月刊バスケットボール6月号

「ウインターカップの悔しさは、ウインターカップで晴らす」中部大第一

昨年の借りを返すべく優勝を目指す中部大第一

夏を制したバスケットスタイルをさらに研磨

 

約4か月前のインターハイ決勝戦。帝京長岡との息詰まるロースコアゲームを制し、悲願の全国初優勝を成し遂げた中部大第一。#17下山瑛司、#5福田健人、#14坂本康成、#7田中流嘉洲、#8アブドゥレイ・トラオレの不動のスターティングラインナップは平均身長191.6cmの高さを誇りながら、機動力も抜群。それを象徴するのが、彼らの最大の武器である豊富な運動量を生かしたダイナミックなトランジションオフェンスだ。

 

 

インターハイ決勝の最終スコアは54-37。この差は3Q(18-6)に一瞬のスキを見逃さずに相手を突き放したトランジションと、高さを生かしたインサイドの攻防が生んだものだった。「帝京長岡は僕の分析ではペイントにアタックしてくる2点を抑えるディフェンスをしていたように感じました。相手は2点を守りたいけど、ウチは高さがあるから2点を取りたかった。そんな展開で2点を抑えにきているからといって、ウチが外打ちに頼ってしまってそれが落ちていたら負けていたと思います。だからこそ、やりたいことを通していく道を選んで、多少強引にでもゴール下を攻めるようにしました」と、常田健コーチは当時を振り返る。

 

お世辞にも100%思い通りの試合展開ではなかったが、「中部大第一のバスケットはこれだ」と、言わんばかりの戦いだった。優勝という結果とともに、自らのスタイルを確固たるものとして夏を終えたチームは、真の意味で“追われる立場”として冬を迎えることとなった。

 

しかし、冬へ向けてのチーム作りは決して順調ではなかったという。「インターハイが終わって夏休みが明けると、9月にはまたコロナが増加して愛知県はかなり厳しい制限がかかりました。僕自身も国体の活動があったので、チームとして練習試合などができたのが10月の頭くらい。それにワクチン接種もウインターカップ予選が始まる前に2回させたかったので、選手を2週間くらいかけてローテーションで接種させていました。その間は誰かが帰ってくるとまた誰かがいなくなる。そんな感じで、選手全員が万全の状態でチームに戻ってきたのは予選が始まってからでした」と、ドタバタのうちに秋が過ぎ、気付けばウインターカップはすぐそこまで迫っていた。

 

 

迎えた愛知県予選では、コンディションは万全ではない中でも対戦相手を圧倒し、本戦出場権を獲得。ようやく心身ともにウインターカップへの最終調整段階を迎えたチームは、新チームになってから貫いてきた走るバスケットをさらに研磨している。「優勝して僕らの戦い方やストロングポイントが知られて、相手は必ず対策してきます。だからこそ、やり方を変えるのではなく、プレーの精度を上げることが大事だと思います。例えば桜花学園のように、相手がストロングポイントを分かっていても抑えられないというのが本当の強さですよね。そのためには自分の得意なプレーだけでなく、苦手なプレーにも目を向けること。そうした取り組みが結局は自分のストロングポイントを生かすことにもなりますし、嫌なことに挑戦することがメンタルタフネスにもつながると思っています」と常田コーチ。対策を講じてきた相手を真っ向から迎え打ち、その上で勝つ。そんな戦いが本戦でも期待できそうだ。

 

北陸戦の苦い記憶が今のチームの原点

 

振り返れば、昨年のウインターカップでは後に3位入賞を果たす北陸と1回戦で激突。公式戦を一度も経験できないままに強敵と戦ったこともあって相手の勢いに飲み込まれ、よもやの1回戦敗退を強いられた。その試合では「昨年は想定とは違う試合展開になって、選手たちがパニックになって自分たちの良さが消えてしまいました」と常田コーチが振り返るように、練習から相手を想定した対策を講じたが、それが裏目に出る形に。

 

 

そんな苦い経験をしたからこそ、「自分たちの良さを相手が消しにきたときに、それでも自分たちのバスケットをすることが、(試合経験の少ない)コロナ禍だからこそ大事」(常田コーチ)という教訓を得て、今年のチームはスタートしたのだ。その経験を持って臨んだインターハイで優勝できた成功体験もある。今年こそは何が起きたとして動じず、自分たちのバスケットがブレることもないだろう。

 

中部大第一は夏の王者としてウインターカップに乗り込む。しかし、彼らにとっては“昨年の借りを返すステージにようやく辿り着いた”という表現の方が正しいのかもしれない。トーナメントの左上のブロックは激戦区だ。中部大第一はシード権を得ているため2回戦からの登場だが、初戦の相手は洛南の可能性が高く、3回戦ではインターハイでも戦った福岡大附大濠もしくは開志国際とのマッチアップが想定される。

 

 

そんな過酷な組み合わせだが、バスケットスタイルと同様に目標もブレることはない。常田コーチは言う。「もちろん狙うのは優勝です。ウインターカップの悔しさは、やっぱりウインターカップで晴らす。それが1番大きな目標なので。インターハイで優勝できたことはすごく喜ばしいことですが、このチームはウインターカップで良い成績を残したいというところから始まったチームですから」

 



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