月刊バスケットボール5月号

アスリートも部活生も基本は同じ!「正しく食べる」ことを身につけよう!

知らないだけで損してる!?

部活生のための栄養の知識 

 

 インターハイや全国中学大会などが開催される夏休みは、部活生たちにとって大切な期間だ。その予選に敗れれば次の大会に向け、日々練習に打ち込むことになる。さらに今年の夏は、連日、オリンピックでのトップアスリートたちの躍動が伝えられているだけに、やる気にみなぎる部活生が多いに違いない。

 

 しかし、気持ちだけで、パフォーマンスが向上するわけではない。スキルとともに、体力の向上が必須なのは今更言うまでもないだろう。そして、その体力を作り出すのはトレーニングと食事である。海外で活躍するトップアスリートが専属の料理人を雇っているといったニュースを目にすることもあれば、“勝負メシ”なんて言葉も耳にする。しかし、アスリートにとって食事=栄養摂取がどのくらい大切なのか、どんなものをどのタイミングでどのくらい摂取したらいいのかと、分からないことが多いのが実際のところだ。

 

 そこで、この夏、必死に汗を流している多くの部活生たちに必要な栄養情報を、メジャーリーグで大活躍を見せている大谷翔平選手をはじめ、多くのトップアスリートの栄養サポートを行っている管理栄養士の大前恵(株式会社 明治)さんにうかがった。大前さんは、最近ではバスケットボールの河村勇輝(東海大)選手の栄養サポートも担当しており、アスリートの生の声を知るエキスパートだ。

 

多くのトップアスリートの栄養サポートを行っている大前恵さん (株) 明治 

 

Vol.1 「正しく食べる」

 

──栄養サポートというと、プロテインなどのサプリメントの摂取をアドバイスするといったイメージがありますが、実際はどのようなことをされているのでしょうか。

 

「アスリートによってそれぞれ違いますが、まずは基本的な栄養の働きを伝え、それらを摂ることができる食事を習慣化するためのアドバイスといったところから始まります。意外と多くのアスリートが『正しく食べる』ということができていません。日常の食生活を正しくしていくことが、カラダづくりの基本的な部分となっていくので、まずはそこからです。例えばメジャーリーガーの大谷翔平選手は、そうした日常の食生活や、基本的な知識はもうバッチリで、そのうえで、誰も経験したことのない、新しい領域のチャレンジをしているので、自分自身でどんどん新しい知識を得て、実践していくといった状態です。

 

 

 そんなアスリートに対して、我々は専門的な観点から、アドバイスを行うといった関わり方です。一方で、河村勇輝選手の場合は、大学に入ってから栄養サポートをスタートし、まさに日常の食生活を整えていっている状態です。これまでも寮生活を送ってきているので、意識することなく質と量を得られ、自分自身でも栄養情報を調べて取り組んでいましたが、情報が溢れている時代ということもあるのか、河村選手が目指すパフォーマンスに最適な知識であったかといえば、そうではありませんでした」

 

──自分自身が正しい知識を持っていないと環境によって左右されてしまうわけですね。

 

 知識のあるコーチや保護者が周りにいればいいですが、そうではないと、きちんと栄養が摂れなくなってしまいます。

「加えて、中学、高校といった部活生の場合、カラダの成長度合いは人それぞれですし、通学時間もさまざま、チームの環境もまちまちですから、自分自身がしっかりと意識しているかどうかが大切になります。まずは、日々の食事が競技にとって、例えばバスケットボールにとってなぜ大事か、密接にどう影響するかを理解することです。バスケットボールは身長の高さが優位に影響します。

 

 成長期に成長するための十分な栄養を摂ることが、カラダを大きくすることにつながるので、選手としての可能性を広げることにつながります。また、シュートの成功確率を上げたいと思った時に、筋力を上げ、シュートを打つ力を持続させることで安定感が増すと考えれば、必要なことは、しっかりとトレーニングをし、エネルギーや、筋肉の材料をカラダに入れることです。

 

 さらにコンディションを整え、質の高い練習を毎日続けることで、競技力の向上につながりますよね。筋肉や骨といったカラダづくりや、そのカラダを動かすためのエネルギー・コンディションを整えることも、すべて食事を摂取することが大きく関係するので、食事が競技力アップのカギとなるのです」

 

 

──では具体的に、部活生たちは、どのようなものを、どのくらい食べればいいのでしょうか。

 

 「5大栄養素は知っていますか。『炭水化物(糖質)』『脂質』『たんぱく質』『ミネラル』『ビタミン』ですが、それぞれの役割……、例えば炭水化物(糖質)はエネルギーになるなど(別表参照)は、競技を続けていくうえで付いて回ることなので、覚えておいてほしいです。そして、この5大栄養素を全て含んだ食事を摂ることが基本となり、その食事を私たちは『栄養フルコース型』の食事と呼んでいます。

 

 

 

 といっても特別なものではなく『1.主食(米、パン、麺類など)』『2.おかず(肉、魚、卵、大豆食品など)』『3.野菜』『4.果物』『5.乳製品』の5種類をそろえることで、アスリートにとって必要な栄養素を簡単にフルに摂ることができるので、まずは1日3食『栄養フルコース型』の食事を摂ることを習慣にしましょう。

 

 量については個人差が出てきますが、成長期のアスリートであれば、運動で消費したエネルギーやリカバリーの材料を補給するだけでなく、成長する分の栄養も必要になるので、特に『2.おかず』は(一般的な大人の)2人前は食べるようにしたいですね。普通なら焼き魚一尾のところを二尾といった具合です。その他の栄養素も一般の人の2倍近く必要なものが多いので、2人前食べるといった意識を持っているといいでしょう。すぐに食べる量を増やすことは難しいですが、もし、今よりカラダを大きくしたいと思っているのであれば、食事の量を増やしていく努力が必要です」

 

 

 

──部活生たちは、食べる量が足りていないケースが多そうですね。

 

 「個人差もあり、一括りに言い切ることはできませんが、自分がもう少しカラダを大きくしたい、パワーを付けたい、練習に最後まで付いていきたいなどと思っているのであれば、今より食べる量を増やすことで、カラダが変わる可能性が大きいです。成長期であればなおさらです。一方で、食べ過ぎれば体脂肪になってしまい、脂肪による体重増加は、動きのキレや関節への負担などデメリットが大きいので自分自身を知ることが必要ですね」

 

 

 

──例えば、ジャンプ力を伸ばしたいのならばこの栄養素、持久力を伸ばしたいのならこの栄養素などといった、個人の求めるものによって特定の栄養素はあるのでしょうか。

 

 「バスケットボールに必要な動きは、すべて筋肉を動かして行われるので、ジャンプ力を伸ばすにはこの栄養素という風に考えるのではなく、まずは『栄養フルコース型』の食事を食べる習慣を付け、練習やトレーニングで目的に合わせ、筋肉量を増やすことを意識することが大切です」

 

──河村選手の場合は、どのようなサポートを行っているのですか。

 

 「実はサポートし始めたとき、新型コロナウィルスが蔓延しはじめ、バスケットボールの練習自体、満足にできないような状況でした。そうしたこともあり、河村選手は太ってしまうからとご飯を食べないようにしたり、食べる量を減らしたりしていました。トレーニングなどによって運動量を増やしていこうというタイミングだったので、まずはカラダづくりのために、栄養の基本の説明をしました。

 


 

 

 さらに体脂肪となりやすい脂質の量を控え、筋肉の材料であるたんぱく質をしっかり摂れるよう、『栄養フルコース型』の食事のうち、おかずについて、肉・魚の高たんぱく質・低脂質の部位や、油を使わない調理法を伝え、体重・体脂肪を計って確認していこうとアドバイスしました」

 

 

 

──若いアスリートは、運動できないからと食べる量を減らすのではなく、しっかりと食べて、それを消化できるように運動量を担保することが必要だということですね。

 

 「そうですね。河村選手にしても今では、高校から大学に上がったころと比べて、1,000キロカロリー以上食べる量が増えていますが、体重も、体脂肪も変わっていないどころか、少し絞れているくらいですね。ですから正しく食べて、正しく動くということが必要なのです」

 

資料・写真提供:株式会社 明治

 

\バスケ×食事/ 

正しく食べる=目標に近づく!

https://www.basketball-zine.com/savas/

 

Vol.2は【熱中症、足つり、スタミナ切れ】しないための正しい水分補給について

 



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