月刊バスケットボール5月号

女子バスケ1996アトランタ日米決戦の記憶

 日本時間の7月15日午前中に行われたWNBAオールスター・ゲームは、今夏の東京オリンピックに来日するアメリカ代表のフルメンバーが、WNBAの多国籍オールスターチームと対戦するというユニークな志向で行われた(WNBA多国籍オールスターが93-85で勝利)。この試合は、WNBAの創立25周年を記念する特別な意味合いを持つイベントであったとともに、コロナ禍でオリンピック開催が1年延期されたことにより、アメリカの女子バスケットボール界にとってさらに特別な意味合いを帯びたイベントとなった。

 

WNBAオールスター・ゲームに登場したレジェンドたち

 

 今から25年前――それは奇しくも、アトランタオリンピックで、女子アメリカ代表が現在に続くオリンピック6大会連続金メダルの旅路を始めた年だった。

 

 1976年のモントリオール大会から始まったオリンピックにおける女子バスケットボールの歴史において、アメリカ代表が初めて金メダルを獲得したのは1984年のロサンゼルス大会。続く1988年のソウル大会で連覇を果たした後、1992年のバルセロナ大会は銅メダルに終わっていた。

 

 女子アメリカ代表にとって1996年のアトランタ大会は、金メダルを逃したバルセロナ大会の雪辱を自国で晴らす必勝の舞台となった。大きなプレッシャーの中でそのミッションを達成した当時の代表メンバーは、女子バスケットボール界のレジェンドとして敬意を集める存在だ。

 

 今年の女子アメリカ代表でヘッドコーチを務めるドーン・ステイリーは、栄光の1996メンバー(下表)の一人。この日のオールスター・ゲームを前にした会見には、試合で指揮をとったステイリーHCの他にも、1996年の代表メンバー8人が元気な姿を見せていた。

 

☆アトランタオリンピック女子アメリカ代表
ヘッドコーチ: タラ・バンデビア
ジェニファー・アッジ G/173cm
ルーシー・ボルトン G/173cm
テレサ・エドワーズ G/180cm
ビーナス・レイシー C/193cm
リサ・レスリー FC/196cm
レベッカ・ロボ FC/193cm
カトリーナ・マックレイン F/188cm
ニキ・マックレイ G/180cm
カーラ・マッギー CF/188cm
ドーン・ステイリー G/168cm
ケイティ・ステディング F/183cm
シェリル・スウォープス GF/183cm

 

左からレベッカ・ロボとシェリル・スウォープス(写真をクリックするとインタビュー映像が見られます)


彼女たちの姿は、25年前に日米両代表が演じた大激戦の記憶をよみがえらせる。会場はジョージアドーム。USAバスケットボール公式サイトによれば、31,070人の大観衆が集まったと記されている。日本代表は93-108のスコアで敗れたが、3Pショットを武器にアグレッシブにアタックし続け、アメリカ代表を苦しめた。

 

 このときの女子日本代表は、1976年以来20年ぶりにオリンピック出場をかなえたチームで、最終的には5-8位決定戦で7位入賞を果たしている。メンバーは以下のとおりだった。

 

☆アトランタオリンピック女子日本代表
ヘッドコーチ: 中川文一(CHA)
参河紀久子 GF/170cm(JES)
原田裕花 F/171cm(JES)
萩原美樹子 CF/180cm(JES)
川埼真由美 C/183cm(JES)
濱口典子 C/183cm(JES)
大山妙子 GF/173cm(JES)
一乗アキ GF/180cm(CHA)
村上睦子 G/165cm(CHA)
加藤貴子 CF/180cm(CHA)
山田かがり F/178cm(CHA)
岡里明美 GF/178cm(CHA)
永田睦子 F/178cm(CHA)
※JES=ジャパンエナジーサンフラワーズ(現ENEOSサンフラワーズ)
※CHA=シャンソン化粧品(現シャンソン化粧品Vマジック)

 試合展開としては、アメリカ代表がティップオフから3分経たないうちにいきなり9-0のランでリードを奪ったものの、そこからはヘビー級のパンチの応酬。前半のスコアは59-44でアメリカ代表がリード。つまり、最初の3分間以外の点差は6点のみで、後半は同点(49-49)だったのだ。

 

 終始リードを保たれ、後半半ばには79-51と28点差をつけられた展開を、互角の勝負と呼ぶのは適切ではないだろう。しかし何度ゴールを奪われても向かって来て、自分たちのバスケットボールで食らいつく日本代表の戦いぶりは、アメリカ代表の面々に強い印象を残した。

 

 この試合で日本代表を支えた強力な武器は、間違いなく3Pショットだった。トップスコアラーは5本中4本を成功させて22得点を記録した萩原で、9本中4本成功で同じく22得点を奪った一乗、9本中3本の成功で15得点の大山が続く。チームとしては32本中13本成功の40.6%で39得点を挙げていた。対するアメリカ代表は、速攻からよりゴールに近い位置で得点を重ねた影響もあるが、3Pショットは9本中3本成功の9得点のみにとどまっている。

 

 日本代表は3Pショットだけではなく、フィールドゴール全体でも46.7%(35/75)と好調だった。アシスト10本を記録した村上のプレーメイクも冴えわたり、上記の3人に加えて加藤が14得点、浜口はフィールドゴール4本すべてを成功させ8得点を記録した。

 

 また、非常に大事なこととして、ターンオーバーが12-10とほぼ互角だったことも、引き締まった展開になった要因だ。しかし、リバウンドでは24-40と圧倒された。また、196cmのセンター、リサ・レスリーに35得点を許した。

 

レジェンドが語る女子日本代表の脅威

 

 WNBAオールスター・ゲームに集まった当時のアメリカ代表メンバーたちは、声をそろえるように当時の日本代表の速さとアウトサイドシューティングの脅威、そして自分たちと異なるプレースタイルへの適応の難しさを語った。

 

WNBAオールスターの会見より、左からルーシー・ボルトンとジェニファー・アッジ(写真をクリックするとインタビュー映像が見られます)

 

 その一人で、チームのポイントガードを務めたジェニファー・アッジは、「ステフィン・カリー(ゴールデンステイト・ウォリアーズ)たちの先取りのように、ハーフコート近くからでもスリーを狙ってくる感覚。あのスタイルに慣れるのは私たちには大変でしたね」と同大会での日本代表のスタイルを説明した。

 

 同大会でアッジとともに金メダルを獲得した193cmのセンター、レベッカ・ロボは「あの試合についての特別な思い出ではないけど、日本代表と戦うのはいつでもイヤでした。外に引っ張り出されて、得意ではないところで守らなければならなくなるから…」と笑顔で振り返る。それを受け、同大会から3大会連続でオリンピックの金メダルを獲得したガードフォワードのシェリル・スウォープスは、「5人がどこでも入れ替わることができる。3人がアウトサイドで2人がインサイドといったようなポジションではなく、5人とも外から攻められる」と付け加えた。

 

 188cmのセンターフォワード、カーラ・マッギーは、「驚いたのは、誰もいないところにパスを出しているのに、そのボールがバウンドしている間に味方がそのスポットに動いてきて受け取るんです。なんて鍛え上げられているんだろう! と思いました。彼女たちを倒したければ、こっちもしっかり鍛えなければ! という気持ちにさせられました」と、日本代表への印象を話してくれた。



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