月刊バスケットボール5月号

不屈の闘志を体現し、3×3を新時代に導いた男子日本代表

「あきらめないぞ」という思いが、日本代表のハドルのたびに、世界中のファンの心に届けられた(写真/©fiba.basketball)

 

 7月27日午後のグループラウンド最終戦を前に、3×3男子日本代表の決勝トーナメント進出は絶望的な状況だった。

 

 1勝5敗は出場8チームの底に沈む8位。しかし、このグループ最終戦直前に、2勝4敗だったポーランド代表がベルギー代表に敗れたことで、同じく2勝4敗の中国代表を相手に戦うグループラウンド最終戦が、奇しくも決勝トーナメント進出決定戦となる。

 

 落合知也、富永啓生、ブラウン アイラ、保岡龍斗。4人のボーラーたちに、どん底から這い上がる機会が与えられた。もし日本代表が勝てば、ポーランド代表、中国代表と2勝5敗で並ぶ。

 

 しかしそれだけでは届かない。日本代表6強入りの条件は、中国代表に対し18得点以上を獲り、2点差以上をつけて勝つことだった。

 

 日本代表はこの難しい仕事を劇的な形で成し遂げる。

 

 激しく競った展開で、あっという間に時間が過ぎていく。日本代表は中盤以降徐々にペースをつかんだ。残り3分50秒、保岡のフリースローで18-13とし、一つ目のハードルをクリア。しかし、中国代表の執念の反撃で3点返され、気の抜けない状況が続く。

 

 残り3分8秒に富永がレイアップを決め19-16。そして残り2分51秒、歓喜の瞬間がやってきた。富永が右ウイングから、プルアップ・ステップバックでツーピース(2Pショット)を沈め21-16。この劇的なKO弾が、決勝トーナメントへの道を阻む壁を突き崩した。

 

 ラトビア代表と戦った準々決勝、 日本代表は開始から3分42秒で5-13と大差を追う厳しい状況に追い込まれた。しかし、ここからわずか61秒の間に富永、富永、保岡、富永、ブラウンと2Pの雨を降らせ反撃。一気に15-16と息を吹き返す。

 

 そこからは激しいせめぎ合いとなったが、最後はフィジカルなラトビアのアタックにファウルが込み、ペナルティのフリースローで16-21。悔しいノックアウト負けで、彼らの東京オリンピックは幕を閉じた。


3×3シーンを支える新旧の顔。4つの個性。気持ちを全面に出しながら、彼らは一丸となって最後まで金メダルを目指していた。

 

 大会初日は2試合とも延長戦だったが、どちらもレギュレーションの残り4分以降に7点のビハインドを挽回するスリリングな展開だった。記念すべきオリンピック初勝利は、その2試合目で手にしている。

 

 その一つ一つの試合と、黒星先行の流れにも下を向かず決勝トーナメント進出を勝ち取った経過を通じて、今大会の日本代表は最後まであきらめないことの大切さを体現していた。

 

 10分の試合時間は、見る側にとってはあっという間に過ぎていく。しかしプレーする側にとってその時間は、俊敏性、持久力、強靭さ、精度、内面のしぶとさなど、アスリートとしての能力をふりしぼって戦い続ける、究極的に厳しいチャレンジだ。


東京オリンピックの3×3に男子代表が開催国枠での出場を認められた要因の一つには、それまでにこのスポーツが、特に男子においてはすでに日本国内で成熟していたという背景があった。開催国代表の誇りも、長年3×3の発展を支えた全国の功労者たちへの思いも力にして、試練の10分を8度積み上げた4日間。不屈の4人は底なしの情熱を注ぎ続け、エキサイティングな瞬間を生み続けた。その一つ一つが、3×3の新たな時代を切り開く栄光のかけらだ。


☆3×3男子日本代表試合結果 ※スコア(勝敗)


7/24 vsポーランド 19-20(0-1)
7/24 vsベルギー 18-16(1-1)
7/25 vsオランダ 20-21(1-2)
7/25 vsラトビア 18-21(1-3)
7/26 vsセルビア 11-21(1-4)
7/26 vs ROC 16-19(1-5)
7/27 vs中国 21-16(2-5)
7/27 vsラトビア 18-21(準々決勝)


☆個別成績

プロフィール: 氏名、ポジション、身長、所属

スタッツ略号: P=得点 R=リバウンド KA=キーアシスト 1PM=1Pショット成功数 1PA=1Pショットアテンプト数 1P%=1Pショット成功率 2PM=2Pショット成功数 2PA=2Pショットアテンプト数 2P%=2Pショット成功率 FTM=フリースロー成功数 FTA=フリースローアテンプト数 FT%=フリースロー成功率 色付きの数字=ダブルファイブ(5人制でいうダブルダブルと同じ概念で、スタッツ2項目以上で5以上の数字を残すこと)

※表中の色付き行は準々決勝

 

落合知也 F/195cm/越谷アルファーズ、TOKYO DIME.EXE

 


©fiba.basketball

 

 #91の日本代表ジャージーが躍動する姿は、特に3×3を長く見てきたファンにとっては感慨深い情景だったのではないだろうか。NBAのレジェンド、デニス・ロドマンにあやかった“ウォーム”のニックネームにふさわしく、泥臭いプレーでチームを鼓舞した。フィジカルに戦う姿勢、3×3における経験値の高さなどチームにもたらしたものは多かった。

 

 

 

富永啓生 G/188cm/ネブラスカ大学

 

©fiba.basketball


かつてモハメド・アリの脅威のボクシングを指した 「蝶のように舞い、ハチのように刺す」という表現は古すぎるか。軽やかなフットワークから繰り出されるドライブと、リズム良く放たれるクイックリリースの2Pショットが世界を熱狂させた。日本代表の2勝はいずれも、富永の一撃が決勝弾。総得点55は、今大会全体の6位にあたる高記録だ

 

 


ブラウン アイラ F/193cm/大阪エヴェッサ

 


©fiba.basketball

 

 ゴールが壊れてしまいそうなパワフルなスラムダンクを8試合で7本たたき込んだ。恵まれた身体能力はマッチアップ相手にとって脅威。得点力の高い保岡と富永が控えていただけに、チームトップの平均4.6リバウンドは、決勝トーナメント進出の大きな力だった。しかも最後の3試合では、自ら2Pショットも50%の確率で沈めていた(8本中4本成功)。

 

 


保岡龍斗 G/188cm/秋田ノーザンハピネッツ、SEKAIE

 


©fiba.basketball


鋭いドライブと高確率のシューティングで得点を量産した保岡。2Pショットの成功率42.3%はチームトップであり、総得点46は大会全体の10位。世界に対抗できるスコアラーであることを数字で示したとともに、気合に満ちたディフェンスも力強かった。江戸川大学出身者として初めてのオリンピアン。母校の学生や関係者にも、不屈の闘志が届いたに違いない。

 

 

 

強烈なコンタクトにも引かないフィジカルなプレー、華麗なドライブ、驚異のロングレンジ・シューティング、豪快なダンク。そして何より不屈の闘志でどん底から這い上がったドラマ。男子日本代表の4人は3×3の魅力を強く、広く発信してくれた(写真/©fiba.basketball)


☆大会最終順位

 

 今大会の男子決勝戦では、ラトビア代表がカーリス・ラスマニスの劇的なノックアウト2Pショットでこの種目男子初の金メダル獲得に成功した。日本代表は6位だが、このラトビア代表と2度にわたって激戦を展開したのはご存じのとおりだ。この結果からも、日本代表が金メダルを十分ねらえる圏内にいたことが感じられる。

 

 ちなみにラトビア代表はエドガース・クルミンシュが決勝戦の試合中に右足を負傷。歩くのもつらそうな状態にもかかわらず、自分自身でぐるぐるとテーピングを巻きつけてコートに戻るという強烈な執念を見せていた。また、ROCのイリア・カルペンコフのシューズが壊れ、その後壊れたシューズをテープで補強してプレーするという場面もあった。

 

 スポーツ医学的な観点から、こうした行為は決して賛美されるべきではないだろう。しかし一方で、国の威信、国を代表して勝ちに来ている誇りがすべてに勝って夢中になったアスリートには、このようなことが起きるのだという現実を受け止めなければならない。周囲の対応が適切だったかどうかも含め、運営サイドに事後検証すべきエピソードを提供した試合でもあった。

 

 グループラウンドを無傷の7連勝でトップ通過し、絶対的優勝候補だったセルビア代表は銅メダル。5位通過だったROCが銀メダルを獲得した。乱気流のような順位変動も、奇しくも3×3のエキサイティングなゲームの特徴を示唆しているようだ。

 

1位 ラトビア
2位 ROC
3位 セルビア
4位 ベルギー
5位 オランダ
6位 日本
7位 ポーランド
8位 中国


文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)



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