月刊バスケットボール6月号

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2021.07.14

男子バスケアルゼンチン代表、正体隠し(⁉)3連敗

 東京オリンピックで男子日本代表と同じグループCのアルゼンチン代表が、ラスベガスで行われていた4ヵ国対抗のウォームアップ・シリーズ全日程を終えた。経過としては、現地時間7月10日に行われた初戦の対オーストラリア戦こそ84-87と競った展開となったが、2日後の対ナイジェリア戦は71-94、さらにその翌日の対アメリカ代表戦は80-108と差をつけられ、3連敗だった。

 

 しかし、28点差で一蹴されたアメリカ代表との試合後に行われた会見では、セルヒオ・エルナンデスHCにも、同席したルカ・ビルドサ(ニューヨーク・ニックス)も結果に動じた様子はなく、あくまでもウォームアップとして受け止めている様子だった。

 

 試合の反省点としてビルドサは「まだ準備が整っておらず、悪い出来でした。今日は相手のスイッチに対抗できませんでした。僕らはピック&ロールを使って攻めるチームですが…」と反省材料を挙げた。「まだ時間はあります。悔しいですが、まだ10日以上あるので頑張っていきます」

 

 エルナンデスHCも「ご覧のとおりです」と切り出し、「まだまだ準備が必要です。今日はアメリカがその前の2試合よりアグレッシブなディフェンスを仕掛けてきましたし、速攻も出されました」と準備不足であることを隠さなかった。良いペースでプレーさせることができず、1対1が多くなったことも敗因に挙げていた。

 

仕上がりは50%、戦術は伏せている

 

 両者が口をそろえて話しているように、アルゼンチン代表はまだ未完成で、実力をこの3試合の結果から図ることは難しそうだ。

 

 3試合を画面越しに観戦して感じるのは、大ベテランでキャプテンのルイス・スコラを中心に個々の連係を重視するチームであろうことだ。41歳になったスコラのプレーぶりは、世界のエリートを相手にしてまったくパフォーマンスの劣化を感じさせない、往年のタフなビッグマンの姿があった。体力的な面では衰えもあるだろうが、それを補って余りある経験値とリーダーシップが感じられた。精神的な支柱という意味合い以上に、フィジカルなせめぎあいの中での執拗さやプレーの精度、判断力の高さが、若手には太刀打ちできないレベルにあるからこそ、今回も代表に名を連ねているのだろう。

 

 デンバー・ナゲッツでポイントガードを務めるファクンド・カンパッソは、3試合を通じて平均9.0得点、3.7アシストの記録を残し、小気味よくしぶといプレーを見せていた。このプレーヤーに田中大貴(アルバルク東京)やベンドラメ礼生(サンロッカーズ渋谷)、富樫勇樹(千葉ジェッツ)らがマッチアップするのか…! スコラらフロントラインとカンパッソのピック&ロールに対しチームとしてどう立ち向かうんだろう。そんなことを考えているうちに、どの試合も4つのクォーターがあっという間に過ぎていった。

 

 ガードでは他にニコラス・ラプロビットラが3試合平均で9.7得点、来シーズンからニックスでの活躍が期待されるビルドサは平均9.3得点と得点力を発揮した。NBAでのプレー歴がある201cmのスイングマン、ニコラス・ブルッシノは平均6.0得点、4.0アシスト。フロントラインでは206cmのセンター、マルコス・デリアも平均7.0得点、5.7リバウンドの活躍も目立っていた。

 

 チームとしては、この3試合のいずれもリバウンドで相手に負けていた(自チームの30.3本に対し相手は42.0本)。また、最後の対アメリカ代表戦ではアシストが6本しかなかった。3試合の平均失点は96.7とまだまだ仕上がってない。ただ、こうした結果からアルゼンチン代表はリバウンドが弱くディフェンスが甘いと捉えられる気はまったくしない。それだけアルゼンチン代表の面々は落ち着いてみえた。

 

 アルゼンチン代表の試合後会見で最も印象に残るのは、初戦後の会見でエルナンデスHCがまず「私はあまり英語が得意ではないので」と切り出し、現状は50%程度と語ったことだ。チームとしての練習は、ラスベガスで初めて行ったという。

 

ナイジェリア代表に大敗を喫した後の会見より。左はエルナンデスHC、右はセンターのデリア

 

 また、2試合目の対ナイジェリア戦の後には、デリアが「現時点では自分たちが何をすべきかを理解しようという段階。冷静に、本番までまだ時間があるのでしっかり考えていくことが大事です」と話していた。エルナンデスHCもそれを補足するように、「本番前なので持ち手をすべて見せることはできません。我々は戦術のチームであり、大きなプレーヤーがいるわけでもありませんからね」と本音ものぞかせながら語っている。持ち駒のタレントにも戦術面の引き出しにも自信があればこその、したたかさが伝わるコメントだ。

 

 練習では実戦と同じスピード感でプレーし、一体となって戦う訓練を行っているとのこと。また、エルナンデスHCは来日後にイラン代表とのウォームアップ・ゲームを行うとのことも明かしていた。「さまざまなプレーやディフェンスをやろうと思っています。ゾーンにしたり、混ぜ合わせたり、ボックス&ワンにしたり、マンツーマンにしたり…」というコメントを聞けば、したたかな印象は強まるばかりだ。

 

 老獪な指揮官と大ベテランが率いる今回のアルゼンチン代表は、正体を暴かれないよう大人しく前進中のようだ。現時点では実力をつかみきれないが、このままのレベルで本番を迎えることはないだろう。


文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)



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