月刊バスケットボール5月号

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2021.11.18

女子アジアカップ2021Div. Bの話題5選-5 ベストプレーヤーは誰だったのか

 最終的にレバノン代表が優勝し、ディビジョンA昇格を決めたFIBA女子アジアカップ2021ディビジョンBでベストプレーヤーを選ぶとすればどんな顔ぶれか。またそこから何か発見できることがあるだろうか。観戦した試合の内容、全体の試合結果、個々のスタッツから判断すれば、以下の4人は多くの人から高い評価を得るのではないかと思う。

 

ディビジョンBのスターたち

※以下、略記はP=得点、FG=フィールドゴール成功率、3P=3P成功率、FT=フリースロー成功率、R=リバウンド、A=アシスト、S=スティール、B=ブロック、Eff=エフィシエンシー、M=出場時間(分)

 

©fiba.asiacup2021

レベッカ・アクル(レバノン) PG 170cm
19.5P(FG46.3%、3P37.5%、FT81.5%)、7.0R、6.3A、1.8S、0.0B、Eff24.0、36.7M

 

©fiba.asiacup2021

ナターシャ・クラウド(ヨルダン) PG 183cm
16.3P(FG36.4%、3P29.2%、FT75.0%)、6.5R、7.3A、3.3S、0.8B、Eff21.8、35.9M

 

©fiba.asiacup2021
ランディ・ブラウン(シリア) G 175cm
20.8P(FG32.9%、3P20.0%、FT78.6%)、7.3R、2.0A、3.0S、0.0B、Eff16.0、34.9M

 

©fiba.asiacup2021
キム・ピエール-ルイス(インドネシア) PF 183cm
19.2P(FG50.0%、3P14.3%、FT65.2%)、10.4R、2.4A、2.0S、1.2B、Eff24.0、30.7M

 

©fiba.asiacup2021

ブリタニー・ジェネル・デンソン(レバノン) C 191cm
11.3P(FG51.9%、3P50.0%、FT80.0%)、6.3R、2.3A、1.5S、1.3B、Eff16.0、25.5M


この5人は、得点、フィールドゴール成功率、3P成功率、フリースロー成功率、リバウンド、アシスト、スティール、ブロックショット、出場時間、エフィシエンシーの10項目で、単純に上位に登場するプレーヤーだ(文末資料参照)。しかし、試合を見れば確実に目を引く存在だったプレーヤーばかりが並んでいる。


ただし、そうした選び方をしているだけに、例えば現代バスケットボールで重要な項目の一つである3Pシューターのスペシャリストがいない。そのようなプレーヤーを、3P成功率と成功数から挙げると、レバノン代表の2人 - ダニエラ・ファイャド(PF 180cm)およびラマ・モウクデム(SG 173cm) - が適切なように思える。ファイャドは成功率1位、モウクデムは1試合当たりの成功数がトップタイだ。

 

3P成功率が今大会トップだったダニエラ・ファイャド(写真/©fiba.asiacup2021)

 

ラマ・モウクデムをはじめ、レバノン代表には決定力の高いシューターがそろっていた(写真/©fiba.asiacup2021)


成功数ではヨルダンのラシャ・アブドゥ(G 164cm)がモウクデムとタイで、出場した4試合すべてで2本以上を決めている点でも捨てがたい。しかしモウクデムの40.9%の成功率がアブドゥ(36.0%)を上回る。またモウクデムはチームのチャンピオンシップ・ランにおいて、ヨルダン代表との決勝戦で8本中4本成功と爆発力をみせた。


ファイャドはやはり全試合で少なくとも1本以上は成功させており、レバノンが最も苦戦した初戦の対イラン代表選で5本中3本を決めた。決勝で1本だけ放ったアテンプトもしっかり成功させている。となると、ファイャドかモウクデムのどちらを選ぶかとなれば、勝負強さを取るか、爆発力を取るかといった判断で、あとは選ばなければいけない人の感覚だろう。

 

ラシャ・アブドゥはシューターらしく積極的にゴールを狙っていた(写真/©fiba.asiacup2021)

 

アジアの女子バスケに北米の関心が向いている


こうして名前を並べてまず気づくのは、5人中アクル以外の4人が帰化プレーヤーであることだ。ディビジョンBの各国は、帰化プレーヤー獲得に力を入れている。それは例えば、今大会に出場していないタイでも行われている。FIBA世界ランキング86位の同国は、2019年に行われた東南アジア大会(Southeast Asian Games)でWNBAプレーヤーのティファニー・バイアスをロスターに加えていた。


これが意味するところは明確には分からない。しかし、アジアにおける女子バスケットボール・マーケットに、北米の目が向いていることは少なくとも間違いないだろう。ポストコロナ、ウィズコロナのライフスタイルがさらに確立されていけば、より活発な人材交流が進むのかもしれない。


3Pシューターに関しては、アブドゥの成功率36.0%が大会全体の10位だった。トップ10にはレバノン代表とカザフスタン代表のプレーヤーが3人名を連ねており、両チームが4強入りしていることからも、ディビジョンBでも3Pシューティングが戦術面のカギとなっていることも感じられる。強いチームはスリーが入るのだ。ピック&ロール、ドライブ&キックといった戦い方も、各種のゾーンディフェンスも仕掛けてくる。


これが意味するところは、世界の上位国が採用している戦術やフィロソフィーが、アジアでも広く浸透しているということだ。今や情報に関しては各国間の格差が相当解消されている。想像するに、決定的に足りないものはデモンストレーターのように思うが、そこにWNBAやNCAAディビジョンIの経験者が加わることで、その問題が解決してしまう。

 

 単純な話、情報格差がなくなってきているところに、そばにWNBAスターがやってきて「一緒に頑張ろう」と言われたら、周囲のプレーヤーが得るインスピレーションは、それまでとは段違いに高まる。今後急速に、アジアのバスケットボール・マップを変えるかもしれない要素を見ているようで、興味深いディビジョンBの戦いだった。


☆スタッツ10項目のトップ3(いずれも平均値)

エフィシエンシー
1. キム・ピエール-ルイス(インドネシア) 24.0
1.レベッカ・アクル(レバノン) 24.0
3.ナターシャ・クラウド(ヨルダン) 21.8


得点
1. ランディ・ブラウン(シリア) 20.8
2. レベッカ・アクル(レバノン) 19.5
3. キム・ピエール-ルイス(インドネシア) 19.2


フィールドゴール成功率
1. アイダ・バコス(レバノン) 53.1%
2. キム・ピエール-ルイス(インドネシア) 50.0%
3. ガブリエル・ソフィア(インドネシア) 47.7%

 

3P成功率

1. ダニエラ・ファイャド(レバノン) 53.8%
2. ヘニー・スッジオノ(インドネシア) 50.0%
3. タマラ・ヤゴッキナ(カザフスタン) 45.8%


フリースロー成功率
1. アイダ・バコス(レバノン) 89.5%
2. レベッカ・アクル(レバノン) 81.5%
3. ブリタニー・ジェネル・デンソン(レバノン) 80.0%


リバウンド
1. キム・ピエール-ルイス(インドネシア) 10.4
2. エドナ・エサイアン・ジャンギ(イラン) 9.3
3. ザリーナ・クラゾワ(カザフスタン) 7.8


アシスト
1. ナターシャ・クラウド(ヨルダン) 7.3
2. アグスティン・エリヤ・グラディタ・レトン(インドネシア) 6.6
3. レベッカ・アクル(レバノン) 6.3


スティール
1. ナターシャ・クラウド(ヨルダン) 3.3
2. ランディ・ブラウン(シリア) 3.0
3. キム・ピエール-ルイス(インドネシア) 2.0


ブロックショット
1. マスメ・ソウジャニ(イラン) 1.7
2. ブリタニー・ジェネル・デンソン(レバノン) 1.3
3. キム・ピエール-ルイス(インドネシア) 1.2


出場時間(分)
1. レベッカ・アクル(レバノン) 36.7
2. ナターシャ・クラウド(ヨルダン) 35.9
3. ランディ・ブラウン(シリア) 34.9

 

文/柴田 健(月バス.com)

(月刊バスケットボール)



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