月刊バスケットボール10月号

東京2020女子バスケ決勝戦日米対決展望 – プレーメイカー編

チーム全員からの「ルイ、ありがとう」と町田からの「皆さんのおかげです」という声が聞こえそうな一枚(写真/©fiba.baskeetball)


東京オリンピックの5人制女子バスケットボールは、決勝戦を待たずして画期的な大会となった。一般的には長身者が有利と見られることが多いこの競技で、小柄な日本代表が決勝に進出した事実は、10フィート(305cm)のゴールを使い3Pショットと24秒ショットクロックを導入した現代バスケットボールが、あらゆる人に活躍の機会を担保する素晴らしいスポーツであることを印象づける。

 

 決勝戦では、ホストの日本代表が前回大会のチャンピオンであるアメリカ代表を迎え撃つ。日本代表が勝てば初の金メダル。しかし、FIBA世界ランキング10位で決勝進出が初めての日本代表が、同1位で7大会連続金メダルをねらうアメリカから大金星を挙げることは、現実的に期待できるのだろうか。

 

 答えは「難しいがイエス」ということになる。

 

 日本代表に対してアメリカ代表には、ごく簡単に大きくまとめれば、絶対的な強みが二つある。それは高さや幅などフィジカル面のスケールの大きさと、伝統に基づく自信から、「常に自分たちが強い」と知っていることだ。

 

 しかしほかの諸々の要素はすべてその日の調子や対戦相手など、変数が伴う。それらはすべて、ときに応じて日本代表が優位になりうる要素であり、動かしがたいのは上記の2点だけだ。

 

 アメリカ代表のバスケットボールの土台は、インサイドの威嚇的な高さとフィジカリティであり、パワフルに押し切るのが特徴だ。ガードは長身プレーヤーの使い方を心得た創造的なプレーメイクができ、3Pシューティングも武器とする。誰が出てきても高く、走れて、決定力がある。

 

 メンタルも強い。何度もアメリカ代表のズーム会見に参加させてもらって感じるのは、彼女たちは日本代表を警戒してはいるが、かけらも怖がってはいないということ。決して相手を軽んじるのではなく、警戒してやるべきことは全力でやってきたのだから、それを信じるだけなのだ。それに、自分たちのバスケットボール人生と文化に、絶対的な自信を持っている。一言でいえば次のようなメンタリティーだろう。

 

「皆すごいよね。でも一番は私たちだよ」

 

 日本代表の勝機は、この一片の疑念もないメンタルエッジをへし折る決意を示せたときに訪れる。究極の頂上決戦で何より必要なのは、「うん、これまではそうだったよね。でも、今の私たちには世界一の武器があるんだよ」と跳ね返す心の強さを形で示すことだ。

 

 日本代表には、そのための決定的な武器がいくつか備わっている(それと別に覚えるのが大変なほどのセットプレーがあるという)。すべてはアメリカ代表を倒すため。ホーバス トムHCがこの日のために用意したものだ。他のチームに対する勝利は、その準備に個別チームのスカウティングを融合した成果と捉えることさえできるだろう。


“G.O.A.T.”町田と選りすぐりのプレーメイカーたち


両チームのプレーメイカーを比較したとき、サイズのアドバンテージは明らかにアメリカ代表にある。スー・バード(175cm、シアトル・ストーム)、チェルシー・グレイ(180cm、ラスベガス・エイセズ)、ジュエル・ロイド(175cm、シアトル・ストーム)、スカイラー・ディギンズ-スミス(175cm、フェニックス・マーキュリー)のいずれも、町田瑠唯(162cm、富士通レッドウェーブ)、宮崎早織(167cm、ENEOSサンフラワーズ)、本橋菜子(165cm、東京羽田ヴィッキーズ)に比較して大きい。

 

 しかし今大会では、フロントラインやシューターとの連係の良さでは日本が勝っている。それを象徴するのが、準決勝でフランス代表相手にオリンピック記録となる1試合18アシストを記録した、町田のパフォーマンスだ。

 

町田の名は史上最強を意味する“G.O.A.T.(Greatest Of All Time)”という言葉とともに語られるようになった(写真/©fiba.basketball)

 

 受け手のフィニッシュ力ももちろん一つの要素だ。しかし、準決勝終了後の赤穂ひまわり(デンソーアイリス)のコメントを聞けば、チーム内の町田に対する信頼の強さがよくわかる。「今日は町田選手の動きに合わせていっぱい走ることができ、そこで走れば絶対にパスが来るので、(パスしてくれて)ありがとうございますと言いたいです」

 

 ロイドは毎試合二桁アシストの驚異的パフォーマンスを続ける町田について聞いた際、「彼女メッチャ速いですよね!」と苦笑いを浮かべながら答えてくれた。「緩急をつけたり方向転換して、ペイントでディフェンスを崩せるからあのパスを出せるんですよね。すごいプレーヤーだし、日本には優秀なコーチもついているので警戒しています」

 

 本橋、宮崎が代わって入っても、町田と同じスピード感は維持される。また、二人の攻め気は自らのフィニッシュで表現されるケースが町田に比べて多いので、アメリカ代表はプレッシャーを落とすわけにはいかない。しかも本橋は3Pショットで、宮崎はドライブからのフィニッシュでという具合に、異なる形で結果を出している。

 

スピードに乗ったドライブからフィニッシュもキックアウトもある宮崎。今大会はベンチから堅実な貢献をもたらしている(写真/©fiba.basketball)


40分間の地獄


三人が40分間一貫して相手を働かせ続ける、ボディブローのようなプレーをできたら面白い。その効果はプレーメイカー同士のマッチアップだけでなく、スイッチが起こったときに対峙する長身プレーヤーにも及ぶ。

 

 2番から4番までこなせる193cmのフォワード、ブリアナ・スチュアートは、大会開幕前の会見で「小柄な日本代表のガードにディフェンスで対応するのはものすごく大変。外まで出ていかないといけませんから」と日本代表についてのイメージを聞かせてくれた。同様の話はドーン・ステイリーHCやアシスタントのジェニファー・リッツォッティからも聞かれた。

 

さほど出場時間は長くない本橋だが、積極的にオフェンスを組み立てている(写真/©fiba.basketball)

 

 グループラウンドでの直接対決で、日本代表はもう少しでアメリカ代表を「40分間の地獄」に誘い込むことができそうだった。スチュアートが感じているイヤなイメージが確認されたような数字が残されている。

 

☆日米プレーメイカーの今大会の個人成績
※M=出場時間、P=得点、A=アシスト、R=リバウンド、TO=ターンオーバー(カッコ内は直接対決)
町田 26.3M, 7.0P, 13.8A, 2.4R, 2.6TO(29:27, 9P, 11A, 2R, 1TO)
本橋 7.3M, 5.0P, 1.2A, 0.6R, 1.2TO(1:08, 0P, 0A, 0R, 0TO)
宮崎 9.6M, 3.5P, 3.0A, 0.5R, 1.5TO(11:47, 5P, 3A, 0R, 1TO)
日本代表3人トータル 15.5P, 18.0A, 3.5R, 5.3TO(14P, 14A, 2R, 2TO)

 

バード 25.3M, 5.2P, 6.4A, 2.4R, 1.0TO(27:34, 3P, 6A, 4R, 1TO)
ロイド 20.1M, 5.2P, 2.8A, 3.0R, 3.4TO(27:22, 12P, 2A, 4R, 4TO)
グレイ 18.1M, 7.6P, 3.0A, 1.8R, 2.2TO(17:51, 6P, 3A, 3R, 1TO)
ディギンズ-スミス 7.7M, 2.0P, 0.5A, 0.3R, 0.3TO(日本代表戦は出場なし)
アメリカ代表4人トータル 20.0P, 12.9A, 7.7R, 6.9TO(21P, 11A, 11R, 6TO)

 

町田を絶賛したロイド。2015年のWNBAドラフト全体1位指名でストーム入りし、新人王、オールスター選出3回、リーグ制覇2回のプレーメイカーだ(写真/©fiba.basketball)

 

 得点はややアメリカ代表優勢、リバウンドも当たり前のようにアメリカ代表が優勢だが、アシストではオリンピックのG.O.A.T.(Greatest Of All Time=史上最強)の町田を擁する日本代表が優勢であり、ターンオーバーでも日本代表が上回る。

 

 町田はダブルダブルに近い数字で、アシスト・ターンオーバー比(A/TO)が驚異の11.0。A/TOは三人でも7.0。その一方でアメリカ代表の三人(ディギンズ-スミスは不出場)は日本代表の三人の3倍に上るターンオーバーを犯していた(チーム全体でも日本代表の10に対してアメリカ代表は17)。日本代表のプレーメイカー三人は、アメリカ代表をズタズタにしていた…とまでは言わずとも、相当苦しめていた。

 

 これらが苦手意識につながる(メンタルエッジをへし折る)一つの要素のように思う。

 

東京2020女子バスケ決勝戦日米対決展望 – 3Pシューティング編に続く


文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)



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