月刊バスケットボール5月号

目に焼き付いた2年前の景色 強豪校の背中を追い掛け挑み続ける福井商高

バスケットを通して

将来に役立つ学びを

 

男子は北陸高、女子は足羽高という伝統ある全国常連校が君臨する福井県。そんな強敵の背中を追い掛け、悲願の全国出場を目指しているのが福井商高だ。今年のインターハイ予選では、男女ともに準優勝。どちらも高さの面では不利になるが、11月3日に行われるウインターカップ予選決勝に向けて平面バスケットやシュート力を磨いてライバルに対抗しようとしている。

 

 

1908年の開校から100年以上の歴史を誇り、「福商」の通称で親しまれる福井商高。甲子園常連の野球部、今年のインターハイにも出場したサッカー部、全米6連覇を果たして映画化(『チア☆ダン』)もされたチアリーディング部など、スポーツを中心に部活動が盛んな学校だ。その一方、5つの学科に分かれて資格取得にも力を入れるなど、まさに“文武両道”を貫く公立校である。

 

男子バスケットボール部の指揮を執る山田真輝コーチは北陸高出身で、かつてJBL2やbjリーグでプレーした経歴を持つ。2014年にプロ引退後、地元に戻って特別支援学校で教員をしながら国体選手としてプレー。2019年に福井商に赴任して初めて本格的に指導を始めたが、「3年目の今もまだ慣れないです(苦笑)。自分の経験や知識なんて狭いものですし、今はたくさんの情報が得られる時代。その中で今の選手たちに何が必要なのかという取捨選択は、まだまだ手探りです。高校生はすごく吸収するので、彼らの可能性を勝手に狭めたらいけない。取捨選択しつつも、なるべくいろいろなものと出会わせてあげたいです」と思いを語る。

 

全国への切符をつかむには、山田コーチ自身の母校でもある北陸高の壁を乗り越えることが必須だ。「それは練習中から意識しています。サイズがないので、外のシュートを確実に決めなければいけない。うちでは毎年夏休みに『1万本シューティング』を恒例にしていて、選手たちに達成感を感じてもらい自信を持って打つことを求めています」と言う。また、留学生などの高さ対策として「選手たちより僕の方が背も大きいので(190cm)、時には一緒に交じってプレーしたり、棒やダミーを持ってゴール下で選手たちにぶつかったりします」と体を張って指導している。

 

 

一方で、山田コーチが常々選手たちに伝えているのは「バスケットだけの人間にはなるな」ということ。挨拶や礼儀など普段の生活面も大切にしており、例えば夏合宿では買い出しから炊事、洗濯など全て選手自身が行い、生活のすべを学ぶ場にしている。「僕自身、プロの世界を経験してバスケットのすばらしさを実感すると同時に、バスケットだけではいけないなとも感じました。まだまだですが、生徒が社会に出たときのことも考えた指導を心掛けています」と、技術だけではない多くのことをバスケットを通して伝えようとしている。

 

足羽との好勝負の裏にあった

毎日の基礎練習の徹底

 

一方、女子バスケットボール部を指導しているのは2011年に同校に赴任した石田洋志コーチ。それ以前は足羽高で10年間アシスタントコーチを務め、強豪校の強さや全国舞台をよく知る指導者だ。「サイズのないチームだからこそ『強く、速く』が大切」というモットーの下、平面バスケットを磨きながら2011年以来の全国出場を目指している。

 

 

練習は大きく2つのパートに分けられ、通常3時間の練習のうち最初の1時間半は「基礎練習を、手を抜かずに必死にやる」ことに充て、残りの1時間半では5対5を中心に「想像力や自分の感性を大事にしながら、自分の頭で考えて判断してプレーする」力を養う。特に基礎練習はシーズン通して継続し、バスケットの土台作りを行っている。

 

今年度、高さのないチームながら新人戦では56‐63、インターハイ予選では85‐91と足羽に肉薄する好ゲームを演じた。石田コーチが最も評価するのは「相手に臆することなく、同じ土俵に上がって真っ向勝負を仕掛けられた」こと。毎日の地道な基礎練習によって小手先の技術ではない地力を培ったことで、「相手に対してどうこうというより、自分たちのストロングポイントを発揮しようと強気でバスケットをすることができました」と石田コーチは胸を張る。

 

 

さかのぼること2年前、北陸高のインターハイ準優勝という結果によって福井県のウインターカップ出場枠が1つ増え、男子バスケットボール部がそのチャンスをつかみ全国初出場を果たした。その際、関東遠征と日程を組み合わせて女子バスケットボール部も現地で応援。コートが4面取れる巨大な武蔵野の森スポーツプラザの応援席で「この大きな舞台に自分も立ちたい」と当時1年生だった黒濟粋生は強く感じたという。出場した男子バスケットボール部だけでなく女子バスケットボール部の3年生たちにとっても、目に焼き付いた全国大会の輝きは大きなモチベーションになっているようだ。

 

全国常連のライバル校の壁は高いが、それを越えられたときに得られる財産も大きいはず。「選手全員の『本気で勝ちにいく』という気持ちが一番のカギ」と2年生の近森粋花が言うように、一人一人が高い壁にも屈しない強い気持ちを持って、全国の景色を見るべく挑戦を続けている。

 



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