東京2020女子バスケ決勝戦日米対決展望 – 3Pシューティング編
決勝進出! 歴史を塗り替え歓喜の12人(写真/©fiba.basketball)
日本のバスケットボール界にとって快挙というべきオリンピックでの決勝進出とメダル確定。本当に素晴らしい出来事であり、関係者のこれまでの取り組みとファンからの声援が、それにふさわしい成果を挙げたことを心から祝し、また感謝の意を表したい。
ただし、ホーバス トムHCが「決勝戦でアメリカを倒して金メダル」という明確な目標を掲げている今回の女子日本代表にとって、これはまだ通過点だ。見る側としてもこの点をあらためて強く認識すると、この頂上決戦を最大限に楽しむことができるだろう。
金メダルだけを念頭に、日本代表の最大の武器である3Pシューティングについての考察をまとめてみた。無邪気な遊びとして、しかし今回の決勝戦を楽しむ一つの見方としてご覧いただきたい。いったいどのくらい決めればアメリカ代表を倒すのに十分だろうか。また、それを実現するには何が必要なのだろうか。
45.5%の確率で決める
日本代表は今大会の5試合で、アメリカ代表との試合以外のすべてに勝っているのだが、対アメリカ代表戦とその他の4試合では、3Pシューティングとチームとしての得点に大きな差があった。
対アメリカ代表戦
3Pシューティング: 成功数10 アテンプト数38 成功率26.3%
得点: 69 3Pショットによる点数: 30(43.5%) ※最終スコアは69-86
その他の4試合(平均値)
3Pシューティング: 成功数13.8 アテンプト数30.3 成功率45.5%
得点: 87.3 3Pショットによる点数: 41.3(47.3%)
仮にアメリカ代表との試合で、その他の4試合と同じペースで3Pショットが入っていたら…。これはあくまで無邪気な遊びだとのご理解をもう一度お願いして続けると、単純計算ではそれによる成功数は17.3本(アテンプト38本の45.5%)となり、実際の成功数10本との差である7.3本分として21.9得点加算しようということになる。そうした場合の最終スコアは90.9-86で日本代表が上回る。
つまり、3Pショットをほかの4試合と同じ45.5%の確率で決められていたら、少なくとも相当競った展開を期待できそうだったことが示唆される(アテンプトとして30-40本近い数字が必要)。
それはアメリカ代表に対して現実的にできることなのか。少なくともホーバスHCの頭の中では、間違いなく現実的な目標の範疇だ。「平均得点80点台。80ポゼッションで3Pアテンプトを30本以上(あるいは約40%)にして、そのうち40%近くを成功させる」というのが、4月の合宿中にホーバスHCが語った指標だった。
今大会のデータから考えても、数試合に一度、それが可能な日が来ると思う。5試合での3P成功率40.9%は全12チーム中のトップ。同成功数65本も、2位のオーストラリア(36本)を大きく引き離して“ぶっちぎり”状態だ。毎試合平均で10人が3Pショットアテンプトを記録し、6.6人が少なくとも1本成功させている中で、アベレージでそのハードルを越えているプレーヤーが4人、メンバー全体の30%以上いる。
シューターとしての役割をきっちり果たしている林。ピークはここからだ(写真/©fiba.basketball)
高田真希(デンソーアイリス) 71.4%(5/7)
林 咲希(ENEOSサンフラワーズ) 50.0%(17/34)
馬瓜エブリン(トヨタ自動車アンテロープス) 50.0%(3/6)
宮澤夕貴(富士通レッドウェーブ) 45.2%(19/42)
オコエ桃仁花(富士通レッドウェーブ) 41.7%(5/12)
本橋菜子(東京羽田ヴィッキーズ) 38.5%(5/13)
三好南穂(トヨタ自動車アンテロープス) 30.0%(3/10)
町田瑠唯(富士通レッドウェーブ) 28.6%(2/7)
宮崎早織(ENEOSサンフラワーズ) 25.0%(2/8)
長岡萌映子(トヨタ自動車アンテロープス) 20.0%(2/10)
赤穂ひまわり(デンソーアイリス) 20.0%(1/5)
東藤なな子(トヨタ紡織サンシャインラビッツ)0.0%(0/3)
高田の勝負強さは別次元。インサイドのディフェンスと町田との合わせで加点するペイントでの得点も含め、オリンピックでキャプテンを務めるプレーヤーに期待すべきパフォーマンスだ。
キャプテンらしい働きぶりの高田。社長らしいというべきか(写真/©fiba.basketball)
林と宮澤はメインのシューターとして期待どおりの仕事ぶり。また、馬瓜が高田同様にここぞの一撃を高確率で決めている。彼女のペイントアタックと3Pショットのコンビネーションは相手にとっては相当対応するのが難しいはずだ。
オコエはアメリカ代表との試合で3Pショットのブロック1本を食らったが、まずまずの数字だ(本来素晴らしい数字なのだが前述の遊びの大前提に照らすとまだ上を目指せる位置にいる)。彼女たちに臨むのは、チームメイトからのパスが来ると信じて、来たらこれまでに何百万回も繰り返した自分のムーブ、自分のストロークを再現することだけだ。結果として70%、80%決まったとしても驚かない。
本橋の積極性は前稿のプレーメイカー編でも触れたが、確実性も伴っている。三好は非常に短い時間しかコートに立っていない中で許容範囲の数字であり、かつ準決勝で1/1。8月8日は至高の舞台でビッグタイム・シューターぶりを発揮する予感はある。
町田と宮崎はチームメイトの3Pショットのおぜん立てが「超」をつけたくなるほどの出来なのであり、「この調子で」と言いたくなる。長岡は、自身ではあと数本決めたかったショットがあっただろう。しかし良いショットは打てており、初戦の終盤でフランス代表にとどめを刺した3Pショットも彼女の手によるものだった。
赤穂はフィニッシュに向かう判断が良く、ドライブやオフボールのカットからパスを受けて得点できているので、無理にロングレンジで勝負する必要はないだろう。しかし準決勝で今大会初めて3Pショットを決めた(1/1)。まだ3Pショットを決めていない東藤は、だからこそ逆にそろそろ来るだろうことを期待させる。それだけアクティブに攻守で働いているからだ。こうして12人全員を並べて、それぞれについて「3Pショットが狙える」ことを異なる形で書けること自体、ロスターの層の厚さを表しているのかもしれない。
しかしなぜアメリカ代表との試合では確率が極端に下がったのか。第1Qは60%の確率で決めていたのに…。
アメリカ代表のドーン・ステイリーHCは、初回の対戦で第2Q以降はドリブルで攻め込ませるように仕向け、3Pショットに対するディフェンスの強度を高めたという趣旨のコメントをしていた。これをそのまま受け止めれば、高さのあるコンテストに日本代表のシューターの自信が揺らぎ、手元がぶれたのかもしれない。ショットメイカーたちにメンタルな悪影響を与えられたとしたら、アメリカ代表としては大成功だった。
しかし次のナイジェリア代表との試合からは、48.7%、42.4%、50.0%と高確率が続いている。いずれも高さがあるチームを相手に結果を出したことで、仮に一度自信が揺らいでいたとしても、回復しているのは明らかだ。また、プレーメイカーがコールするセットオフェンスの引き出しは、まだまだあるものと思われる。アメリカ代表との対戦も短い間に2度目なので、良い意味での慣れも期待できるだろう。この試合で日本代表は、3Pショットを武器に勝ちに行ける。
日本代表はアメリカ代表との初戦に、町田、林、赤穂、長岡、高田の5人を先発起用した。全員に3Pショットの脅威があるが、中でもシューターといえば林ということになる。しかし準々決勝と準決勝では、3Pシューターの宮澤を長岡に代えて起用。試合開始の時点から、最大の武器を最大限フィーチャーする布陣で臨んだ。
これは奏功した。特に準々決勝では、宮澤の3Pショットがチームの最初の得点であり、序盤からアウトサイドの脅威を見せられた(準決勝も、3Pショットではないものの最初の得点は宮澤)。
準々決勝での宮澤は、3Pショットを13本中7本を決めてチーム最多の21得点。厳しいマークにあった林は終盤まで7本中2本のみ成功と苦しんだが、最後の3本目が勝負を決めた逆転弾だったのはご存じのとおりだ。決勝トーナメントでの彼女たちは、高さのあるディフェンダーのコンテストに対しメンタルのブレを見せていない。
グループラウンド最終戦から宮澤は上り調子だ(写真/©fiba.basketball)
相手の3Pシューティングへの懸念
逆にアメリカ代表も、3Pシューティングについてまったく悪くはない。成功率は12チーム中3位の35.7%。成功数は3位タイの35本となっている。また、日本代表との試合では42.9%と成功率が平均よりも7.2%高い数値になっている。
実は、日本代表にとってこの3Pショットに対するディフェンスが一つの懸念事項なのだ。FIBA女子ワールドカップ2018でも、対戦した4チームすべてが、日本代表に対しては大会におけるチーム平均よりも10%以上高い成功率を残していたのだが、今大会も以下とおり、フランス代表を除くとその傾向がかなり強く見えている。
フランス代表 今大会平均30.4%→対日本代表21.1%
アメリカ代表 今大会平均35.7%→対日本代表42.9%
ナイジェリア代表 今大会平均30.6%→対日本代表45.5%
ベルギー代表 今大会平均32.9%→対日本代表48.0%
フランス代表 今大会平均30.4%→対日本代表29.2%
普通の状態でも3Pシューティングが悪くないアメリカ代表に、さらに高確率で決められるのはつらいが、そうなっても想定の範囲内。3年越しで同じ傾向が出ているものをいきなり決勝戦でだけ大幅に改善することができるかと言われれば、「怪しい」と答えるのが順当だ。パスを回されて最後に3Pシューターがワイドオープンになっているケースは今大会で何度もあった。
アメリカ代表に対してディフェンスのローテーションを完璧に行うのは本当に厳しいことだと承知の上で、この傾向を極力、ほんの数パーセントでも少なくしたい。相手の3P成功率を40%以下に抑え、こちらは45.5%で13-14本かそれ以上決める。これが別稿『プレーメイカー編』で記した「アメリカ代表のメンタルエッジをへし折る」ことのイメージだ。
徐々に追い詰められた相手は、これまでの5試合を通じて日本代表が実際に展開できているガードに対するブリッツや、ポストアップした長身選手に対するダブルチームにミスを犯し始める。ミスに乗じて日本代表は速攻も出しやすくなる。「40分間の地獄」にアメリカ代表は我を見失ってしまう。
勝ちパターンはこれだろう。そうなれば金メダル。歓喜に包まれ、女子日本代表の東京オリンピックが幕を閉じる。
☆東京2020女子バス日米頂上決戦展望 – プレーメイカー編を読む
文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)