宮崎早織(ENEOSサンフラワーズ)、東京2020を序章にこれから始まる飛躍の物語

大会5連覇がかかった決勝戦、宮崎は試合を通じて決定的な仕事をやり遂げた(写真/©fiba.asiacup2021)

 

ワールドクラスのポテンシャルを感じさせた東京2020


東京2020オリンピックで銀メダリストとなった女子日本代表において、バックアップ・ポイントガードとしてプレーした宮崎早織は、大会終了直後の記者会見で「銀メダルが獲れて本当にうれしいです。メダルが重くてびっくりしています。応援ありがとうございました」と笑顔を見せていた。これまでに数えきれないほどのプレーヤーたちが挑み、成し遂げられずに終わったオリンピックの舞台におけるメダル獲得。偉大なゴールを達成し、簡単な言葉では言い表しきれないような達成感、高揚感に包まれているだろうことが想像できたからこそ、素直な短い表現が、逆に聞く側にも喜びを届けてくれた。


個人的には、無限のポテンシャルを感じさせる大会だった。6試合中、準々決勝の対ベルギー代表戦を除く5試合に平均8.3分出場して、3.8得点、2.4アシスト、0.4リバウンド、0.4スティール。出場時間はチームの12人中11番目だったが、アメリカ代表との決勝戦では、わずか3分15秒の出場ながらフィールドゴール成功率50%で5得点を記録し、±も+3。与えられた時間で全力を尽くし、最強の相手に対し一瞬たりとも引き下がるようなことはなかった。


Wリーグ2020-21シーズンは、平均6.9アシストがリーグ2位、1.9スティールが同4位、3P成功率37.0%が同11位。決勝戦3分間の輝きには、こうした実績からの自信や、大会の最後に悔いを残さぬようにという思い、「もっとできる」という意欲があふれていたように感じられた。

 

東京2020オリンピックでの宮崎は、心のどこかに悔しさも残る銀メダル獲得だったようだ(写真/©fiba.basketball)

 

「アジアのスーパースター」では終わらない未知の創造性が光る


こうした“序章”を経て、宮崎はFIBA女子アジアカップ2021に臨んだ。その結末では、チームを率いる指揮官がトム・ホーバス氏から恩塚 亨氏に引き継がれ、夏の銀メダリストも自身を含めチームに5人しかいない新星日本代表候補が誕生していた。


新たな挑戦はアジアカップ5連覇という、新生チームがそうやすやすとは受けられないような非常に高いハードルだったが、大会前の宮崎は「優勝を目指して頑張っています」ときっぱり言ってのけていた。東京2020オリンピックではチームの半分は「上級生」だったが、FIBA女子アジアカップ2021では「最上級学年」で、チームの中心人物となるべき立場。心に灯をともす理由として十分だっただろう。


結果を振り返れば、自分たちよりも平均身長が10cm程度も高い相手をなぎ倒して、無傷の5連勝で金メダルを獲得し、宮崎個人も全試合に平均22.6分出場して11.6得点、9.6アシスト、4.0リバウンド、1.2スティールの記録でオールスターファイブ入り。特に、78-73のスコアで勝利した中国代表との決勝戦では、28分間コートに立ってチーム得点の1/3にあたる26得点に11アシストのダブルダブル。さらに7リバウンド、2スティールも記録していた。


第4Qはチームディフェンスに加えて宮崎の決定力とプレーメーク力が大きくものを言って、52-57の5点ビハインドから逆転という展開。最後も72-73の残り44秒に宮崎がオコエ桃仁花(富士通レッドウェーブ)のレイアップをアシストし、その後宮崎がクラッチフリースローを4本すべて成功させての6-0のランだった。


決勝戦翌日のメディア対応で宮崎は、「このメンバーで優勝できたことがすごくうれしかったです」と明るい笑顔を見せた。「オリンピックメンバーがほとんどいない中で、若手で行くっていうのは少し大丈夫かなという気持ちはあったんですけど、若いエネルギーが良い形に変わって優勝。この短期間で最高のチームを作ってくれた恩塚さんとスタッフに、本当に感謝しています」


東京2020オリンピックに関連して、「あまり試合に出られなかったので、その悔しい気持ちが今回のアジアカップで、自分の持ち味を存分に出せたことにつながったんじゃないかなって思っています」と話し、夏場の体験が今大会での飛躍につながったことを認めていた。しかしここでは止まらない。「個人的にはまだ波があったので、どんな相手にでも10得点以上、アシストも5本以上は獲れたらよかったというのは少し反省点」と、これだけの大ジャンプにもさらなる伸びしろを感じている様子だ。


宮崎は全5試合で5アシスト以上を記録した一方で、10得点を超えたのはグループラウンド最後の対韓国代表戦、決勝の対中国代表戦の2試合だけだった。確かに得点では波があったかもしれない。ただしその分チームメイトが良い波に乗ることができたからこその大会5連覇とオールスターファイブ入り。「ベストファイブに選んでもらえたというのは自分自身すごく驚いています」と喜びは控え目だったが、「出だしだけではなく後半も失速せずに、競っているときに自分が得点を獲れたというのはすごくよかったなと思っています」と自信を深めていた様子だった。


それに、今大会の宮崎のアシストは得点と同じほど決定的で、WNBAやNBAのスーパースターのハイライトリールを見ているかのような、ワクワクを伴う瞬間をもたらすパスだった。本人が選んだ今大会一番のプレーもアシストだ。「韓国戦(グループラウンド最終戦)でビハインドパスができたことですかね…。人生で初めてああいうパスをしたので、自分でも驚いています。安間(ドイツの女子ブンデスリーガ、アイスフォーゲルUSCフライブルクに移籍した安間志織)からも連絡があって、『もうちょっとカッコよくできなかったの?』って言われたんですけど(笑) でもあのパスが一番印象的です」


5試合の真剣勝負で見つけた内なる未知の創造性は、来年のFIBA女子ワールドカップ2022、3年後のパリオリンピックでの宮崎自身の代表入りはもちろん、チームの金メダル獲得に向かう道を切り開いていく大きな力になるにちがいない。

 

馬瓜ステファニー(トヨタ自動車アンテロープス=左)とのピック&ロールでペイントにアタックする宮崎。両社はWリーグでは頂点を競うライバルになる(写真/©fiba.asiacup2021)


Wリーグでの所属先であるENEOSサンフラワーズの2021-22シーズンは、10月23日(土)に鐘山スポーツセンター(山梨県富士吉田市)で行われる山梨クィーンビーズとの対戦で幕を開ける。昨シーズン悔しいファイナルでの敗北で終わったENEOSだが、宮崎だけではなく今大会の代表キャプテンを務めた林 咲希、控えのパワーフォワードとして活躍した中田珠未もおり、いずれも世界を意識した高い意欲、高い意識でチャンピオンシップを獲りにくる。渡嘉敷来夢の復帰も期待されている。見ごたえのあるバスケットボールを披露してくれるだろうチームの中で、進境著しい宮崎が、自分でも驚くような瞬間をどれだけ生み出してくれるか。楽しみなシーズンがまもなく始まる。


文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)



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