月刊バスケットボール5月号

Bリーグ

2021.12.17

おちゃめな笑顔のイバン・ラべネル(アルティーリ千葉) - 「千葉にレガシーを残すために全力で頑張ります」

 12月12日に第10節を終えたB3リーグで、16勝2敗の成績で2位につけているアルティーリ千葉(以下A千葉)。同日とその前日に千葉ポートアリーナで行われた山口ペイトリオッツとの対戦で連勝し、主力として期待してきた万能型ビッグマンのレオ・ライオンズが、11月4日のしながわシティバスケットボールクラブとの対戦で左足のアキレス腱を断裂し離脱というショッキングな出来事に見舞われながら、チーム力の高さを保っている。

 

12月12日の対山口ペイトリオッツ戦でのラべネルは22得点、11リバウンドのダブルダブルで90-67の勝利に貢献した


山口との連戦2試合目では、序盤の数分こそリードを奪われたものの、厳しいディフェンスとボールを奪ってからの素早いトランジションを土台としてハーフタイムまでには主導権を奪い、90-67と23点差をつけての快勝となった。


前日は3Pショットを高確率(42.9%)で決められていたが、この日は21.1%に封じており、アンドレ・レマニスHCも「その点の調整をしっかり遂行できました」と勝因を分析していた。「オフェンスでもインサイド、アウトサイドとボールが良く回りました。ディフェンスがうまくでき、相手がスクランブルの状態のうちに攻めていけたので、そういう流れになったと思います」とも話していたが、その言葉のとおり次々とボールがプレーヤーの手を伝い、あれよという間にゴール下のビッグマンの手に渡りイージーバスケットを生んでいく。ディスラプティブ(破壊的)なディフェンスとフローオフェンス(人とボールの流れ[flow]を生み出すオフェンス)を特徴とするレマニスHCのバスケットボールが、望みどおりの形で展開された。

 

この試合ではレマニスHCの望むバスケットボールができていた


B3参戦初シーズンの現在から、5年間でB1制覇という高い目標意識を持って取り組んでいるA千葉で、ここまで特に際立った数字を残しているプレーヤーの一人がイバン・ラべネルだ。ライオンズ同様に中でも外でも脅威となる柔軟性の高いビッグマンで、ここまでの18試合で平均23.44得点は堂々のB3トップ。山口との連戦でも初戦で27得点(5リバウンド、7アシスト)、2試合目で22得点(11リバウンド、2アシスト)と期待に応える活躍を見せた。


A千葉にはB3リーグトップクラスの数字を残しているプレーヤーが杉本 慶(5.33アシストが3位)、大塚裕土(フリースロー成功率94.44がトップ、3P成功率43.75が3位)、岡田優介(3P成功率45.45%が2位)、小林大祐(フリースロー成功率92.59%が2位)と複数存在している。一人頼みではないチーム力の高さを示すデータだが、ラべネルはその中で特に得点面の柱だ。


得点面の大黒柱としてアルティーリ千葉をけん引するラべネル


ボストン・カレッジ、オハイオ州立大学というNCAAディビジョン1の中でも伝統的に強豪として知られるチームでプレーしたラべネルは、2013-14シーズンからは母国を離れて海外のクラブでプロとして生きてきた。日本に初めてやってきたのは2015年で、このときは琉球ゴールデンキングス(当時はbjリーグ)でクラブとして4度目のチャンピオンシップ獲得に貢献した。昨シーズンは熊本ヴォルターズで、平均19.3得点と平均8.6リバウンド(ともにチーム1位)を記録している。


身長203cmで登録はパワーフォワード/センターとなっているが、前述のとおり器用さを備えており、ペリメーター・プレーヤーとしての能力の高さが際立つ。特に見ていてシグニチャー・ムーブと思えるのが、アウトサイドでボールを持ちディフェンダーとスクエアアップした際の、機敏でダイナミックなボールフェイクとプルバック・ドリブルからのクロスオーバームーブだ。初動となる一発目のアクションが素早く大きいために、ディフェンダーが左右に揺さぶられてゴールラインがこじ開けられる。あるいはバランスを失ったディフェンダーをよそに、そこからのいわゆる“キキ・ムーブ(ステップバック)”でワイドオープンの3Pショットを放り込む。もしディフェンダーの立場だったら、止める、あるいはスローダウンさせるのは容易ではないだろう。

 

ラべネルのドリブルは広いウイングスパンも生かしたダイナミックなボールフェイクが非常に効果的


山口相手の連勝を手にした後、ラべネルは会見に姿を見せた。A千葉入りしてからは初めてのことだ。のっしのっしと大きな歩幅で会見場に姿を現したビッグマンは、「前日に比べて相手チームの打ちたいショットをうまく抑えることができました。ディフェンスから我々がやりたいバスケットボールができて点差も開き、全員が出場して昨日よりも良いプレーをできたと思います」とまずは快勝を振り返った。


コート上で見せる緊迫感に満ちたアスリートの表情ばかりを見慣れていた。しかし目の前のラべネルは、それとはまったく異なる朗らかな笑顔でこちらからの質問に対応した。わかったことは2つ。非常に気さくな男であり、本腰を入れて千葉のバスケットボールを盛り上げようとしていることだ。以下に会見でのやり取りをまとめてみよう。


「いいヤツ? おおきに!」


――今日の試合では、チームとしてゴール下にボールをつないで得点する場面が多かったと思います。そうできた理由は何だと思いますか?


こちらとしてはやろうとしたことをしっかり遂行できました。相手のディフェンスがまだ整っていない時点で攻め込むことができたし、ケビン(コッツァー=202cmのパワーフォワード/センター)は体を使うのがうまいプレーヤーなので、しっかりシールして受けてくれていました。ミュージ(鶴田美勇士=201cmのパワーフォワード)も同じことがしっかりできていましたね。


――会見登場は今回が初めだと聞きました。


そうなんです。私はチームとして発信していきたいことについては協力していきたいと思っていますし、嫌いじゃないですよ(笑) 普段は自分の考えていることをあまりひけらかさない方なんですが、皆さんが興味を持ってくれていますし、コートでやっていることなどをしっかり話せたらと思います。


――日本の人々とのやり取りは好きですか?


ええ、もちろん! 私はこれまで世界のいろんなところでプレーしてきましたが、日本に来ていいなと思っていることの一つが、日本の人々はコミュニケションがとりやすいという点なんです。メディアもきちんと物事を伝えてくれますしね。今日は事前にこの機会があると聞いていたので、何を話そうかと楽しみにしていました。ちゃんと思っていることを発信できたらいいんですが(笑)


――ニックネームは“イー(E)”というそうですね。でも、ファンからどんなふうに呼ばれたらうれしいですか?


そうですね、日本では「R」や「V」が難しい発音になりますよね。実は故郷のみんなは「Rav(発音記号だとrˈæv)」と呼んでくれるんですけど、これは難しいでしょう(笑) 「いい」が日本語で「Good」なんだというのも聞いたので、これでいいかなと思っているんです。


――性格の良い仲間を指して「いいヤツ」とも言いますよ。「Good guy」という意味になります。


私は「いいヤツ」だからちょうどいいです(笑) 「Good guy」は「いいヤツ」になるんですね、わかりました。ありがとう! そういえば、ありがとうの言い方について、大阪の仲間からは違う言い方も教えてもらいましたよ。「オオカニ!」だったかな…。「おおきに」か!(笑) いいヤツと言ってくれておおきに!(笑)

 

笑顔をはじけさせるラべネル。会見の最後はきりっとした表情でクラブへの愛着と千葉のバスケットボールに対する情熱を語っていた

 

アルティーリ千葉でレガシーを生み出したい

 

――千葉では何かお気に入りの場所や物事を見つけましたか?


ほとんどの日は一所懸命練習してへとへとになっているので、帰ったら寝ちゃうんですよ(笑) でもビーチに行くことが多いかな。海の近くに住んでいますから。あとは東京も電車に乗ったら近いですしね。船橋もなかなかいいですね。レオ(ライオンズ)と仲良くしているんですけど、彼が以前千葉ジェッツでプレーしていたので、おすすめなんかを聞きたりしています。行きたいところがたくさんあるんですけど、時間ができたときの楽しみですね。


――今のチームについて、開幕前に何らかのイメージやどんなプレーをするかの計画があったと思いますが、どのくらい達成できていますか?


毎日頑張っていますが、どれだけやっても伸びしろというのはあるものです。今年築き上げたものが次の年の基準にもなるので、日々一つ一つ積み重ねていっていますよ。コーチ陣を含め全員が高い目標を達成したいと思っているので、毎日一人一人が改善していけたらよいと思っています。


このアルティーリ千葉というクラブには本当に感謝しています。以前琉球ゴールデンキングスでプレーしていたときに一緒だったアンソニー・マクヘンリー(現信州ブレイブウォリアーズ)とも話すのですが、琉球も長い苦難の時期を乗り越えて今ではビッグクラブになっています。そうしたレガシーを、私は千葉で作っていきたいと思っています。このチームが必要としてくれる限りは、全力で頑張っていくつもりですよ!


――うまくいくといいですね!


おおきに!(笑)


ちゃめっ気のある笑顔をひとしきりはじけさせた後、「千葉にレガシーを残したい」と語るアツい男、イバン・ラべネル。お世辞抜きにA千葉は「いいヤツ」を獲得したという感想だ。


写真/石塚康隆(月刊バスケットボール)

取材・文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)

 



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