月刊バスケットボール5月号

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2021.11.17

女子アジアカップ2021ディビジョンBの話題5選-2 ナターシャ・クラウド(WNBAワシントン・ミスティクス)がヨルダン代表で活躍

 FIBA女子アジアカップ2021のディビジョンA・Bいずれの大会でも開催国となり、ディビジョンBで自国代表が出場したヨルダン。その代表チームは、今大会で最も大きな驚きをもたらしたチームだったかもしれない。

 

 ポイントは2つ。まず一つ目は、大会直前にWNBAのワシントン・ミスティクスに所属するナターシャ・クラウドの加入を発表したことだ。そして2つ目は、今大会を通じて、クラウドを軸としながらも、一人頼みではないチーム・プレーで決勝進出の快進撃を演じたこと。アジアカップ出場は1995年以来26年ぶりで、大会公式サイトの予想では6チーム中の5位だったヨルダン代表は、その予想を覆す大躍進を遂げた。

 

攻守にわたるクラウドの活躍がヨルダン代表の快進撃原動力となった(写真/©fiba.asiacup2021)


4人が2桁得点を記録して76-64の勝利を手にした初戦の対インドネシア代表戦後、ファイサル・エンスールHCは「前週トルコで親善試合をしたときにも、ナターシャに頼らないようにということを注意点にしていました。彼女はもちろん非常に大事な存在ですが、今日は周りのみんなが、異なる時間帯にステップアップしてくれましたね」とチームでつかんだ勝利を振り返った。この1勝で波に乗ったヨルダン代表は続くカザフスタン代表との試合にも勝利し、グループBを2勝のトップで通過した。

 

 クラウド自身は今大会でヨルダン代表が戦った4試合すべてにスターターとして出場し、平均16.3と得点(今大会4位)、6.5リバウンド(同9位)、7.3アシスト(同1位)、3.3スティール(1位)と攻守に活躍。数字を見ても、ヨルダン代表の躍進に欠かせない存在だったのは明らかだ。特に準決勝の対カザフスタン戦では25得点、10リバウンドのダブルダブルに7アシスト、5スティール。クラウドの攻守両面にわたる貢献があればこそ、ヨルダン代表はこの試合に61-56で快勝を手にすることができた。


ヨルダン代表は最新のFIBA世界ランキングで123位。ディビジョンA昇格を目指して臨んだレバノン代表との決勝戦では、国際舞台での経験不足を露呈していたことは否めない。過去に体験したことのないような母国ファンの大歓声の中で本来の力を出せずに終わってしまったが、エンスールHCは「眩しい光の中で我を失ってしまいました。でもここまで来たのは初めて。チームを誇りに思います」と前を向くコメントを残していた。


ディビジョンAに昇格できなかったヨルダン代表は、2年後のアジアカップでもディビジョンBでプレーすることになる。しかし今大会の開催国となり、強力な帰化選手も獲得して昇格まであと一歩まで到達した流れは、強化に対する力の入れようが相当高く、確実に実を結んでいることが感じられる。

 

 このチームがディビジョンBにいること自体、アジア全体の女子バスケットボール普及・発展が思いのほか速いスピードで進もうとしている兆候と見るべきだろう。ディビジョンAとディビジョンBの「縦軸2段階」のレベルに分かれている現在の枠組みも、近い将来見直される可能性があるのではないだろうか。

 

クラウド(前列一番左)の「獲得」はヨルダン代表、あるいは西アジア諸国の女子バスケットボールに対する意欲の高さの表れだ(写真/©fiba.asiacup2021)

 

文/柴田 健(月バス.com)

(月刊バスケットボール)



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