月刊バスケットボール6月号

NBA

2021.12.31

アイザイア・トーマス、マブス合流の激動の一日を語り、そして安全衛生プロトコル入り

 2011-12シーズンにNBAデビューを果たし、現在11シーズン目を迎えているベテランのアイザイア・トーマスが、今シーズンはローラーコースターのような激動のときを過ごしている。

 

12月29日のサクラメント・キングス対ダラス・マーベリックス戦後、会見に姿を見せたアイザイア・トーマス


身長175cmのポイントガードで得点力の高さに定評があるトーマスは、2016年、17年に連続してオールスターに選出された実績もある実力者だ。しかし2017-18シーズン以降は故障の影響で所属チームが定まらず、1シーズンを通じてレギュラーシーズン82試合の半数以上をプレーしたシーズンがない。


昨シーズンはニューオリンズ・ペリカンズとの10日間契約にサインして3試合プレーしただけにとどまっており、今シーズンもNBAのチームと契約できないまま開幕を迎えていた。ところが、12月に入りNBA全体にコロナウイルスの感染が急拡大したことで、状況が変わった。各チームで安全衛生プロトコル適用下となるプレーヤーが続出し、リーグはプレーヤーの人数が試合開催の最低人数に達しなくなる状況を回避するためフリーエージェント獲得規定を緩和。それにより各チームが、急場をしのぐために多くのフリーエージェントやGリーグプレーヤーを迎え入れることとなったのだ。


トーマスはアメリカ代表の一員として2月のFIBAアメリカップ、11月のFIBAワールドカップ2023アメリカ大陸予選で活躍していたこともあり、コンディションも良好。後者ではGリーグプレーヤーを主体としたチームにあって、トップの平均21.0得点を記録していた。

 

11月のFIBAワールドカップ2023予選でのトーマス(写真/©fiba.basketball)

 


実績と経験が広く知られている上に直近の実戦で力を示したことで、非常事態のNBAでトーマスへのニーズも高まった。結果トーマスは、12月17日(北米時間、以下同)に10日間契約でロサンゼルス・レイカーズ入り。同日の対ミネソタ・ティンバーウルブズ戦で早くも実戦デビュー(レイカーズには2017-18シーズンにも所属していたので、2度目のデビュー)を果たし、19得点を記録する活躍を見せた。


トーマスは以降23日までにレイカーズで4試合に出場し、平均9.4得点のアベレージで契約期間を満了。その後、今度は29日にダラス・マーベリックスからお呼びの声がかかる。当日のうちにマブスに合流したトーマスは、サクラメントでキングスとの試合に出場していた。


この試合(94-95で敗北)を終えた後、会見場に姿を見せたトーマスはマブス入りの経緯を明かしてくれていたのだが、当日の朝は故郷のシアトルにいたという。スーパーマーケットで買い物をしているときに、マーベリックスのニコ・ハリソンGMから電話をもらったのだそうだ。以下は激動の一日を振り返るトーマスと記者たちのやり取りだ。


――ダラスへようこそ…というのはルーキー以外にはあまり使わない挨拶ですが、今日はどんな一日でしたか?


今日は…ものすごい一日でしたね。今朝、フレッド・メイヤーズ(アメリカ北西部の有力スーパーマーケットチェーン)で買い物していたときにニコから電話が来て、いきなり「今夜プレーできないかな」みたいなことを聞かれたんです。僕は「そりゃもちろん! できますとも」と答えました。僕はシアトルにいて、実は昨日ロサンゼルスから帰ってきたばかりでした。だから騒々しい感じでしたね。でも慣れていますから。準備万端、良い機会をありがとうってところですね。迷いはありませんでした。
Today was…, it was crazy because I was at Fred Meyer this morning getting some groceries. Nico had called me. You know the first thing he was asking me was like “you think you could play tonight?” I was “Hell yeah! I could play tonight.” So, I was in Seattle back home, just actually got home from LA yesterday. So, it’s been a lot you know. But I’m built for this. I’m ready for it. I’m thankful for the opportunity. It was no-brainer when he asked.


――実際にプレーすると思っていましたか?


とにかく準備してきてくれということでした。J-キッド(ジェイソン・キッドHC)からもニコからも、言われたのはとにかく僕らしくプレーしてくれればいいということだけです。あらゆる意味合いで普段の僕らしく、持ち味を出してくれればと。僕の方はいつでも準備万端ですから。プレーするかどうか、長くプレーするか短いのかはわかりませんでした。でも11年間プロで生きてきていますから、常に準備万端なのは当然です。
I mean they told me just to be ready. They told me…, J-Kidd and Nico told me just to be myself. Every sense of the word just be who I am and bring that to the team and you know I’m always ready. So, I didn’t know if I was going to play. I didn’t know if I was going to play a lot or a little bit. But me being a professional for eleven years and I’m just…, I’m accustomed to staying ready and that’s all I did tonight.


――戦術などは頭に入れていたんですか?


ここに来るまでにちょっと頭に入れてきました。戦術の資料をもらっていましたから、少し勉強してきましたよ。でも今日は僕がやりやすいようにシンプルな組み立てにしてくれていました。それに、違うのは言葉の使い方だけで、どこも結構同じセットオフェンスを使いますから。コールのしかたが多少違っても、コーチがシンプルにしてくれたので僕にはやりやすかったです。
I had to study a little bit on the way here. I got the playbook when I was on the plane. So I was able to study. But they kept that simple for me. It’s just the terminology that’s different. You know the team…, everybody kind of run the same sets. The terminology was different but coach kept it simple while I was there and just made it easy for me.


――リーダーシップや若手の手助けという意味では、どんな貢献をしたいですか?


僕はいろんなことをできると思います。NBAのあらゆる立場を経験してきましたからね。正直なところ、NBAであらゆる立場を経験してきたと言える存在って、あまりいないんじゃないかと思うんですよ。フランチャイズ・プレーヤー、シックススマン、ベンチから出ていくロールプレーヤー、出場の機会さえないプレーヤー。僕は全部やってきました。
I mean I could bring everything. I’ve been in every situation possible in the NBA. I don’t know how many players in the NBA can honestly say they’ve been in every situation whether that’s the franchise player, whether that’s a sixth-man role, whether that’s the role player off the bench or a guy that even doesn’t play. You know I’ve seen it all.


この経験は、若手を含めこのチームのみんなに伝えられるものでしょう。可能なときにはいつでも助けの手を差し伸べて、経験から得た知恵を渡そうと思いますけどね。今日のNBAでは、こういうことも大事だと思います。どんな形でもいいので恩返しになるように、ここでも次世代の助けになれたらと思います。自分の名前が呼ばれたら、コートで結果を出してくるのはもちろんです。でも、姿勢で示すとか言葉で語るというのもやりたいですね。
So, I’m able to give that experience back to the younger guys and the guys on this team. So, you know whenever I can I’m always able to lend a helping hand and give some wisdom you know just from experience though which is important in today’s game. It’s just you know giving back any way I can and trying to help the next guy and that’s all I’m here for. It’s you know when my name is called, be ready to produce. But also, just lead by example and lead vocally as well.

 


こう語ったトーマスの激動の一日は、実は翌12月30日(日本時間31日)まで繰り越している。残念なことに、マブスはトーマスが安全衛生プロトコル適用下に入ったことを発表したのだ。

 

 ただ、形はどうあれトーマスだからこその貢献はできるのではないだろうか。目に見える形かどうかは別として、「小さな巨人」の存在感を示してくれることを期待しよう。


文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)



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