月刊バスケットボール5月号

日本代表

2021.09.04

車いすバスケ男子日本代表、怒涛の速攻で歴史を作る決勝進出

 日本の車いすバスケットボール史上初めての出来事が起こり、それがさらに次なる歴史を生み出そうとしている。

 

 東京2020パラリンピックに出場している男子日本代表は、ここまでですでにベスト8入り、初の準決勝進出を成し遂げ、新たな歴史を作った。しかし9月3日に行われたその準決勝では、それさえも単なる通過点であることを強く印象付けるような怒涛の戦いぶりで、前回大会銅メダリスト、直近の世界選手権チャンピオンであるイギリス代表を79-68の11点の差で倒し、チーム史上初の決勝進出を決めた。


準決勝(9月3日、有明アリーナ)
日本 79(15 18 19 27)
イギリス 68(23 13 12 20)

 

 序盤から激しい点の取り合いとなったこの試合で、先に一歩抜け出したのはイギリス代表の方だった。両チームが積極的なオフェンスを展開する中、イギリス代表のミドルレンジのショットが高確率で決まり、第1Q残り2分13秒にグレッグ・ウォーバートンが得点した時点では、日本代表は11-21と2ケタ点差のリードを奪われていた。


反撃に転じたい日本代表は、第2Q開始2分過ぎ、今大会で3Pショットが非常に好調な香西宏昭(持ち点3.5)が厳しいプレッシャーを外してこの試合1本目の3Pショットを成功させ18-25。イギリス代表はしぶとく得点を積み重ねるが、日本代表も香西のリバウンドから藤沢 潔(2.0)、鳥海連志(2.5)、赤石竜我(2.5)の三線速攻を鳥海が華麗なチェアワークからのレイアップで得点につなげるなど、好プレーで一歩も引かずに対抗。28-36と8点差を追う状況だったクォーター残り2分以降は、鳥海の速攻からのレイアップと古沢拓也(3.0)の今大会初の3Pショットが決まり、前半を33-36と3点差で終えることができた。

 

 ここまでの展開で、日本代表はトランジションの速さと速攻がよく出ていたことに加え、3Pショットを期待すべき香西が2本の中2本成功、古沢が2本中1本成功、藤本怜央(4.5)も2本中1本を決めていた。この3人で6本中4本成功という高確率は、イギリス代表にとっては獲らせたくないプレーヤーに獲られていることを意味し、大きなダメージとなった。

 

 しかも、後半は日本代表の速攻に拍車がかかる。第3Qは古沢の速攻からの2本の得点で37-36と逆転に成功。ここからの点の取り合いにも、藤本が追いすがるディフェンスを前方に体を伸ばして巧みかわす技ありのミドルショットを決めたあと、川原 凜(1.5)、古沢、鳥海が速攻から得点して続き、徐々にリードを広げていった。残り2分40秒、赤石と川原のローポインターコンビが左ウイングでピック&ロールを展開し、川原がこれを得点につなげ50-46。さらにフリースローライン周辺で香西からのパスを受けた川原がミドルショットを決め52-46。その後ウォーバートンに1本か返されたが、日本代表は52-48と2ポゼッションのリードを保って最終クォーターに突入した。

 

 勝負の第4Qは、香西が開始早々にこの日3本目の3Pショットを決め55-48と点差を広げる。香西はこの一撃を含め、クォーター序盤に7点を一人で稼ぎチームに勢いをもたらした。

 

 イギリス代表も懸命に追い上げを試み、残り1分7秒にテリー・バイウォーターがフリースローを1本決めた時点では、日本のリードは74-68の6点差だった。しかし日本代表は落ち着きを失わなかった。

 

 残り46秒には、ディフェンス・リバウンドをつかんだ香西のパスを受けた鳥海が、戻りがやや遅れていたイギリス代表のディフェンスを軽やかにかわしてあっという間にゴール下に迫り、イージーレイアップで76-68。その後も秋田がフリースロー1本を加え、最後は赤石が速攻からレイアップを決めて79-68とし、試合終了となった。

 

 この日登録12人全員が出場した日本代表は、リバウンドで33-31と上回り、速攻からの得点でイギリス代表を22-2と圧倒。堅実なディフェンスと怒涛のオフェンスで銀メダル以上を確定させた。


日本代表のトップスコアラーは鳥海で20得点。鳥海はフィールドゴール14本中9本成功に8リバウンド、8アシストも記録した。香西は3Pショット3本すべて成功を含む17得点で、フィールドゴール全体でも9本中7本成功の高確率だった。±のチームトップは最年少20歳の赤石の+19。ベテランの経験と技術に若い力が融合し、男子日本代表は新たな歴の1ページを綴った。


9月5日(日)の12時30分から有明アリーナで行われる決勝戦の相手はアメリカ代表。日本代表が倒したイギリス代表と2018年の世界選手権決勝で対戦し、62-79のスコアで敗れたチームだ。


文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)



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