月刊バスケットボール5月号

Bリーグ

2022.01.19

21歳学生コーチの「隠しきれない想い」 - B.DREAM PROJECT 2022 Special Feature

 B.DREAM PROJECTは、その趣旨からして次世代を担う人材の発掘と育成を目的としているのであり、エントリーしてくる人材に期待されるのは必ずしもエリートのキャリアではない。もちろん最低限の知識やスキルが必要とはいえ、向上しようという強い意志と意欲、バスケットボールに対する愛情や情熱が大切だ。

 

 1月10日に行われたB.DREAM PROJECT 2022で、現場に来ていたコーチ志望者の一人、四ケ所大世は、そうした資質を持つ21歳の現役大学生だ。当日参加した志望者の中で最年少。JBA公認E級コーチングライセンスを持っている。


四ケ所はこの春、大学卒業とともにバスケットボールとは無関係の業種に就職することが決まっている。B.DREAM PROJECT 2022へのエントリーは、内定通知を受けてからのことだ。


ただただ大好きなバスケットボール。人生の大きな節目を前にB.DREAM PROJECT 2022の情報に触れた四ケ所は、簡単に背を向けることができなかったようだ。「少し隠していた思いをぶつけてみたい」——志望動機の資料に綴られていたそんな一言を目にして、話を聞いてみたいと思った。

 

選手の立場がよくわかる同年代のコーチである四ケ所はベンチでも活発にコミュニケーションをとっていた(写真/©B.LEAGUE)


プレーヤーの視点で一体感のあるチームを作れるコーチになりたい


――E級資格でのエントリーですが、コーチングはいつ頃どのように始められたのですか?


資格を取ったのは大学1年生のときで、実際にコーチとして動き出したのは2年前頃です。私の大学は4部なんですけど、自分自身がキャプテンになるということがあり、そのタイミングで外部コーチの方が引退したことで、キャプテン兼コーチとして動かざるを得ない状態になりました。


入部当初から社会人の外部コーチ一人の体制だったので、もう一人誰かが資格を取らないといけない状況だったのが、資格を取得した理由でした。当初はコーチより選手の割合が大きかったと思いますが…。父がミニバスのコーチをしていたので、大学に入る前からそこで少し小学生相手にコーチすることはあり、大学に入ってからたまたま、本格的に始める機会がやってきたなという感じでした。


――最後の選抜ゲームでは、ベンチで「もっとインテンシティーを高めていけるぞ」、とプレーヤーに声をかけたり、長身のプレーヤーに「ガードを試してみないか」と提案している声が聞こえてきました。


セットプレーをいくつかチームで話し合っていたんですが、相手が厳しく当たってくるので、センターがボールを運んだ方がボールキープに適していると判断しました。そのほうがチームとして動きやすいと思ったので、トップでボールをキープしてほしいと伝えました。


――大胆な指示だなと感じました。


最初に自己紹介がてらポジションを聞いたときに、5番と答える選手がいなかったんです。それでポジションレスに、ある程度は形を決めるとしても全員がガードもやるし、スクリーナーにもなって、地味な仕事でも全員で頑張っていこうと伝えていました。特に大胆にやろうということではなく、選手一人ひとりの力があるからこそできるような形だったと思います。


――声がけが盛んでしたし、チーム内のアイスブレイクも良くできていましたね。


自分自身の年齢が21歳で、同学年の選手たちが多かったので溶け込みやすかったのかもしれませんね。私はもともと選手でもあるので、選手の視点で自分自身が声を出すことで皆が声を出すような、呼応していくような形が作れればと思っていました。


常日頃から声を出している選手たちですので、即席チームだからこそ声を出してコミュニケーションをとろうと伝えていたんです。そこに関して皆が頑張ってくれたので、自分自身も声を出さなきゃ! という思いでした。

 

 

どこかでもう一度バスケに携わりたい

 

 上記のやりとりから試合の流れを把握するのは難しいと思うし、その点は筆者として申し訳ないのだが、意を決して臨んだB.DREAM PROJECT 2022で後悔を残さないよう、四ケ所が全力で取り組んだことがわかっていただけると思う。

 

――コーチをしていて素晴らしいと思うところはどんなことですか?


コーチとしていろんな選手が見られるということは、人生でいろんな人に会うのと同じ感覚です。十人十色、自分自身のスタイルやカラーを持っている中で、5対5でしっかり戦わないと勝てません。個人の力だけではどうにもならない部分で、コーチがある程度の形を決めて大事な部分では何かを提案したり、選手の自主的な動きをサポートできるという点にやりがいを感じます。


自分自身、ただただバスケットボールが好きなので、それを見ているだけでも楽しいんですよね。それがコーチは素敵だな、楽しいなと思うところです。


――どんなコーチになりたいという目標はありますか?


まだそういうはっきりした目標はありません。ただ、どこかしらでもう一度バスケットボールに携われればいいなという思いです。この春から就職して、スポーツとは違う世界で働くのですが、この機会はなかなか巡ってくるものではありませんし、自分たちの同世代のすごい人たちを一目見たいなという気持ちでエントリーしました。


この先どうなるかわからないですけど、自分自身は選手に寄り添えるようなコーチというのがモットーです。チームは選手だけのものではなく、コーチがいて、観客の人たちがいて、それが一つになって初めてチームと言えると思います。それに対して自分の意見だけを押し付けるのではなく、考え方はある程度共有するとしても、一丸となって強いチームを目指したいです。「素敵なチーム」でありたいですね。


勝てたらうれしいですけど、それまでの過程を大事にできるコーチでありたいです。一人一人と向き合って、どういうプレーができるのか、何が苦手なのかにしっかり目を向けて、そこに対してどうアプローチできるか。身近で感じて伝えられるコーチになりたいと思います。

 


別の業界で就職が決まっているこの若者が、近々Bリーグデビューということは考えにくいと思うのが自然だ。しかし誰にしても、プロになるまでにさまざまな道のり、さまざまなステップがある。また最終的に四ケ所のような人材がプロにならなずにバスケットボールに関わることにも、大きな意義がある。

 

 後者の場合は彼らこそが、後続世代に競技の魅力を日々全国の現場で深く伝えていく役割を担うことになる。日本のバスケットボールを前進させるのはそうした人々の力だ。


どんな形になるにしても、四ケ所のバスケットボール人生はこれからが本番だろう。


この日、「隠していた想い」をぶつけてみた結果、四ケ所はささやかな勲章を手にした。最後に行われた選抜チーム同士のスクリメージで、最年少のE級コーチはチームを勝利に導き、B.DREAM PROJECT 2022を締めくくっている。

 

 プロの道につながるか、そうでないかは、これからの人生が答えを出してくれる。いずれにしても、この日のさまざまな出来事が、四ケ所の周りでバスケットボールを前進させる糧となるはずだ。

 

取材・文/柴田 健(月バス.com)

(月刊バスケットボール)



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