月刊バスケットボール5月号

国内

2021.09.18

齊藤洋介(UTSUNOMIYA BREX.EXE)、日本一とMVPに込められたボーラー人生の誇り

5人制のプロとしても活躍した経歴を持つ齊藤洋介。現時点で国内最強の3x3ボーラーであることを証明した

 

 川崎クラブチッタで大音量のダンスミュージックに体を揺らしながら、サムシティのボーラーたちが繰り広げる3対3のバスケットボールを取材させていただく機会を初めて得たのは、もう10年以上も前のことだ。隣に座っているのが誰かもよくわからないほど真っ暗なメディアシートから、スポットライトに浮かび上がるバスケットボール・コートに視線を向けると、取材に臨む自分の何百万倍もの力が跳ね返ってくるような感覚に包まれた。


勉族の“笑タイム・バスケットボール”で異彩を放つ


メインストリームの“バスケットボール界”に名を馳せた一流選手はほとんどいない…と書いたら語弊もあるかもしれない。高校や大学で鳴らした、名前を聞いたことのある実力者は何人もいて、さすがと思わせるプレーを披露しているからだ。しかし、その場で感じるエキサイティングなバスケットボールは、10年前当時のJBL、bjリーグ、また現在のBリーグなど、5人制のトップリーグとはまったく異なるカルチャーを提示するものだ。


ダンスフロアに用意されるバスケットボール・コートには、クラブ特有の混沌とした空気が流れている。その中で、名もなきボーラーたちが命を証明するために戦う。会場を埋めるファン、試合を引き締めるレフェリー、試合の合間に登場するエンターテイナー、ノリのいい音楽をぶん回すDJ、ガチ勝負を盛り上げるMC、イベントを支えるスポンサー。ボーラーたちの心意気を共有する人々の熱量がみなぎっている。


爪跡を残す。輝く。オレが、オレたちが一番だ。この国のバスケットボール・カルチャーを作っていくのは誰だ? 魂の熱さを自らに問いかけ、確かめるかのように激闘が繰り返される。このカルチャーに対する自負と愛着が、ボーラーをはじめとした一人一人の関係者、一つ一つのポゼッションから伝わってくる。


YOSK - ヨウスケというコートネームで親しまれていた齊藤洋介のプレーを初めて見たのは、その舞台だった。トリッキーでコミカルな要素を取り入れた“笑タイム・バスケットボール”なるスタイルで見る者を楽しませる、「勉族」というチームに所属していた。高い決定力を誇るフィニッシャー。コート上のどこからでも放り込むロングレンジ・シューティングも、ドライブからフワッと空中に浮き上がり、滞空時間の長いマイケル・ジョーダンばりのランニング・フェイドアウェイからゴールを奪う姿も魅力だった。得点するたびに、MC MAMUSHIが「チャ〜ラオゥ!(チャラ男)」と絶叫していた。


ライトブルーとゴールドの勉族ジャージーをまとい、やや長めのふんわり広がった茶髪の下から茶目っ気のある笑顔をのぞかせる。確かに正直、外見はチャラかったが、逆にそんなキャラクターで驚異的な決定力を披露するプレーぶりが強く印象に残った。また、バスケットボールに対して深い愛情を表現し、朗らかな雰囲気を持つ勉族というチームで、チャラくてちょっと尖ったイメージもある齊藤が奮闘する姿に、サムシティ、あるいはそのベースとしてのストリートボール・カルチャーの奥行きを感じた。


3人だけで4試合を勝ち切った9.11決戦


2021年9月11日に行われた『3x3.EXE PREMIER JAPAN 2021 PLAYOFFS presented by PORSCHE』で、齊藤が所属するUTSUNOMIYA BREX.EXEは2大会連続の王座獲得に成功し、齊藤自身もMVPに輝いた。

 

齊藤洋介(左)、ドゥサン・ポポビッチ(中)、飯島康夫(右)の3人は、4試合を戦い切って頂点上り詰めた


16チームが出場し、負けたら終わりのノックアウト・トーナメント。頂点に立つには、4試合を勝ち切らなければならなかった。しかもUTSUNOMIYA BREX.EXEはこの日、交代要員なしの3人だけで全試合を戦い抜かなければならないという、非常に厳しいチャレンジと向き合っていた。


通常は1チームあたり4人の登録で試合中には自由に交代ができるが、齊藤洋介、ドゥサン・ポポビッチ、飯島康夫のUTSUNOMIYA BREX.EXEには、「止まる」という選択肢はなかった。3x3では1試合は10分で、1ポゼッションが最長12秒。1試合では最少でも50ポゼッションを戦うことになり、4試合では200ポゼッションを優に越す計算だ。乗り越えられるのか…? 90%無理だと思った - 齊藤はファイナルでの勝利後にそう明かしていた。

 

ファイナルでトライフープ岡山の長谷川 聖に厳しくプレッシャーをかける齊藤(写真/村山純一 月刊バスケットボール)

 

 どうみてもスタミナの点で対戦相手にアドバンテージがあった。しかし3人だけのUTSUNOMIYA BREX.EXEは勝ち切り、その過程で齊藤のリーダーシップとポイズが光を放った。体力の限界まで戦いきる力の源となったのは、ディフェンディング・チャンピオンとしての、また東京2020オリンピック日本代表候補としての誇りだっただろうか。あるいは、自らも深くかかわって作り上げてきた3x3の世界で、成しうる最高の形でシーンに対するリスペクトを表現したいという意欲だっただろうか。

 

 この国のバスケットボール・カルチャーを作っていくのは誰だ? そう自問自答を繰り返す40分だったのではないだろうか。


ファイナル終了後のインタビューで齊藤は、コロナ禍で大会開催にこぎつけたリーグ関係者と、さまざまな形で支援の思いを表したファンに対する感謝を述べ、「3人でヒザに手をついて、肩で息をしながら4試合を過ごしました」と安堵の表情を浮かべた。「少しでも自分たちのエネルギーが皆さんに伝わればうれしいと思います。応援していただいた皆さん、本当にありがとうございました」


その後のメディア対応では、「日本一は通過点。優勝はしなくてはいけないもの」と、このシーンにおける第一人者たる思いを明かしている。さらに、「世界に出て日本のクラブチームの強さをもっともっと証明していきたい」と言葉を強めて意欲を語った。


それは3x3コミュニティ全体の目標にも重なる意欲だろう。このシーンにおける主役が自身であることを証明した齊藤には、まだまだ大きな仕事が残されている。

 

齊藤(左)のプレーには歴戦のボーラーとしての誇りが感じられた


取材/村山純一(月刊バスケットボール)
文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)



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