することは明らかになっていた。それだけに、この人なしには成り立たないウイークエンドだったと思う。ブライアントが動くところには、ほかのスーパースターたちの数倍の記者が群がった。


同じ時期にスーパースターとしてNBAをけん引したアレン・アイバーソンが殿堂入りノミネートの会見をしたのもこのときだ。ブライアントの引退、アイバーソンの殿堂入り、マイケル・ジョーダンのシグニチャー、エアジョーダンシリーズは記念すべき30作目。一つの時代が次へと動いていく。オールスターウイークエンドのイベント全体に、ブライアントのキャリアのフィナーレを飾るにふさわしい華々しさと、同時にどこか物悲しい、別れを惜しむような雰囲気が漂っていた。


オールスターゲーム当日の会場、エアカナダ・センター(現スコシアバンク・アリーナ)には、パープル&ゴールドの#8や#24のジャージーで声援を送るファンも多かった。ブライアントは家族を連れてトロント入りしており、試合が始まる前にはブライアントがジアナとコート上でともに時間を過ごす姿が見られた。ボールと戯れ、ハグし、キスして親子の愛情を確かめ合っていた。

 

Illustration by Hidekichi Shigemoto


ブライアントはこのオールスターゲームで華々しいプレーを後輩たちに譲り、ものすごい数字を残したわけでもない(とはいえ10得点、6リバウンド、7アシストだが)。試合の最後はカリーのハーフコートショット。196-173でブライアントのウエストが勝利し、MVPはラッセル・ウエストブルックが獲得した。

 しかしそうした記録や表彰以上に印象的だったのは、一瞬一瞬を胸に刻むかのようにレブロン・ジェームズやカーメロ・アンソニーらとのプレーを楽しんでいたブライアントの姿であり、ブライアントとの特別な瞬間を楽しもうというほかのオールスターたちの姿勢や態度であり、その姿にスタンディング・オベーションを贈ったトロントの大観衆の様子だった。

 

 温かな拍手喝さいと大歓声がオールスターたちの頭上に降り注ぐ。ブライアントがその中で、穏やかな笑顔で手を振っている。偉大なレジェンドのイメージは、今もこちらに語り掛けてくる。


文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)

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