月刊バスケットボール5月号

5連覇なるか? FIBA女子アジアカップ2021日本代表展望

アンマンでのメディアデーより(写真/©fiba.baskertball)

 

 5連覇のかかるFIBA女子アジアカップ2021に臨む日本代表は、9月26日に開催地アンマン(ヨルダン)でメディアデーを迎えた。大会の開幕は27日。以降の日程は以下のとおりとなっている。

 

☆グループラウンド
9/27(月) 16:00- 日本代表対インド代表
9/28(火) 16:00- ニュージーランド代表対日本代表
9/29(水) 16:00- 日本代表対韓国代表

 

☆決勝トーナメント

10/1(金) 準決勝進出決定戦/7-8位決定戦
10/2(土) 準決勝/順位5-6決定戦
10/3(日) 決勝/3位決定戦

 

CSフジテレビNEXTが日本戦全試合を生中継予定



 今大会は2つのグループの1位が準決勝に直接進出し、両グループ2位と3位はたすき掛けで決勝トーナメント進出決定戦を行う。最終的にその試合に勝利した2チームを含む4チームによる決勝トーナメントで優勝を決める(その4チームにFIBAワールドカップ2022予選会出場権が与えられる)。

 

 すでに大会初戦登録の12人のロスターが大会公式サイトで公開されており、チームはもちろん臨戦態勢。アシスタントから昇格の形でトム・ホーバス氏を引き継いだ、恩塚 亨HCが率いるチームの初舞台に注目が集まる。


超強気な女子日本代表、「優勝以外は考えていない」と恩塚HC

 

 女子日本代表チームとしては、東京2020オリンピックの銀メダリストという肩書を引っ提げて臨む今大会だが、実際にはロスター12人中にその舞台を味わったメンバーは林 咲希(ENEOSサンフラワーズ)、オコエ桃仁花(富士通レッドウェーブ)、赤穂ひまわり(デンソーアイリス)、東藤なな子(トヨタ紡織サンシャインラビッツ)、宮崎早織(ENEOSサンフラワーズ)の5人のみで、同大会で主軸となったメンバー複数名が抜けている。また、恩塚HCはホーバス氏とは異なるアプローチで今大会に臨むことも考えれば、FIBA女子アジアカップ2021の女子日本代表は、まったくゼロからのスタートと言える。


にもかかわらず、9月14日に行われたズーム会見の機会には、新指揮官は「目標は優勝です。それ以外は考えていないです」と語り、チームに対する全幅の信頼と自信を感じさせた。穏やかに語る恩塚HCだが、今回の日本代表は非常に強気な姿勢でアジアのトップを目指していることが感じられる。

 

新任の恩塚HCの下、FIBA女子アジアカップ2021で女子日本代表が新たなスタートを切る(写真/©JBA)


14日の会見時点で恩塚HCは、「チームの仕上がりは70%。何を強みにして戦うかのビジョンの共有ができ、その強化を始めている段階」と話していた。「強みとしたいのは、コート上の5人が原則を理解して瞬時にシンクロして協力できるバスケットボール。世界一のアジリティを追求したい。ただ速いだけではなく、いろんな状況により速く的確に適応していくこと」と、ゲームのアプローチに関しても、役割ごとの“分業制”を強く印象付けていたホーバス氏とは異なる印象での説明があった。「ディフェンスのプレッシャーのかけ方や、オフェンスで相手の状況に応じて素早く原則を生かして協力し、自分たちの強みを発揮できる。5人が一体となって、瞬間瞬間のプレーを積み重ねて行くところを見ていただきたい」


残りの30%は、理解された原則の遂行力を上げていく部分だという。「素早いアジリティの中でできたチャンスを見逃すことなく自分の強みを発揮して得点につなげるところが、まだ自分の力を信じきれていなかったり、流れを読みきれていなかったりして、躊躇してしまうところがあります。強みと状況を理解して、ここだという気持ちで攻めに行くのと、そのボールマンの意図やねらいを感じとって(周囲が)サポートしていく。ディフェンスは、相手に比べるとサイズがないので、ペイントのカバーをどうやっていくかの仕掛けやインサイドで協力する守り方を導入したり、それをチームでいかに遂行するかと、心理的・体力的に疲れて落ちてきたときにも遂行できるようにトレーニングしていきます」


こう語る恩塚HCの言葉には淀みがなく、非常に思考が整理されていることが感じられた。その翌日話を聞いたプレーヤーたちのコメントからは、その意図が受け入れられ、理解され、浸透しつつあることが伝わってきた。


しかし、攻守で究極の“合わせ”を実現する世界一のアジリティーを、コート上で表現するのは容易ではないだろう。今大会では、東京2020オリンピック出場国が日本を除いて3チーム出場しており、順当な見方をすれば、その3チームが5連覇の道に立ちはだかる最大のライバルだが、相手の前にまずは自らのプレーの精度をどこまで高められているかが気になるところだ。


絶対的なエースはいない。東京2020オリンピックでキャプテンとして、精神的支柱としてチームをけん引した高田真希(デンソーアイリス)も、アシストの女王となった町田瑠唯(富士通レッドウェーブ)もいない。決して楽ではない…どころか非常に困難な5連覇への道のりを、新指揮官率いる若き女子日本代表はたくましく乗り越えようとしている。


東京2020オリンピックの準々決勝で歴史的なクラッチショットを成功させ、大会を通じてチーム3位の平均11.3得点、同トップの3P成功率63.6%を記録した林がキャプテンを務める。平均7.3リバウンドがチームでトップだった赤穂がいる。3x3の日本代表として東京2020オリンピックの舞台を踏み、金メダリストとなったアメリカ代表に唯一黒星をつけた山本麻衣、馬瓜ステファニー(トヨタ自動車アンテロープス)、西岡里紗(三菱電機コアラーズ)の3人もいる。


宮崎、オコエ、東藤ももちろん含め、国際舞台の経験という意味で、直近の大舞台を経験したプレーヤーたちの存在が効いてくる場面があるのかもしれない。前回大会で思うような貢献ができなかった悔しさをぶつけようという中田珠未(ENEOSサンフラワーズ)もいる。

 

 現地からの映像を見る限り、恩塚HCにもプレーヤーたちにも、自信が揺らいでいるような様子はまったく感じられない。それが14日の会見からの2週間、すべてが順調に進んでいることを示すサインだ。いずれにしても、新たなアプローチ、新たなリーダーシップ、新たなケミストリーで、新たな旅路が始まる。


東京2020オリンピック出場3チームが最大のライバル


グループラウンドでは韓国代表が同じグループAだが、その韓国代表はWNBAでプレーする身長198cmのセンター、パク・ジス(ラスベガス・エイセズ)が不在。しかしオリンピック出場プレーヤーが10人おり、中でもチーム最長身(185cm)のガード、21歳のパク・ジヒュンは、61-65の僅差で敗れたセルビアとの一戦でゲームハイの17得点、7リバウンド、5アシスト(パク・ジスと並ぶゲームハイ)を記録した要警戒のプレーヤーだ。今大会では注目プレーヤーの一人に名前が挙がっている。また、チームとしての平均年齢が日本代表の23歳に対し27歳と高い分、経験値も高く、FIBAランキングでは日本代表が上(日本代表の世界8位、アジア・オセアニア3位に対し韓国代表は世界19位、アジア・オセアニア4位)ではあっても、非常に警戒すべき相手であることは間違いない。


グループBはランキング上位の中国(FIBA世界ランキング7位、アジア・オセアニア2位)とオーストラリア(同世界3位、アジア・オセアニア1位)が、順当に上位に入る公算が強い。中国は200cm越えセンターが2人(205cmのハン シューと200cmのリー ユェル)、190cm以上のプレーヤーはその2人を含め5人登録されている。22歳で身長184cmのシューティングガード、リー・イファンを代表に初選出するなどチームとしては若返りを図っているようだが、世界的に見ても超大型チームであることは依然として変わらない。仮に日本代表が準決勝か決勝で対戦するならば、その試合こそ、恩塚HCが目指す「世界一のアジリティーで高さを凌駕する」わかりやすい例となる。


オーストラリア代表には、やはり190cm越えのプレーヤーが2人いる。また、現在大会公式サイトで確認される12人のロスターには、WNBAでニューヨーク・リバティーをプレーオフに導き、つい4日前の23日にファーストラウンドを戦ったばかり(フェニックス・マーキュリーに敗れシーズン終了)のベテランシューティングガード、サミ・ウィットコムが登録されている(もう一人、同じリバティーに所属するスモールフォワード、レベッカ・アレンの名はない)。経験と高さを持つチームであり、このチームもまた、日本代表が対戦する場合には難敵となることは間違いない。


結果はどうなるか誰にもわからない。ただし、東京2020オリンピックの女子日本代表は、信じることの大切さを体現し、結果を残した。そして生まれ変わった今回のチームも、信じるべき数々の理由を提供してくれている。

 

☆次ページ: FIBA女子アジアカップ2021登録プレーヤー12人の紹介


FIBA女子アジアカップ2021登録プレーヤー12人

※プロフィールは背番号、氏名、ポジション、身長(cm)/体重(kg)、生年月日(年齢)、所属(出身地、出身校)の順

※プロフィール下は本人コメント(9月14日のズーム会見時収録内容からの抜粋)

 

©fiba.basketball

#3馬瓜ステファニー
PF 182/80 1998/11/25(22)/トヨタ自動車アンテロープス(愛知県、桜花学園高校)
チームとしては5連覇を一番念頭においています。個人としては久しぶりに5人制での代表活動で、感覚がつかみ切れていないところもありますが、自チームでやってきたプレーを代表でも出していけるようにと思っています。もっとリングにドライブでアタックするように言われています。まだまだ迷ってしまう部分があるのですが、少しずつできるようになってきているかなと思います。

 

©fiba.basketball
#18西岡里紗
C 186/81 1997/03/03(24)/三菱電機コアラーズ(奈良県、大阪桐蔭高校)
5連覇という大きな目標があり、ワールドカップにつなげること。その中で一人一人が夢を与えられる選手になって、私たちの頑張りで日本で見てくださる方々に元気を届けられるようにというのが目標です。センターが率先してボールをもらいに動いてガードと絡んだり、オフボールスクリーンに動いたりして、センター発信で次のプレーをリクリエイトすることを求められて、ずっと練習しています。そういうところで私もプレーを創っていけるようにしたいと思っています。

 

©fiba.basketball
#20東藤なな子
SG 174/65 2000/11/29(20)/トヨタ紡織サンシャインラビッツ(北海道、札幌山の手高校)
テレビなどで女子バスケが取り上げられることが多くなり、注目度が高くなっていると感じます。今大会の目標は、5連覇がかかっているので優勝です。得意な1対1は、今やっているスタイルにマッチしていると思うので、そこをアピールしていきたいです。チームではカウンター1対1を求められています。ディフェンスも引き続きやっていきたいと思っています。

 

©fiba.basketball
#21永田萌絵
PG 174/65 1997/06/20(24)/トヨタ自動車アンテロープス(長崎県、東京医療保健大学)
アジアカップはチームでも優勝という大きな目標を掲げています。コンディションはすごく良くて、ケガとか痛いところもなくフルでできています。機動力を生かして、しっかりディフェンスでプレッシャーをかけたり、オフェンスではスピードを生かしてドライブで中に切っていくのが仕事。チームとしてディフェンス面ですごく期待されています。ガードとしては身長も高い方なので、それも武器にやっていきたいです。

 

©fiba.basketball
#23山本麻衣
PG 165/58 1999/10/23(21)/トヨタ自動車アンテロープス(広島県、桜花学園高校)
先輩方が4連覇という成績を残してくれているので、それに続けるようにしっかり金メダルを獲りたいです。個人的には、今バスケが日本でも注目されているので、小さい選手としてできることがあるというのを証明したいです。最初は恩塚HCのバスケットボールが初めてで、すごく考えながら、迷いながらやっていましたが、2次合宿になってからは、あまり考えなくてもスムーズにできるようになってきていて、すごく手応えを感じています。

 

©fiba.basketball

#27林 咲希
SG 173/67 1995/03/16(26)/ENEOSサンフラワーズ(福岡県、白鷗大学)
目標はもちろん5連覇。若い選手が多いので、新しいバスケットボールを見せられるんじゃないかという気持ちで励んでいます。オリンピック後は、合宿に入ってから自分のコンディションもちょっとずつ上がってきています。オリンピックでは3Pショットで注目されましたが、今回はそれ以外のことにも挑戦してやっているので、3Pショットを止められたときに何ができるか、オリンピックで出た課題を基に、励んでいます。

 

©fiba.basketball
#32宮崎早織
PG 167/54 1995/08/27(25)/ENEOSサンフラワーズ(埼玉県、聖カタリナ女子高校)
優勝を目指して頑張っています。個人的には、今までと違ってガードの中では一番上になるので、しっかりしていかないといけないと思っています。コンディションとしては、ケガがあったり、あまりよくはないのですが、持ち味がスピードなのでそこは存分に出していきたいなと思います。でもスピードだけではなくて、一緒に出ている5人で、慌てずに日本らしいバスケットボールができたらと思います。

 

©fiba.basketball

#33中田珠未
PF 183/70 1997/12/21(23)/ENEOSサンフラワーズ(埼玉県、早稲田大学)
優勝が一番の目標。私自身、4連覇した前回は試合に絡むことが少ない中での経験で、うれしかったけれどあまり自分が貢献した気持ちを持てなかったので、今回はそう思えるような優勝にしたいです。持ち味のドライブやオフェンス・リバウンドをチームに求められています。決まりごとが多くて最初は難しい部分もたくさんありましたが、オータムカップなどで少しずつ手応えを感じ、体にしみついてきて自然に出るように皆がなってきました。

 

©fiba.basketball
#41根本葉瑠乃
SG 176/65 1995/04/18(26)/三菱電機コアラーズ(愛知県、常葉学園高校)
チーム全体として今まで4連覇してきて、自分たちは5連覇を目指して取り組んでいます。それを最大の目標としてやっていて、それに対してどれだけ自分たちのプレーをできるかだと思います。今の時点では、自分に求められている3Pショットに満足できていないのですが、試合までにコンディションを上げて、自分の役割に対して1試合1試合できることをやっていきたいです。

 

©fiba.basketball
#81宮下希保
SF 179/73 1998/10/06(22)/トヨタ自動車アンテロープス(石川県、県立足羽高校)
チームの目標は優勝。自分の目標は、優勝に貢献できることをやっていきたいと思っています。コンディションが悪いわけではないのですが、すごく良いわけでもありません。大会に向けて上げていきたいです。チームで求められているのはリバウンドやディフェンス、球際の強さ、フィジカルなドライブなので、そこを頑張りたいと思っています。

 

©fiba.basketball

#88赤穂ひまわり
SF 185/72 1998/08/28(22)/デンソーアイリス(石川県、昭和学院)
しっかり5連覇に向けて頑張りたいです。個人としては、オリンピックで戦った先輩方がお休みで若いチームになったので、その中で代表経験が多い立場として先輩方に見せてもらったリーダーシップをとっていけたらと思います。コンディションはオリンピックでベストに持っていったので、一度落ちて、また徐々に上げていっている段階です。チームからは、アグレッシブにどんどん攻めることを求められていて、そこを意識してやっています。

 

©fiba.basketball

#99オコエ桃仁花
PF 182/88 1999/02/07(22)/富士通レッドウェーブ(東京都、明星学園高校)
個人としての目標は、3Pショットだけでなくドライブをもっと積極的に行くことと、若いチームなので、オリンピック経験メンバーとして率先してやっていくこと。チームとしては、今までの先輩たちが築いてきた4連覇という素晴らしい歴史があるので、5連覇できるように(自分として)できることを全力で頑張りたいと思います。オリンピックとは違う部分も求められているので、そこをやっていきます。強みはディフェンスで大きな相手を守ることです。


文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)



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