月刊バスケットボール6月号

福岡第一・佐藤涼成&轟琉維/県優勝の立て役者となった2ガード

福岡第一・佐藤涼成&轟琉維

県優勝の立て役者となった2ガード

 

 タイムアップの瞬間、福岡第一の#88佐藤涼成が、ベンチや観客席に向かって言葉にならない喜びの雄叫びを上げた。11月3日に行われたウインターカップ福岡県予選決勝、我慢比べに耐えた福岡第一が69‐60で福岡大附大濠に勝利。両チームともに全国出場を決めているとはいえ、宿命のライバルに夏のリベンジを果たした喜びは大きなものだった。

 

 試合後のインタビュー、井手口孝コーチは「我慢の毎日でした」と涙ぐんで振り返った。6月のインターハイ県予選で、大濠に1点差で敗れてから約5か月。それはあまりにも長い夏だった。インターハイ出場を逃し、コロナ禍で九州大会や国体、天皇杯九州予選など数々の大会が中止に。約1か月間、練習が全くできない時期もあり、井手口コーチが「チームが一度崩壊しました」と振り返る言葉には、計り知れない苦労がにじんでいた。ようやく練習が始まってからも、約100人の部員を約20名のAチームとそれ以外とで分け、寮や練習場所を別々に。練習試合も一切自粛し、前年以上に難しいチーム作りを強いられてきた。

 

 そうした背景がある中、何とか臨んだウインターカップ予選。福岡第一の選手たちが生き生きと戦っているように見えたのは、試合ができるありがたみ、そして大勢の仲間たちと同じ空間にいられる喜びをあらためて知ったからなのかもしれない。試合中は応援席の拍手やバルーンスティックの音が会場内に響き渡っていたが、「試合中なんですけど、音とかを聞いて『あぁ、すごいな』って…。全員が気持ちを込めて応援してくれているのが伝わってきて、ありがたかったです」と感謝を述べたのは佐藤。「自分たち20人くらいは100人いるチームの代表として、あの体育館で練習させてもらっています。決勝は別の体育館で練習している仲間たちに『見えないところでも頑張ってきたぞ』と見せる機会でもあったので、勝てて本当に良かったです」と喜びを語った。

 

 この大濠戦、チームを勝利に導いたのがその佐藤と、2年生の#8轟琉維だ。福岡第一が誇る今年の2ガードは、互いに強固な信頼関係で結ばれており、佐藤が「一番安心してボールを預けられます」とコメントすれば、轟も「佐藤さんはすごく頼もしくて、ボールを持った自分が困ったときにもすぐに助けに来てくれます」と言う。試合前の井手口コーチの指示は、佐藤と轟で点を取ること。「お前たちなら相手も絶対に止められない、強気で行け、と“暗示”をかけました。実際そのとおりにやってくれた」と、指揮官も手放しに称賛する大活躍で、2人は期待に応えてみせた。

 

 

 そんな2人の背番号には、共通して“8番”が入っている。佐藤はもともと、同じ地元で兄のように慕う千葉エイト(盛岡南高→白鷗大卒)が8番だったことから、ミニバスや中学時代のクラブチームで8番を付けており、番号に特別な思い入れがあった。高校に入学してからは、2つ上の憧れの先輩・河村勇輝(東海大)が8番を付けていたため88番に。そこには「河村さんを超えたい」という強い意気込みも含まれていた。

 

 一方の轟も、8番を付けたのはやはり河村を意識してのこと。3歳違いのため福岡第一には入れ替わりでの入学となったが、憧れの選手を聞けば真っ先に河村の名を挙げ、井手口コーチからも8番を背負うのはお前だと期待を寄せられる。今回のウインターカップ決勝の日の夜、Twitterで「福岡第一高校の皆さん、優勝おめでとうございます」という河村のつぶやきに、富樫勇樹(千葉)が「8番着て試合出てたよね?笑」とリプライしていた。試合の翌日、轟にその話を振ると「そんなことないです(笑)。全然まだまだ」と苦笑いだったが、目指しているところは彼らのような日本を代表するPG。今は井手口コーチから「富樫勇樹のプレーを見て学べ」とアドバイスを受け、点の取り方などを参考にしているそうだ。

 

 河村が卒業する前、井手口コーチが冗談交じりに「河村ロスはあるでしょうね」と話していたことがあったが、河村が抜けたこの2年間、福岡第一ではそれぞれに光るものを持った頼もしい後輩たちが着々と成長中。大濠戦では1年生の崎濱秀斗や2年生の中村千颯も、ベンチから出場して抜群のスピードを生かし存在感を見せていた。ウインターカップに向け、2年生の轟は「河村さんは2年生のときにもウインターカップでしっかり優勝しているので、僕もそれに負けないように優勝したいです」とコメント。この冬、憧れの先輩を追う全国屈指のガード陣たちを軸にして、長く苦しい夏を乗り越えた福岡第一の逆襲が始まろうとしている。

 

※福岡第一#88佐藤涼正&#8轟琉維の特集は、11月25日発売の『月刊バスケットボール1月号』で!

 

取材・文/中村麻衣子(月刊バスケットボール)

写真/山岡邦彦

 



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