月刊バスケットボール1月号

国内

2021.09.14

桂 葵(BEEFMAN.EXE)、愛する3x3の未来に向けて

 9月11日に行われた『3x3.EXE PREMIER JAPAN 2021 PLAYOFFS presented by PORSCHE』で所属のBEEFMAN.EXEを日本一に導き、自らもPLAYOFFS MVPに選出された桂 葵。彼女は社会人になって以降、バスケットボールの中でも3x3を選んで生きてきたプレーヤーだ。2019年には、東京2020オリンピックに向けた日本代表候補にも名を連ね、さらに情熱を注ぎこんだ。

 

3x3.EXE PREMIER 2021の日本一を決めた後、桂は3x3に対する愛情とこれからに向けた思いを語った

 

 自らの出場がかなわなかった東京2020オリンピックで、日本代表のみならず世界のボーラーたちが繰り広げた熱戦が、日本国内のスポーツファンの注目を集めたことを心から喜び、熱気を感じながらプレーしている。

 

 にもかかわらず、2大会連続での日本一を成し遂げた後の桂は、いまだ満たされないままの心と向き合っていた。「世界にアンテナを張って、3x3をアップデートしていきたい」という言葉で語られた思いの深層にあるものは何か。


プレーする喜びを思い出させてくれたストリートボールとの出会い


高校バスケットボール界の名門・桜花学園高校から早稲田大学に進み、4年生時にはインカレでの優勝とMVP受賞。文武両道を追い求めた180cmのセンターとして、桂は5人制で輝かしいキャリアを築いた。しかしその後、あえてバスケットボールと距離を置き、総合商社でビジネスパーソンとして人生を歩み出した。


学生時代に、バスケットボールでできることはやり切った。心の中で、そんな感覚もあったかもしれない。一人の人間として、バスケットボール以外での可能性を試してみたいという意欲もあったかもしれない。バスケットボールがそれまでのような喜びの対象ではなくなっていたかもしれない。


その桂がもう一度バッシュの紐を結んだ理由は、「ストリートボールに出会えたから」だという。「代々木公園なんかでやっているストリートボーラーの人たちに、それまでの価値観をぶち壊されたんですよね」


「私が出会ったストリートボーラーは、特段に立派なキャリアがあるわけでもないのですが、みんな『自分は誰よりもバスケが好きだ』と言うんです。大会でも何でもないピックアップゲームに命懸けみたいな人たちを見て、こんな人たちがいるんだ! というのがすごくありました」

 

 それはエリートばかりの世界で桂が得たことのなかった感覚だった。「私が生きていた世界では、バスケが好きと言っても『あの人の方が一生懸命練習しているからな…』と思ってしまったり。どこか謙虚というか遠慮して、『バスケが好き』と自分で言った記憶があまりなかったなと思ったんです」

 

 桂の目に映るストリートボーラーたちは、「一番バスケが好きなのは自分だ」という誇りを全身から発散していた。「カッコいいなと思って、私も自分の好きなことを好きと言うようになりました。私もバスケが好きだし、純粋な気持ちでバスケを楽しめるのが、ストリートボールに出会った一番大きな意義です」


さらなる飛躍に欠かせない国際化に向けた思い


ストリートボールをきっかけに、桂は一つの競技種目としての3x3に取り組み始めた。BEEFMAN.EXEに移籍してからの2シーズンは、週5回のチーム練習と、それとは別に行われる個別のワークアウト。桂は練習環境にも恵まれ、ハイレベルなパフォーマンスを続け、結果を残してきた。「練習できる場所があるというのが一番ですし、それぞれが仕事を持っている中で、集まって練習できる仲間たちが最高です」と、自身のプラットフォームに関しては恵まれていることを強調した。

 

「バスケが好き」と素直に言い合える仲間たちとのプレーが最高だと桂は言う


しかし、日本の3x3が今後さらに発展していくには、また桂自身がこの世界で飛躍を実現するには、国内大会だけでは足りない。FIBAのランキングで上位に名を連ね、国際舞台で常時活躍できるようになるには、大会としてのグレードが高くプレーヤーに付与されるランキングポイントが大きい国際大会に出場することが、どこの国でも必要になってくる。


FIBAはさまざまな大会を11段階のグレードに分けており、例えばワールドツアーで優勝すれば64,800ポイントが得られるが、一般プレーヤーのオープン大会では、同じ優勝でも1800ポイントしか得られない。


9月14日時点でFIBAの3x3世界ランキングを確認すると、日本人プレーヤーのトップは東京2020オリンピックでも活躍した山本麻衣(トヨタ自動車アンテロープス)で、46位の49,619ポイントとなっている。ランキング上位4人中3人はスペインのプレーヤーで、その位置に入っている大きな理由は、8月半ばのFIBA 3x3 Women's Series(ルーマニア、コンスタンタ大会)で7位に入ってそれぞれが5,720ポイントを稼ぎ、さらに9月に入って同大会(カナダ、モントリオール大会)とユーロカップ(フランス、パリ)での優勝により36,000ポイントを立て続けに加えたことによる。これら3大会だけで、獲得ポイントは77,720に上る。

 

 冒頭で紹介した桂のコメントのとおり、アンテナを張って準備していかないと、あっという間にトップレベルは手の届かないところにいってしまうことが、スペインの例からも感じられる。そこにチャレンジしたい気持ちがあれば、それは危機感に変わっていくだろう。種目としてのアップデートのためにも、「もっともっと日本は(大会の価値もポイント数も高い)国際試合に出ていくべき」と桂は話した。


世界的なパンデミックという困難な環境にあって、島国の日本に住む我々にとって国際化の推進は非常に高いハードルにちがいない。一方で日本の3x3は、東京2020オリンピックを経てこれまでにない飛躍の絶好機を迎えている。そこで個々の立場で何をするべきか。また、3x3コミュニティーとして何がなされるべきか。


ボーラーとしての誇りとこの種目への情熱、自身と3x3の今後に向けた意欲と望み。日本一のチームのMVPとして語った桂のメッセージには、さまざまな感情が同居していた。

 

飛躍のスタートラインに立つ日本の3x3。その女子カテゴリーチャンピオンとして、桂(左)をはじめとしたBEEFMAN.EXEのメンバーたちは誇りを感じさせるプレーを披露した


取材/村山純一(月刊バスケットボール)
文/柴田健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)



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