月刊バスケットボール5月号

鳥羽と京都両洋によるプライドを懸けた京都府3位決定戦

 

 “高校バスケの集大成”というと、真っ先に思い浮かぶのがウインターカップだ。

 

 しかし、必ずしもそれだけがゴールというわけではない。実際、ほとんどの高校3年生が夏のインターハイ、あるいはウインターカップ本戦を前に引退の時を迎えることになる。10月31日に行われたウインターカップ京都府予選最終日でも、アツい戦いが繰り広げられた。

 

 男子の決勝リーグに洛南、東山の2強と共に勝ち残った鳥羽と京都両洋は、最終日前日の時点で共に2敗を喫し京都府から2校が出場権を得るウインターカップへの道は閉ざされた。

 

両校の対洛南、東山の戦績は以下の通り。

■鳥羽

 vs.東山 70-98(11-27、16-19、23-25、20-27)

 vs.洛南 63-77(16-16、14-14、11-25、22-22)

 

■京都両洋

 vs.洛南 72-96(14-26、14-17、14-29、30-24)

 vs.東山 65-95(17-22、14-22、20-24、14-27)

 

今シーズンを締め括るに相応しい

最後の1秒まで分からない激戦

 

 互いに善戦するも2強の高い壁を打ち破るまでには至らなかった。しかし、戦いはまだ終わらない。鳥羽の福嶋一夫コーチは洛南戦後に肩を落としつつも「明日は絶対に勝ちます。3位だけは絶対に譲らない」と、気を引き締めていた。

 

 京都両洋とて思いは同じはずで、全国の注目が集まる洛南vs.東山の前に行われた第一試合が両校のシーズンの締めくくる一戦となった。序盤、リードをしたのは鳥羽。#60奥田晴大、#91杉村真瞳らサイズに勝るインサイド陣を軸にペイント内で得点を重ね、オープンコートでは、洛南戦でも鋭いドライブで得点を重ねた#70吹田陸斗が躍動し、リードを保った。

 

抜群の突破力を見せた鳥羽#70吹田陸斗

 

 一方の京都両洋はスタメンの最長身が180cmという小柄なチームながら、常にアグレッシブなペイントアタックとキックアウトで動き続け、オープンスリーやレイアップでダイナミックなオフェンスを展開。#12小川凌来の連続3Pなどで食らい付き、前半は鳥羽がわずかに2点をリード(41-39)するのみ。

 

 後半に入っても両チーム一歩も引かず、1点差で試合は最終クォーターへと突入する。最終クォーターは鳥羽が杉村と吹田の連続得点でリードを5点に拡大。流れを渡したくない京都両洋はたまらずタイムアウトをコールし、タイムアウト明けに盛り返し残り1分でスコアは66-66の同点。

 

 迎えた最終盤で鳥羽のセンター奥田が味方のシュートのこぼれ球をバスケットカウントでリングにねじ込む値千金の一発。京都両洋も試合時間残り5秒で#11森弥月がファウルを獲得し逆転の可能性を残したが、森のフリースローは2投ともリングを捉えることはできず。70-68で鳥羽が大激戦を制して京都府3位の座を死守した。

 

それぞれが歩んだ1年間

3年生から後輩たちへのバトンタッチ

 

 3年生中心の鳥羽は「入学したときからずっと福嶋(一夫)先生と『全国に行くぞ』と話して、打倒洛南・東山を掲げてやってきた」とキャプテンの#13半田西之介が言うように、昨年からの主力が多く残った勝負の年だった。福嶋コーチも「2強に両方勝つことは難しいから、今大会では洛南に照準を絞って前半はとにかくディレイドでロースコアに持っていって、ゾーンディフェンスなどを準備してきました」とジャイアントキリングを信じて対策を講じてきた。その結果、最終スコアこそ14点差と離れたが、ランニングスコアを見ると3Q以外は全て同点という堂々の戦いを演じたのだ。

 

左から#60奥田晴大、#13半田西之介、#91杉村真瞳、#92半田桃志郎

 

 京都両洋との最終決戦でも「自分たちのプレーをしっかりして、負けそうになりましたが、保護者の方も含めて鳥羽の団結力を見せることができました。最後は良い終わり方ができたと思います」と吹田。彼自身、新人戦がなくなったことに加え、半月板のケガでインターハイ予選は欠場。「この大会が僕にとって自分らの代で戦う最初で最後の大会になりました。だからこそ、自分ができる最大限のプレーをコートで発揮できたことは良かったです」と大きな財産を得た。

 

 半田も「昨日の試合(対洛南)でみんな落ち込んでしまったけど、周りのメンバーが『切り替え切り替え』って声をかけてくれて、今日も戦うことできました。ヤンチャな集団でまとめるのに苦労しましたが、最後で一つになれたと思います」と大会を総括すると共に「2強との差はリバウンド。僕らも新人戦までは後輩たちの練習相手になるので、リバウンドの部分で『自分たちからリバウンドが取れんのやったら、洛南と東山も止められへんぞ』というのを背中で見せていきたいです」と後輩たちにバトンを託す。

 

 一方の京都両洋は、今夏のインターハイ予選にはコロナの影響で出場できず、今大会でベンチ入りした3年生は#4藤井惇平ただ一人。下級生主体のチームでバックアップを務めた藤井の出番は限定的なものだったが、「インターハイまでで引退を決めていた3年生が大会もないままに引退してしまった中で、ただ一人藤井が残ってくれました。彼は器用な選手ではないんですけど、仲間からの信頼も厚くて泥臭いことを一生懸命する選手です。3年間トータルで見て、一番僕のバスケットを理解して、それを表現し続けてくれた選手でした」と瀬戸山京介コーチ。

 

プレータイムこそ短かったが#4藤井惇平は間違いなくチームの柱だった

 

 下級生が存分に力を発揮できたのは藤井の存在あってのもの。「昨日の試合で今日が引退の日と決まってしまったので、今日は全てを出し切ろうという気持ちだけでした。(コロナの影響で)新人戦とインターハイ予選がなくなってしまって、このまま終わってしまったら悔いが残ると思いました。だから、キャプテンとしても残るしかないと思って、ここまでプレーすることを決めました」と藤井。

 

 ベンチからも積極的に声を出して最後まで3年生としてのプライドを持って戦い、試合後にはフリースローミスにうなだれる森の肩を抱き「来年は絶対に勝ってくれ」とだけメッセージを残したという。

 

 

 大会後、鳥羽・福嶋コーチは「京都両洋は瀬戸山先生が築き上げて、少しずつ強化してきた形が定着しつつあります。うちが4年連続で3位、両洋が3年連続ベスト4。そういう意味ではこれからも両洋とは洛南と東山の後をどちらが奪うかという戦いが続いていきますし、僕ら2校のレベルアップが2強を脅かすことになると思うので、もっと京都府の戦いをおもしろくしていきたいです」と、今後も新たなライバル関係として切磋琢磨していくことを誓った。

 

 両校とも2強と戦える手応えを得たと同時に、改めてその壁の高さを痛感することとなった今回のウインターカップ京都府予選。全国への切符をつかんだ洛南と東山は、もちろん注目すべき存在だ。

 

 ただ、ミニバスも中学も高校も大学も、どんなカテゴリーであれ学生バスケには決められた期間で必ず引退の時が訪れる。この鳥羽と京都両洋のように、全国に至るまでに敗れていった者たちにもそれぞれのストーリーがあることを、我々は決して忘れてはならない。

 

写真/松村健人

取材・文/堀内涼(月刊バスケットボール)



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