B3アルティーリ千葉はどんな試合ができるのか
B3に2021-22シーズンからあらたに参戦するアルティーリ千葉は、「5年間で日本一」という大志を持って始動した。そのロスターには、9月7日時点で11人のプレーヤーが名を連ねている。
6月22日、いち早く契約が発表されたのは大塚裕土、岡田優介、ケビン・コッツァー、小林大祐、紺野ニズベット 翔、イバン・ラべネル、そしてレオ・ライオンズの7人。その2日後には秋山 煕、杉本 慶、藤本巧太の加入も発表され、さらにその翌日、リオオリンピックとFIBAワールドカップ2019でオーストラリア代表を世界の4強入りに導いた、名将アンドレ・レマニス氏のヘッドコーチ就任が明らかになった。現時点では、7月半ばに発表された鶴田美勇士まで、11人のプレーヤーの獲得が報じられている。
アルティーリ千葉を率いるアンドレ・レマニスHC(右)はオリンピックとワールドカップでオーストラリア代表を世界の4強に導いた実績を持っている(左は河内修斗アソシエイトコーチ)
衝撃的とも言えるクラブ創設段階のチーム作りが、実戦のコート上でどんな力を生み出すのか。想像の下地になるのは、2020-21シーズンのプレーぶりということになるだろう。9月11日(土)に川崎市とどろきアリーナで行われる川崎ブレイブサンダースとのプレシーズンゲームで、いよいよそのベールを脱ぐアルティーリ千葉のプレーヤーたちについて、プロフィールと個別成績を試しに積み上げて眺めてみると、チームの特徴としていくつかのことが見えてくる。
9月7日時点で確認できる11人は、全員が昨シーズンB1かB2でプレーしていた。平均身長と平均体重は191.4cm、95.2kg。ただし、スイングマンの紺野ニズベットを含むフロントライン5人のみに絞ると201.0cm、109.6kgという数値になる。逆にバックコートは183.3cm、83.2kgだ。
アルティーリ千葉ロスター(9月7日時点)
#6 小林大祐(SG, 34) 189/90 茨城ロボッツ
#8 紺野ニズベット翔(SG/SF, 24) 192/93 アースフレンズ東京Z
#9 藤本巧太PG, 23) 175/76 大阪エヴェッサ
#10 岡田優介(SG, 37) 185/81 アースフレンズ東京Z
#11 杉本 慶(PG/SG, 29) 189/90 ファイティングイーグルス名古屋
#13 レオ・ライオンズ(Point Forward, 34) 207/115 名古屋ダイヤモンドドルフィンズ
#15 鶴田美勇士(PF/C, 25) 201/110 山形ワイヴァンズ
#22 秋山 煕(PG, 26) 174/77 山形ワイヴァンズ
#24 大塚裕土(SG, 34) 188/85 川崎ブレイブサンダース
#30 イバン・ラべネル(PF/C, 31) 203/113 熊本ヴォルターズ
#42 ケビン・コッツァー(PF/C, 31) 202/117 香川ファイブアローズ
機動力を備えた重量級フロントライン
5人のフロントラインは重量級だが、単にサイズがあるだけではない。今回共同キャプテンを務めることになった207cmのポイント・フォワード、レオ・ライオンズを中心に、機動力と闘志の点でも非常に強烈だ。
ライオンズは昨シーズン、名古屋ダイヤモンドドルフィンズで平均16.4得点がチーム1位、平均3.8アシストがチーム2位、平均7.3リバウンドがチーム3位というバランスの良い活躍ぶり。イバン・ラべネルは熊本ヴォルターズで平均19.3得点と平均8.6リバウンドが1位。昨シーズン香川ファイブアローズでプレーしたケビン・コッツァーは、B2全体のリバウンドランキングで11.5本が3位だった。山形ワイヴァンズで32試合に出場した鶴田美勇士は身長201cmで、高さに加えてシューティングのタッチもいい。
アースフレンズ東京Zでフィジカルなディフェンスを見せていた紺野ニズベットは、フロントラインの5人中の最年少。この顔ぶれの中ではハッスルや泥くさいプレーを求められる立場と思われるが、それをこなせるだけの力強さを昨シーズンは見せていた。また、ニュージーランド出身でレマニスHCと文化的な背景の点でも共有できることが多いことを思えば、飛躍に向け絶好のチャンスを迎えているのではないだろうか。
クラブとして初めて観客の前でプレーする川崎ブレイブサンダースとの一戦では、秀でたテクニックの持ち主であるニック・ファジーカス(207cm)やパワフルなジョーダン・ヒース(208cm)らに対抗する。相手のフロントライン7人は円熟味を増したベテランがそろい強力なのは知ってのとおりだが、平均身長(199.1cm)と平均体重(102.0kg)ではアルティーリ千葉よりも小柄だ。両者の激突はB1対B3というクラス分けなどまったく意味をなさない、単純にハイレベルなビッグマンの激突だと考えるべきだろう。
レオ・ライオンズ(左)と大塚裕土(右)はアルティーリ千葉で共同キャプテンを務める(写真/©Altiri Chiba)
若手の司令塔とベテランシューターがそろうバックコート
バックコートには、ライオンズとともに共同キャプテンを務める大塚裕土、最年長のショットメーカー岡田優介、茨城ロボッツのB1昇格の力となった小林大祐と、ベテランがそろう。この3人には、リーダーシップを発揮するという以上に、責任を背負ってプレーして結果を残すプロフェッショナルな姿勢をチームにきっちり示す力がある。
昨シーズン、B1の頂点を目指す川崎に在籍していた大塚の3P成功数は54本で、広島ドラゴンフライズに移籍した辻 直人(112本)、ファジーカス(89本)、藤井祐眞(73本)に次ぐチーム4位だった。大塚はこれをわずか平均11分56秒の出場時間で記録している。ほかの3人の中で最も出場時間が少なかった藤井(平均21分27秒)の約半分の時間に、自分に期待されるものが何かを大塚は知っていたし、それに応えていた。
一方、岡田は昨シーズン、川崎とは異なるチーム状況のアースフレンズ東京Zで、大塚と同じような役回りを期待されてプレーした。結果として残された数字はチームトップの3P成功数97本、チーム3位の3P成功率36.7%と申し分なかった(岡田自身はもっと高い確率を求めていたかもしれないが…)。小林の存在意義は、茨城ロボッツがB1昇格を果たしたことがすべてを物語るのだが、その過程でスターター起用がチームで3番目に多い43試合だった事実が、その価値を強く印象付ける。
プレーメーカーの役割を務める杉本 慶、秋山 煕、藤本巧太の3人はいずれも30歳未満。このポジションで軸となって活躍するのは、昨シーズンB2全体で平均アシスト6.7本が2位、平均スティール1.4本が6位だった杉本になるだろう。189cmとサイズもあり、このチームにとって一つの特徴となりうる存在だ。杉本から学びつつ、切磋琢磨しつつ、秋山と藤本も経験を積んでいける。順調に上位リーグに昇格していける前提に立てば、その過程でこの二人も、段階を踏んでチームとともに育っていけるに違いない。
川崎に挑戦するプレシーズンゲームでは、アルティーリ千葉のバックコート陣が篠山竜青や藤井、そして新加入のマット・ジャニングらとどんな駆け引き、どんなシューティング合戦を見せるかも楽しみな見どころだ。経験値や実績からプレーメークとディフェンスには川崎に分がある印象にはなるが、シューター陣の実力でアルティーリ千葉を下に見るのは間違いではなかろうか。
あくまでコート上の5人がどんな音楽を奏でるかという観点から言えば、両者の対戦はチームとして長い歴史を持つ川崎に分があるだろう。ただし新規創設の爆発力と意欲を持ったB3の新興チームが、ブレイブサンダースを相手のホームコートで倒す機会にどんなプレーを見せるかは、正直なところやってみなければわからない。非常に面白い対戦だ。
☆次ページ: 大塚キャプテンのコメントとチームスタッツ考察
この対戦を前に、大塚は「川崎さんの日々の練習強度や取り組みを知っているからこそ、対抗とか互角にとかそういう言葉は一切頭に浮かびません」と謙虚な言葉を残している。「ただ、将来的にはCS(チャンピオンシップ)で、今在籍している若手が中心になって勝っている姿は見たいです」というその続きの言葉に、新たな舞台での意気込みがこもっている。
ライオンズは、最終的なゴールであるB1制覇を見据え、「(今回の)川崎との試合では成長できればいい。勝てないかもしれないが、学びたいと思います」と意欲的だ。チームの雰囲気も上々とのことで「新しいチームらしい良い雰囲気にあります。自分たちがどんなチームなのかを見極め、チャンピオンシップに向かって進んでいきますよ」と前を向くコメントを返してくれた。
ボールをシェアするハイスコアリングなバスケットボール
この11人がレマニスHCの下で展開するバスケットボールは、若く意欲に満ちたプレーメーカーが、実績のあるビッグマンとシューターを使いこなす、非常にエゴの少ないゲームになることが想像できる。まったくの私見でスターターを想像すれば、杉本(PG)、小林(SG)、紺野ニズベット(SG/SF)、ライオンズ(Point Forward)、コッツァー(PF/C)か。この5人だと平均身長は195.8cmある。
シューターの位置は、コンディションによって小林ではなく岡田が対応でき、ベンチからここぞの場面に出てくる大塚も脅威となる。フロントラインでは、例えば紺野ニズベットに代えて鶴田を起用すれば、200cm越えが3枚のビッグラインナップで戦うことも可能だ。
この11人の昨シーズンの成績を単純に合算して1試合平均値を出して遊んでみると、次のような数字が出てくる。
平均出場時間 218.8分
平均得点 91.5得点
フィールドゴール成功率 48.2%
3P成功率 34.9%
フリースロー成功率 72.3%
平均リバウンド数 40.9本
平均アシスト数 24.7本
平均ターンオーバー数 12.6本
平均スティール数 6.8本
平均ブロックショット数 1.8本
1試合は基本的に40分で、コート上のプレーヤーの出場時間合計は200分になるので、上記の数字をこの200分でのものに換算すると以下のとおりとなる。
平均出場時間 200分
平均得点 83.6得点
フィールドゴール成功率 48.2%
3P成功率 34.9%
フリースロー成功率 72.3%
平均リバウンド数 37.4本
平均アシスト数 22.6本
平均ターンオーバー数 11.5本
平均スティール数 6.2本
平均ブロックショット数 1.67本
これは皮算用として楽しむべき以上の数字ではないことを理解した上で考察を続ければ、B1・B2の実力者が集まったアルティーリ千葉には、要するに、毎試合20本以上のアシストを記録し、ボールシェアが非常にうまく行われるオフェンスの結果、ショットアテンプトの半分近くを成功させ、少なくともB2レベルで84得点近くを取るポテンシャルがあるだろう。ターンオーバーも少なく、堅実なバスケットボールができると感じられる。
上記の数値をBリーグが公式サイトで公開している2020-21シーズンのチーム成績ランキングに当てはめてみると、平均得点と3P成功率はB1・B2どちらでも全体の6位にあたる高い数字。リバウンドはB1なら1位、B2では2位とこれも高い水準で、スティールもB1ではトップ10に入る水準だ。
レマニスHCは初夏のインタビューで、フローオフェンスと呼ばれるドライブ&キックを取り入れボールシェアして得点するオフェンスと、相手オフェンスのバランスを崩す破壊的な(ディスラプティブな)ディフェンスを目指すと話してくれていた。11人の顔ぶれを見る限り、どうやらそれができる準備が整いつつあるようだ。
アルティーリ千葉としての初めての試合となる9月11日(土)のプレシーズンゲームは、バスケットLIVE(https://basketball.mb.softbank.jp/)でのライブ配信があるので、全国からその戦いぶりを見ることができる。
B3のクラブ創設初シーズンは、10月9日(土)にOKBぎふ清流アリーナで行われる岐阜スゥープスとの試合でスタート。千葉ポートアリーナで行われるクラブ初のホームゲーム・シリーズは、その翌週10月16日(土)・17日(日)の対アイシン・アレイオンズ戦だ。
文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)