月刊バスケットボール10月号

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2022.01.03

志田 萌(ニューメキシコ州立大学) - 旭川出身NCAA D1ボーラーのマンバメンタリティー-2

 ニューメキシコ州立大学(以下NMSU)での最初のシーズンで開幕を迎えた志田は、日本時間12月30日(アメリカ時間29日)時点で消化した10試合中9試合に出場している。直近の対SAGUアメリカンインディアン大学戦では、ここまでのキャリアハイとなる25分間の出場で、2得点、1リバウンドに、これもキャリアハイの7アシストを記録した。


☆志田 萌の最新のスタッツ
https://nmstatesports.com/sports/womens-basketball/roster/moe-shida/8432


志田のインタビューと同じ日に話を聞かせてもらったNMSUのブルック・アトキンソンHCは、今シーズンの志田には即刻大きな成果を求めずに、時間をかけて育てていく方針を明かしてくれた。


昨シーズンから今シーズンにかけて、コロナ禍の非常に大きな影響から試合や大会が次々と延期・中止になったことを受け、NCAAは思うようにプレーできなかったアスリートに、希望さえあれば1年間競技参加の権利を延長できる規定を作った。そのため、本来ならば3年生・4年生の2年間のプレーで卒業となるはずの志田も、希望すればあと1年ディビジョン1で腕を磨くことができるのだ。それを承知しているアトキンソンHCは、志田の今シーズンを経験のシーズンと捉えている。


このインタビューを行った時点では、志田は5試合に出場していた。

 

名門ルイジアナ州立大学との対戦での志田。この試合では12分間の出場でアシストとリバウンドを1本ずつ記録した

(写真/©New Mexico State Aggies Athletics)

 


スピードとジャンプショットは絶対に勝てる


――5試合すべてに出場して、実際のディビジョン1はどんな印象ですか?


やっぱりレベルが高いですね。今の自分の立ち位置としては、プレータイムをもらうのに必死な立場で、満足にプレーしたり結果を残せてはいません。だけど、自分が思っているよりも“できないわけではない”と思うんです。レベルは高いですけど、できなくはないです。そこには自信はあります。時間はかかると思いますが、できると思います。


――アトキンソンHCも志田選手の今は「慣れる時間」と言っていました。


そうですね、最初は経験のないレベルで自分ではできない、全然だめだ…と思たんですけど、コーチから「2年制大学とD1のレベルはまったく違うから、時間はかかるしすぐになれるのは難しいから」という言葉をいただいて、「そうだよな、みんなよりも時間はかかるな」と。この一年は辛抱して慣れる時間だと思います。


――このプレーはうまくいったなという、ここまでの良いところはどんなところですか?


スピードとジャンプショット、得意としているドライブから止まって放つパターンは絶対に通用します。これは自信を持って言えることで、スピードならトッププレーヤーにも負けないし、ジャンプショットも高確率で決めてこられると思っています。これは負けません!


――NMSUの魅力といったらどんなことですか?


個々の能力が高いのではなくて、チームとして一つになったときの爆発力がすごいと思います。そこが強みですね。皆仲がいいし、お互いを気にかけてどこかに行くときにも声をかけてくれたりします。
ほかの国からきている子もいるので、「日本ではこうだけど」とか「こっちではこうだよ」というような会話は多いですね。


――キャンパスがあるラス・クルーセズという町はどんな街ですか?


田舎育ちの私には、かなり大きな町に思えます。でもみんなは、「何もなくてつまらない」と言っています(笑) 私はそうは思わないんですけどね。あと、熱いです。これがダメです。自分は…。
夏は旭川も熱くなりますが、ラス・クルーセズはまた違う熱さです。日差しが強くて40度くらいになるので。今は、朝の気温が1度とかですが、私には地元感があっていいです。


――NCAAディビジョン1入りで一つの夢をかなえたところだと思います。今後、こんなふうになりたいなという将来像や目標はどんなものですか?


目標はすでに決まっていて、プロになるということが第一です。日本だったら母国なのでうれしいですが、国に関係なくプロでバスケットボールをして生活するということが目標です。今、意識し始めているのが、日本を代表するようなポイントガードを目指そうという意識するようになってきて。コービー・ブライアントが大好きで、それがきっかけでアメリカに来たので、コービーみたいなメンタルを持ったプレーヤーになりたいなと思っています。


バスケットボールをやめた後のことも考えています。地元の協会関係者の皆さんにお世話になって良くしていただいたので、地元にバスケットボールができる環境を増やせるような取り組みをしたいなと思っています。


東京2020オリンピックを見て女子日本代表はすごいなと思ったし、私はもっとやらなきゃなと思いました。心に火がつきました。誰にも負けたくなくて、日本代表の方々の活躍を見て「負けていられない、私はこれを越えるんだ!」という気持ちになりました。


壁というのは何もしないで見ているときに思うほど高くなくて、最初は確かに慣れていなくてできないかもしれませんが、どんな人でもできると思います。

 

 

 志田が今後、このインタビューで語った夢をどんな形で実現していくか、とても興味深い。アトキンソンHCは志田について、「良く鍛えられていますよ。賢くタフで、『あなたは一番小柄だけど、その分一番タフになればいいんだから』といつも話していますけど、そのとおりになってくれています」と話し、ポテンシャルの高さに自信を持っている様子だった。実際、会話をしていてもそのタフさが志田の表情や言葉から伝わってくる。

 

NMSUのブルック・アトキンソンHCは、志田を「Floor General」と形容するほど高い期待を寄せている

 

 

 志田が敬愛するコービー・ブライアントも、タフという言葉が人間の形をしていたような存在だった。しかしキャリアを振り返れば、デビューシーズンの開幕初戦には出場していない。次の試合では、フィールドゴールを1本放っただけで無得点。その次の試合も、わずか3分15秒の出場でフリースロー1本による1得点だった。初めてスターターを務めたのはデビューから35試合目だ。

 

 キャリアのスタートから10シーズン目、ブライアントはチャンピオンシップ・リングを3つ手にし、NBAで歴代2位となる1試合81得点という記録を打ち立てる最強のスコアラーになっていた。20シーズンで引退したが、そのフィナーレで50得点を記録。引退後もたぐいまれな多才さを発揮し、自身のバスケットボールへの愛情を表現した短編映画でアカデミー賞も受賞した。

 

 2年前までほとんど無名。志田はタフなメンタリティーを持って、尖った生き方をしている。ブライアントの生きざまを辿るとすれば、だからこそ東京2020オリンピックで銀メダルを獲得した女子日本代表のプレーヤーたちにもいつか勝てる、そう思えるのだ。

 

パート1を読む

☆パート3「志田 萌を育てるNMSUのブルック・アトキンソンHCインタビュー」

 

取材・文/柴田 健(月バス.com)

(月刊バスケットボール)



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