月刊バスケットボール5月号

飛躍の高知中央、吉岡利博コーチが掲げる プレーでも私生活でも「考え続ける」ことの大切さ

 

2020年のウインターカップ。男子は仙台大明成が、女子は桜花学園がコロナ禍での大会を制したが、そんな中でめざましい躍進を遂げたチームがあった。女子のトーナメントを破竹の勢いで勝ち上がり、3位入賞を果たした高知中央だ。

得点力の高い司令塔の井上ひかる(園田学園女大)、現在は三菱電機コアラーズでトップリーグに揉まれる大崎万菜、ンウォコ・マーベラス・アダクビクター(拓殖大)らを軸に並み居る強豪を破り、女王・桜花学園に対しても終盤まで食らい付く好勝負を演じた。

 

年が明け、新チームになってからも四国新人と四国大会を共に優勝で飾り、インターハイに備えている。依然、新型コロナウイルスへの対策を講じながらの練習だが、夏に向けてチームはどのような状況にあるのか、そして高知中央の目指していくスタイルとはどんなものなのか。

就任3年目を迎えた吉岡利博コーチに話を伺った。

 

 

初戦から気の抜けないドロー

インターハイまでに突き詰めたい「ハードワーク」

 

 

ーーインターハイまで1か月(取材日7/7)を切りました。チームの雰囲気はいかがですか?

 

 チームとしては日に日に士気が上がってきています。ただ、不安もあってやっぱり時間が足りないかなというのが率直な感想ですね。緊張はないと思うんですけど、昨年のウインターカップで3位になって四国では新人戦もブロック大会も優勝できたことで、注目度がいつもとは違うと思うんです。そこまで力があるという感じではないと思うんですが、それなのに注目度が高いことに関して、不安はあると思います。

 

ーー今年のチームスタイルはどのようなものでしょうか?

 

 今年のカラーは池口(祐可)を起点に、日本人もしっかりとオフェンスに参加すること。アタックメンタリティーをしっかりと持って戦うスタイルです。昨年は井上ひかるがボールを持ってピック&ダイブで点を取っていくのが主な戦法でしたが、今年は球離れを良く、パスを動かしてシュートを狙っていくという感覚です。

今年は3月に一度だけ県内のチームと留学生抜きで練習試合をしただけで、あとは自分たちの足りない部分は公式戦で見つけていくような感じでした。その中で、聖カタリナ学園に新人戦とブロック大会で2度勝てたことが自信にもつながりますが、僕としてはまだまだまやかしで勝ったような感覚があります。

 

ーー人柄やキャラクターという面では、今年の選手たちはいかがですか?

 

 明るい方だと思います。オン・オフの切り替えをハッキリさせるようにしているので、コートを離れたらヤンチャでゆる〜い仲良しな感じですが、バスケットとなったらしっかりと取り組んでいます。それが僕の考え方でもあるんですよ。

 

 

 

ーーインターハイの組み合わせも決まりました。残りの期間でどのような準備をしていき

たいと考えていますか?

 

 特に意識しているのは、初戦(2回戦)で当たる可能性が高い大阪薫英女学院さんの伝統やハードワークや泥臭く戦ってくるという、今のウチに一番足りないものを残りの期間でどこまで準備できるのかというところですね。技術どうこうというよりもメンタル的なところを作っていく必要があると感じています。薫英さんは留学生はいないですが、積み重ねてきた伝統があって日本人選手もスキルの高い選手が多い印象です。選手たち全員に安藤香織コーチの“安藤イズム”が浸透していると思っているので、前からどんどん仕掛けてくるんだろうな、と。ハードワークの部分では意識して練習に取り組んでいますね。

 

ーー今年の3年生は吉岡コーチが指導にあたると同時に入学してきた選手たちです。3年目ということで、チームに浸透させられてきた部分はどんなところでしょうか?

 

「考え続ける」という部分はだいぶ浸透してきました。以前は一つのプレーが終わるごとに思考が切れていたんです。だから、例えば「この場面なら味方が必ずドライブにいくだろう」「このシュートは決まるだろう」というような思い込みでプレーしないことを伝えています。見た事実、起こったことに対して自分がどう動くかを常に考え続けることが必要ですから。味方がシュートを打つと思っていても、打たないことだってあるわけですから、もしかしたら打たずに止まるかもしれないから、そのときのために自分が合わせの準備をしておこう、とか。常に次のプレーを意識して動くという部分は浸透してきたところですね。

 

あとは、精神的な波がだいぶ少なくなったと思います。特に1年目なんて僕がコーチになることを納得していない子もいましたし、練習後にはコートの端の方で「バスケットが分からない」って泣いてしまうような子もいました。あのひかるでさえ、2年生のインターハ 学してきた子たちなので、僕の指導を素直に受け入れられたのかなと思います。

 

 

 

新型コロナとも向き合いながらの夏

 

ーー今は指導と同時に新型コロナウイルスとも向き合っていかなければなりません。昨年のウインターカップでも、コロナの影響で出場できないチームや大会途中で棄権せざるを得ないチームもありました。改めて感染対策についてはどのような取り組みをしていますか?

 

 学校生活では消毒をしたりマスクを着けたりという基本的な部分を徹底しています。それと、寮でも寝るとき以外は部屋の中でもマスク着用を指示していてパーソナルスペースの維持も意識させていることですね。また、不要不急の外出は控えて外に出ても用が済んだらすぐに戻ってくるという、子どもたちにとったら窮屈なことではありますが、「君たちが外出することで、バスケ部以外にも迷惑がかかるかもしれないんだよ」という話をしています。「個人の欲求を優先させるよりも周りへの影響を考えて、自分が感染しているというつもりで行動しなさい」と。

 

試合中もベンチに戻ったらアルコール消毒をしたり、そういう部分は昨年から継続していることで、そういう行動の一つ一つが対策につながっていると思うんです。ウインターカップ期間中もホテルからは出ない、長い時間外に出ないことを徹底して、食事も僕と部長の橋本翔平先生で手配していたんです。途中で棄権になったチームを見てきたからこそ、とにかく神経を集中させていました。

 

 

ーー指導方にもあった「考え続ける」というのは、コロナ対策にも通ずる部分ですね。

 

 私生活での行動がコートでのプレーに現れますよね。コート上で一流になりたければコート外でも意識をしっかりと持たなければいけません。自分の視点だけではなくて、ほかの人の立場になって物事を見ることも大事だと思うんです。

 

ーー今使っているバイオレーラ製のマスクも感染対策の一環で取り入れたのですか?

 

そうですね。きっかけはバイオレーラさんの製品がほかの製品に比べて安価であるということからでした。機能面でも高いお金を払って買ったほかの製品と比べても遜色ありませんし、バイオレーラさんがすごく手厚くサポートをしてくださったので、それが決め手になりましたね。不織布のマスクだとどうしても声が通りづらかったんですが、このマスクでは問題なく聞こえますし、ウレタン製なので肌触りもいいんですよね。

 

 

 

ーーこれから夏本番を迎えると、特に体育館の中は湿度も温度も高くなってくると思います。

 

 そうなんですよね。マスクなしと比べるとさすがにしんどいですけど、バイオレーラさんのマスクは普通のマスクの息苦しさに比べるとかなり快適でやりやすいのではないかと思います。実はマスクと一緒にユニフォームも新調したんですよ。ウチは僕が指導に当たったときからずっと赤のユニフォームを着けてきたんですけど、チームカラーが赤かと言われるとそういうわけではないらしいんです(笑)。であれば、ベースのカラーも思い切って変えても良いのかなと思って、四国大会は黒×金のユニフォームで戦いました。

 

 

 

選手たちにも自覚と責任をーー

ともにチームを作り上げていく

 

ーー黒×金というカラーは吉岡コーチの提案ですか?

 

 いや、カラーリングは選手たちに好きなものを決めてもらいました。それと今は背番号が自由な学校も増えてきているので、「好きなのでいいよ」って。こういうのも僕の考えの一環なんですよね。というのも、僕は教員ではなくてもともと社会人をやっていた身なので、会社感覚で物事を考えるクセがあるんです。だから、ある意味では子どもたちを会社の社員という見方をしているところもあって、そうなったときに会社では上司からやれと言われた仕事だけをこなすことってあまりないじゃないですか。仕事というのは言われたからやるものではない。そういう感覚を高校生の頃から身に付けてもらいたいんです。

 

成功する人というのは自分でちゃんと考える力を持っていて、何をしたらいいか、どうするのがいいかを考えられる人だと思います。それと同じで、ユニフォームにしても背番号にしても選手たちに選択権を与える代わりに、納得いくものを作りなさい、と。「自分たちの納得したものを作ったんだから、それを着て負けるのは嫌でしょ?」って(笑)。伝統校だったら憧れの先輩が着けていた番号を自分も着けたいとか、そういうのがあるんでしょうけど、ウチに入ってくる選手たちはそういう感覚をあまり持っていないというか、「伝統校だから高知中央!」という子たちじゃないと思うんです。どちらかというと、これから先が楽しみな学校だと思って入ってきてくれている子たちがほとんどだと思うので、僕が一人で全部を決めずに、子どもたちにしっかり相談するようにしています。

 

 

ーーそういう面でも考えるという言葉が通ずるわけですね。吉岡コーチは最終的にどんな選手を育てていきたいと考えていますか?

 

 練習では弱点をしっかりと克服すること、試合では得意なことがしっかりと決まるようにするというのが大事なことだと思います。例えばシュートが苦手な子であれば、いくらドリブルやドライブがうまくてもディフェンスから離されてしまえば手詰まりになってしまいます。その不安に駆られた状態でプレーをしないといけないのなら、普段の練習時間の多くを苦手なものに費やしてそれを克服してほしいです。

 

子どもってついつい自分の得意なことや好きなことをやりがちですが、レベルが上がれば上がるほど相手も考える力があります。右にいくのが得意だと思われれば、そこを止められるし、「このプレーが苦手なんだ」と思われれば苦手な方へ追いやられてしまいます。そうなってしまう選手を長い時間試合で使えるかと言われると難しいんですよね。

 

当然、自分の武器を尖らせることは大事なことで、必要なことですが好きなことって何も言わなくても自分でやるんです。だから、なるべく苦手なことに目を向けるように指導をしています。

 

 

先につながる戦いを目指し

留学生依存からの脱却、そして共存へ

 

ーーチームとしての理想形はどういったものですか?

 

 高知中央の監督に就任したときに、留学生依存からの脱却、『依存から共存へ』というテーマを掲げました。その結果、昨年のウインターカップではひかるがベースになったプレーが展開できたのは大きかったですね。実際、昨年度の3年生をしっかりと指導できたのは1年もないくらいで、それまでは突然監督が変わるとなって衝突もありましたし大変なことも多かったです。

 

でも、あのウインターカップがこのチームで目指している完成形が少し見えたような瞬間だったのかなと思います。見ている人も楽しめる、どこからでも攻められる展開が作れるやり方が、あの大会のような戦いだったのかなと。日本人選手と留学生がしっかりと共存できるように、留学生に頼り切るのではなく、一つの武器として考えるようにと伝えてきたことが少し形になりました。

 

 

ーー今年の目標はどう設定していますか?

 

 選手は日本一を目指して取り組んでいます。昨年のウインターカップで3位に入れたことで、自分たちもやればできるのではないかという思いはあると思います。ただ、目指すのは日本一ではありますけど、ウチはまだまだ伝統校ではありませんし、新興勢力というイメージです。まだまだ、“真の強さ”というよりはメッキの強さだと思っているので、あくまでも目先の試合をしっかりと戦っていくことが大事なことであり、目標だと感じています。

 

ーー“真の強さ”という面では昨年、メインコートで桜花学園と戦えたことは今年のチームにとっても財産でしたね。

 

 そうですね。練習試合もさせてもらったし、公式戦でも戦えたことで「王者ってこういう感じなんだな」というのを肌で感じました。ただ、その背中がものすごく遠かったかといったらそうではなかったです。実際、第4Qの中盤で10点強くらいまで点差を詰めることができたので。そこから立て続けにミスをしてしまいましたが、そういう場面でしっかりと詰め寄れるチームになれれば、つまり真に強いチームになれれば、たとえ相手が桜花学園でも脅かせる存在になっていけるのではないかと思います。それはやっていた選手たちも感じていたことだと思います。

 

 

 

ーー雲の上の存在ではないという実感が持てたのですね。ここまでのお話を踏まえて、最後の質問です。ずばり、インターハイの目標を教えてください。

 

 

当然、上位進出は狙っていますが、組み合わせを見ると下位回戦から各地区のブロック王者クラスのチームと当たる可能性があるので、連日ベスト4、ベスト8レベルの試合が続くくらいの気持ちで戦わないと上にはいけないと思っています。

とはいえ、勝っても負けても高校生の最後の舞台はウインターカップになるので、そこに向けた自分たちの立ち位置を知ることが重要です。結果を求めるのと同時にインターハイの時点で自分たちに何があって、何が足りなかったのかということを知る大会にしたいと思っています。

 

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