月刊バスケットボール5月号

3x3

2021.10.22

3x3の未来へ向けてーー齊藤洋介と高校生たちの挑戦

 

 ドアを開けると、そこに広がっていたのはハツラツとした選手たちの笑顔とバスケットボールに対する真剣な眼差し。ここは「F1 STUDIO」。東京・新木場駅近くにある都内初の3人制屋内バスケットボール専用コートだ。

 

バックグラウンドなんて関係ない!

誰しもがトップを目指せる、それが3x3

 

 取材に伺ったのは10月1日。この日集まっている選手たちはいずれも高校生で、それぞれが普段は別の場所でプレーし、高校の部活動に所属している者もいれば、そうでない者もいる。さまざまなバックグラウンドを持つ選手たちが、男女を問わずグレーとブラックのコートでともに汗を流しているのだ。

 

「いろいろバックグラウンドを持った選手たちがここに来ていて、そんな選手たちにも全国優勝できるチャンスがある舞台が3x3なんです」

 

 その言葉の先には齊藤洋介の姿があった。自身もUTSUNOMIYA BREX.EXEに所属し、第一線で活躍するプレーヤー。9月11日に行われた『3x3.EXE PREMIER JAPAN 2021 PLAYOFFS presented by PORSCHE』 では優勝&MVPに輝いている3x3界のレジェンドだ。そんな齊藤は現役選手としての活動と並行し、3x3という競技の普及にも尽力している。

 

この日はピックに対するディフェンスの指導。熱のこもった時間が流れていた

 

 今夏の東京2020オリンピックで初の正式種目となった3x3は、2024年のパリ・オリンピックまでは正式種目としての採用が決定している。東京大会で、日本代表は男女ともに決勝トーナメントに進出。男子は準々決勝で敗れたものの、のちに優勝するラトビア相手に18-21と善戦。女子も男子同様に準々決勝でフランスの前に敗退(14-16)したが、予選ではそのフランスにも勝っているし、のちの女王アメリカにも20-18で金星を挙げるなど実力は折り紙付きである。

 

 しかし、現状は3x3の存在自体を知らない、もしくはやったことがないという選手が大半を占める。そんな状況だからこそ、未来のオリンピアンになるかもしれない若い世代、特に高校生世代への指導に力を入れているのだ。「この子たちが今18歳で、パリ・オリピックまでは残り3年です。その頃には彼らは21歳になります。2、3年後に代表活動に呼ばれるのかは分かりませんが、そんな世代の選手がまず3x3を知らない、やったことがないという段階では、せっかくオリンピック種目なのにもったいないです。高校生世代にまずは3x3を知ってほしい、プレーしてほしい、同時にチャンスがあることを知らせたいという思いがあります」と齊藤。

 

バスケットが好きな気持ちが大前提

自ら考え楽しみながら競技力を底上げする

 

 だからこそ、指導にも熱が入るが選手に何かを強要することはしない。選手たちは自ら志願してこの場に集まってくるような者たちだ。その根底には間違いなく「バスケットボールが好き」という気持ちがあるはずで、齊藤自身もそれを消さないようにすることを第一と考えている。だから強要しないのだ。

 

 

男女が交じって試合を行い、常に全力でぶつかり合う

 

「もちろん締めるところは締めますが、楽しみながらバスケットをするのが一番選手の伸び率が高いことを僕自身が感じています。つまらないと思ってただプレーしていると、元々は好きだからバスケットをしているはずなのに“誰かにさせられている”という状況になってしまいます。僕自身、それが原因で大学生の頃に一度バスケットを辞めているので。なるべく自分たちで自発的に考えてもらい、うまくなるためにはどうするのかを研究させながら指導する意識を持っています」と彼は言う。

 

 実際に練習を見ていても、誰が何を言うわけでもないのに選手たちはチームごとにハドルを組み、「あのピック&ロールのときはこうだった」「あのシュートはもっとこうした方がよかった」といった議論を熱心に繰り広げていた。時には齊藤に選手がアドバイスを求めにくる場面もあったが、基本的にはコートの中で起きた問題を自ら解決している。

 

 3x3はまだまだ競技としての歴史が浅いだけに、「勝つためのセオリーや方程式が他のメジャースポーツと比べると少ないです。逆に自分たち自身で勝ちに結び付く何かを見つけやすい。開拓のしがいがあります」と齊藤。自分たちで研究させながら指導していることが、競技力の向上にもつながるというわけだ。

 

ずっと同じチームでやっているかのように、オフコートでのコミュニケーションも非常に多かった

 

 20時半の練習開始から取材を進め22時にチーム練習は終了。それでもなお大半の選手たちはコートから離れようともせず、あれだけハードな試合を重ねながら、まだ1オン1選手権を行っている。

 

 それはある意味バスケットボールの原風景を見ているように感じられる瞬間で、代々木公園のストリートコートで街灯が消えるギリギリまでプレーしているボーラーたちの姿を思い出す。彼らの1オン1をしばらく眺めていると斉藤が言った。「多分、やめろって言わないと延々にプレーしていますよ、この子たちは。あ、でも僕たちも明日は指導で朝から福岡に行くんですけどね(笑)」

 

 選手も指導者も、それだけ大好きなバスケットボールに情熱を注いでいるのだ。「好き」とは努力も時間も超越しているーー。

 

 

player’s voice

豊川 洋斗(174cm/高校3年)

 

 

 キレの鋭いドライブを武器に躍動した豊川。個人スキルの高さが魅力で取材日にもアッと驚かせるプレーを随所に見せた。高校卒業後は関東2部に所属する大学への進学を目標に掲げ、日々鍛錬に励んでいる。

 

「洋介さんのプログラムを知って、自分もやってみたいと思ってトライアウトにエントリーしました。正直、3x3の存在自体あまり知らなかったのですが、このプログラムを通じてオリンピックやプレミアリーグに興味を持つようになったんです。3x3は5人制よりもボールに触れる機会が多いので、1オン1やキックアウトのプレーなどにやりやすさはあります。でも、ディフェンスはずっとオールコートプレスをしている感じなのでしんどいです(笑)。3x3を始めてから体の当て方が分かってきて、ディフェンスでも1オン1の守り方などは成長したと思います。僕は個人のスキルアップに重点を置いていて、行きたい大学も個人スキルがとても高い大学なので、意識的に個人スキルを上げようと思って取り組んでいます。好きな選手がドノバン・ミッチェルとクリス・ポールなので、将来的にはミッチェルのアスレチック能力とポールのクレバーさを合わせたような、良いとこ取りをしたような選手になりたいです!」

 

 

取材・文・写真/堀内涼(月刊バスケットボール)



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