月刊バスケットボール5月号

Bリーグ

2021.10.27

育英高校2016キャプテン、U22日本代表候補、藤本巧太はアルティーリ千葉からどこまでいけるか

スピードに乗ったドライブからゴールを狙う藤本

 

 B3リーグに今シーズンから新規参入し、開幕から6連勝中のアルティーリ千葉で、控えのプレーメイカーとして存在感を増している藤本巧太。兵庫県出身で、大学時代にはU22日本代表候補にも名を連ねた。身長175cmの23歳。驚くべきスピードと思い切りの良さでチームの力になっている。


育英高校3年時はキャプテンとしてウインターカップ3回戦に進出


存在感を高めているとは書いたものの、藤本はA千葉にとってファンの前で行う初めての試合となった川崎ブレイブサンダースとのプレシーズンゲーム(9月11日開催、56-91の黒星)の時点から、光る存在ではあった。藤本はこの試合にスターターとして出場し、前半終了間際のハーフコートショット成功を含む10得点、3リバウンド、1アシスト、1スティールを記録している。また、学生時代からの藤本の活躍を知っている人も多いだろう。


名門として知られる育英高校時代は1年生からスターター。最終学年ではキャプテンを務め、インターハイでは県予選で大会の最優秀選手賞を受賞し、本戦でベスト16入り。ウインターカップも3回戦に進出した。同大会最後の試合は北陸高校が相手で、85-86の1点差という熱戦の中で藤本自身も19得点、8アシストと活躍した。

 

 高校卒業後に進んだ大阪体育大学では、1年生時に関西学生バスケットボール新人戦でチームを優勝に導き、自身も最優秀新人賞を受賞。関西5位で出場したインカレでは、初戦で筑波大学に82-109で敗れたものの、フィールドゴール12本中6本(3Pショットは1/1)を成功させて13得点、3アシスト、2リバウンドの記録が残る。2年生時には冒頭で触れたとおり、U22日本代表候補第1次スプリングキャンプのメンバーに招集されている。


今年5月にはB1の舞台も経験した。5月2日におおきにアリーナ舞洲で行われた大阪エヴェッサ対滋賀レイクスターズ戦の第4Q残り3分4秒、エヴェッサの一員としてB1のコートに初めて登場した藤本は、ファーストタッチから得点機を作りだした。巧みなドリブルでマッチアップした野本大智を揺さぶり、右エルボー付近から思い切りよくジャンプショット。これが決まって、デビューの瞬間から10秒もたたないうちに初得点を記録した。


大阪エヴェッサでの出場は3試合。平均5.0得点、フィールドゴール成功率50.0%、3P成功率42.9%、1.7アシスト、1.3リバウンドというスタッツを残した。特に5月9日の3試合目、対シーホース三河戦(84-97の敗戦)での、28分12秒出場して10得点、3アシスト、1スティール、そしてターンオーバーゼロというパフォーマンスは特筆すべきものだ(ターンオーバーは3試合を通じてゼロだった)。


10月17日に千葉ポートアリーナで行われたA千葉対アイシン・アレイオンズの試合後、この日フィールドゴール5本中4本を決めて9得点を挙げ勝利に貢献した藤本について、アンドレ・レマニスHCは「勢いをもたらしてくれた」と評価し、さらにプレーの特徴を次のように話した。「彼ならではの持ち味である速さを生かし、ディフェンスの間を割ってペイントに攻め込み、相手にローテーションを強いるんです。そこから自分で決めてこられるし、パスも非常にうまい。ディフェンスではアキ(秋山 煕)とともにバックコートからプレッシャーをかけていけます」

 

10月17日、千葉ポートアリーナでのホームゲームに勝利した後、客席に手を振る藤本

 

☆次ページ: 10.23-24対豊田合成スコーピオンズ戦の藤本をレビュー

 翌週、豊田合成スコーピオンズとの2試合は、ゴールドジム幕張ベイパークアリーナというキャパシティー自体が200人程度の非常にコンパクトな会場だった。両日とも前週と同じく、A千葉のクラブカラーであるブラックネイビーのアイテムを身に着けたファンが場内を埋めていた。

 

“選ばれし200人”の前でキャリアベストを更新

 

 少し藤本の話とは離れるが、この試合に来場したファンたちは、特別な感覚を持ち帰ったのではないかと思う。


モダンな幕張の街中に作られたこのアリーナは、バスケットボール・コートとそれを取り囲む特等席だけが用意されたような空間だ。来場者は全員が、豪快なダンクやスピーディーなブレイク、フィジカルなぶつかり合いをすぐ目の前で体感できる。ファンは両チームのベンチとほぼ同じ距離感で、プレーヤーたちの真剣なまなざしや生き生きとした表情を心に刻む。

 

 ときには感情をあらわにしたビッグマンの雄たけびが、地鳴りのように場内を揺るがす。コンパクトな場内だからこそ、それはファンの背中の壁側からも跳ね返ってこだまする。間近から絶え間なく飛んでくるバッシュがフロアとこすれるキュキュッという音やホイッスル、客席から鳴り響く手拍子のリズム。そういった心地よいノイズが場内に響き渡り、臨場感や躍動感を何倍にも増幅した。


そこにいたのはこの試合を見たいと思い、見ることができる状況にあり、実際にチケットを買った“選ばれし200人”だけ。来場観戦を選んだのはもちろん200人の方々のほうだが、こうした感覚を思い出として持ち帰る「特権」を得たのはこの方々だけだ。今後A千葉が順調に発展を遂げるとすれば、プロ球団として大きな会場を望むのが自明であり、こうした試合は減っていく。きっと将来、この日の感触は貴重な体験として振り返られることだろう。


藤本はこの週末の初戦だった23日の試合で、その“選ばれし200人”にここまでのキャリアハイとなる13得点をプレゼントした。フィールドゴールは8本中4本成功で、そのうち3Pは6本中3本成功。アシストが3本、スティールも2本あった。試合は、苦労しながらも最終的には97-79と引き離して勝利した。


翌日の2試合目ではペイントアタックから3本のフィールドゴールを決め8得点。前日とは打って代わってこの日は3Pショットアテンプト自体がなかったが、アグレッシブなドライブ、ディフェンスでの厳しいボール・プレッシャー、「50-50(フィフティ・フィフティ)ボール」と言われるような、どちらに行くかわからないルーズボールへの果敢なダイブなど、見ごたえ満点のプレーぶりだった。チームとしては前日以上の苦戦で、前半は44-48と4点を追う状態。しかし後半立て直し、93-79と引き離して今シーズン6勝目を手にしている。

 

10月23日の試合での藤本は3Pショットを積極的に狙い、決めていた


藤本のアベレージは、この試合を終えた時点で平均7.2得点、フィールドゴール成功率50.0%、3P成功率54.5%、2.3アシスト1.3リバウンド、0.7スティール。一つ一つのポゼッションに全力を投入する堅実な姿勢がどの試合でも印象に残るが、コメントを依頼すると藤本自身からも、「どんな状況であれ、全力でプレーすることを心掛けています」という答えが返ってきた。「途中出場なので、出るときにはスピード感であったり、ゲームの流れが少しでも変わるようにプレーしようと思っています。ディフェンスでは相手のガードに簡単にプレーさせないようにプレッシャーをかけ続け、オフェンスでは速いペースになるようにゲームメイクし、隙があったら得点を狙いに行くようにしています」


A千葉は大塚裕土や岡田優介など、高確率で決められるショットメイカーがそろっている(大塚はここまで3P成功率58.3%がB3リーグ1位、岡田は57.1%で同2位)ので、藤本としてはチームメイトが相手の注意を引き付ける中で自らに訪れるチャンスをモノにすることも意識しているという。得点のキャリアハイも、「その成果が少し出たのかなと思っています」と謙虚に分析した。「課題はたくさんあるのですが、日々コーチやチームメイトからたくさんのアドバイスをいただいているので、素直に受け止めチームの力になれるように頑張って一つ一つ勝ち進み、自分たちの目標を達成できるよう頑張ります」


翌24日の試合では、「前半あまり思うように試合運びをできず、ガードとしての役割を果たせなかった」ことを反省点に挙げたが、「後半は自分の持ち味のスピードを活かし得点ができ、ディフェンスではアグレッシブに粘り強くガードにプレッシャーをかけられたと思います」と前を向くコメントを返してくれた。レマニスHCからは常々、「日々、自分のベストを出すことにフォーカスする」ことを求められていると言い、「それを忘れず、試合はもちろんのこと、練習中から意識してやって行きたいと思います」とさらに意欲を高めたようだ。


A千葉の「偉大な歴史」の始まりにおいて、最年少の藤本は世界的な名将の下で成長する機会を得た。期待に応え続けていけば日本代表でもオールスターでも、夢は無限に広げることができる。どこまでいけるか。ゴールドジム幕張ベイパークアリーナに集まった“選ばれし200人”は、キャリアハイのお返しに藤本を見守る責任があるかもしれない。

 

攻守にスピードが際立つ藤本のプレーぶりに、客席からはたびたび大きな拍手が沸き起こった


取材・文・写真/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)



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