月刊バスケットボール6月号

“今のベストメンバー”で勝負した富田、2回戦敗退も全国に爪跡を残す【インターハイ2021】

「いっぱい課題が見付かりましたし、初めてこういうところに来させてもらって、こういう舞台で…。実際に来てみて学ばせてもらった部分がすごくありました。子どもたちにこの舞台を経験させてもらいました」

 

 そう語ったのは富田の村田竜一コーチ。初のインターハイ出場となった同校は、今大会で粘り強さに定評のある豊見城を撃破し、2回戦で帝京長岡と対戦。序盤こそリードを奪う好勝負を演じたが、前半は5点のビハインド。後半は#5高橋快成のスコアや#4植田碧羽が意地の3Pシュートを見せるなど、最後まで食らい付いたがついには18点差(68-86)の敗北を喫した。

 

3P8本を含む28得点を挙げた#4植田

 

 それでも敵将の柴田勲コーチが「点差ほどの実力差はなかった」というように、試合開始直後からフルコートで仕掛けるアグレッシブなディフェンスと、5人全員が絡むオフェンスでその力を証明して見せた。

 

 特にディフェンス面に関してはセンターの#6サル・モハメド・ナビ(192cm)以外は最長身が#7森匠輝の182cmと決して大柄でない。しかし「(日本人の4人は)本来はガードの子たちなので、ディフェンスの読みが良くて自分たちの判断でローテーションが効くんです。だから1回、2回ボールを触って相手のリズムを狂わしたときに一気に持っていく力があります。それは僕が教え込んだというよりも、選手たちが練習ゲームで何回もトライアンドエラーを繰り返して身に付けてきたもの。決まったセオリーでディフェンスをするというよりもそれぞれが読みを働かせているので、相手にとっては攻めづらかったと思いたいですね」と村田コーチ。

 

 サイズよりも状況判断力に重きを置くことで、大会期間の2試合でもしっかりと結果を残すことができた。

 

#4植田とともにチームを引っ張った#5高橋

 

 そこには村田コーチのこだわりがある。「僕のバスケットはサイズアップよりも、センスや判断力がある選手がコートに立つという考えなんです。大きい子にやらせてあげるという今の時代の考え方とは逆行していると思うんですけど、僕の中では大きい子を育てるために小さい子が犠牲になるという考えはありません。仮にナショナルにいくような子であれば育てなければいけませんが、高校や大学まででフィニッシュする選手がいるわけで、そういう中でも努力している小さい子がいるんです」と、あくまでも“今のベストメンバー”をコートに送り出しているのだ。

 

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 勝つことや将来性ある選手の育成だけに焦点を当てるのではなく、純粋に努力している選手に高校バスケを楽しんでもらいたい。そんな気持ちも汲み取れる選手起用だ。実際、高校でバスケットを引退し、次のステップへ進むのが全国出場校以外でも大半だろう。そういった選手に活躍の場を与え、その上で勝つ。富田が体現したバスケットはそうした原点に立ち返るものだった。

 

 だからこそ、富田のベンチは常に味方のプレーに沸き、喜怒哀楽の表情も豊かだ。「コロナになってからは、いつまたストップと言われるのか分からないじゃないですか。高校3年間という短い時間の中で選手たちにはいっぱいバスケットをさせたかったんです。もちろん走り込みも大事ですし、トレーニングもしますけど、より長い時間にバスケットをさせたいという思いがあったので、年明けからの長い時間を対抗練習に費やしてきました」と村田コーチ。

 

 肝っ玉が強く、物おじしない今年のチームの選手は、そんな指揮官の配慮もあって全国の舞台を噛み締めるかのように楽しんでいた。ゼロからイチを生み出すことは難しいとよく言うが、彼らはそのイチを力強く生み出した。ここがゴールではなく、新たなスタートとなるのだ。

 

写真/松村健人

取材・文/堀内 涼(月刊バスケットボール)

 



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