月刊バスケットボール6月号

東京で初めてオリンピック・メダリストが生まれる 3x3 バスケットボール

東京2020オリンピックまであと1か月を切った。その舞台で初めて競われることになる3x3 バスケットボールにおいて、準備に奔走するキーパーソンの一人、東京2020組織委員会3x3バスケットボール種別マネージャーの安田美希子さんに、現在の準備状況、心境を聞いた。

 

3x3のオリンピック会場となる青海アーバンスポーツパークで取材 に応じてくれた安田美希子さん

 

新しいことにチャレンジしながら
安全・安心の競技を実現したい

 

 3x3競技が開催される青海アーバンスポーツパークの設営が急ピッチで進んでいる。昨年、開催に向けて準備していた観客席を、延期が決まったことで一旦解体していたのだ。全て仮設となるこの会場は、3x3の後は観客席などのレイアウトを作り替え、スポーツクライミングが、そしてパラリンピックでは5人制サッカーが開催される。
「延期が決まった当初は、その後の動きも何も決まっていなかったので、全てストップといった状況でした。それでも、チーム内ではテレワークでミーティングを重ねながら、できる準備、想定されるオペレーションのプランニングなどを進めていました。
夏場になるまではスポーツイベント自体が行われていませんでしたから、コロナ対策を組み込んだオペレーションを練り始めたのは年が明けてからです。その頃には国際バスケットボール連盟(FIBA)や他の競技の対策などのノウハウが蓄積・共有されてきたので、それを参考にしながら、プランを組み直したりしてきました。オリンピックはこれまでのどのイベントよりも関係するセクション、スタッフも多いので、一つプランを変えるといっても大事なんです」と安田さんは振り返る。
中学、高校時代にはバスケットボールをしていたという安田さんだが、仕事として関わりだしたのは30代に入ってから。大学卒業後はまるで畑の違う仕事をしていたそうだが「スポーツに関わる仕事をしてみたい」とは思っていた。「高校のときに父の仕事の都合でアメリカにいたことがあるのですが、現地の学校に入れられて、言葉も分からずにいたところ、バスケットボール・チームに入ったことで救われたんです。言葉が通じなくても、スポーツなら通じ合うことができるといった、私の原体験にあるんです」と高校時代にスポーツの持つ“力”を感じた安田さんは、いずれはそれを多くの人に伝え、多くの人と共有できる仕事を求めていたのだ。
ちょうどその頃、日本では3x3を普及させようと、スポーツ用品店を全国で展開するゼビオグループが力を入れ始めていたのだが、その実務を担当するグループ会社のクロススポーツマーケティング社に3x3事業の立ち上げのスタッフとして加わった。
「当初は各地で開催する3x3のイベント運営に走り回りながら、『.EXE』といった3x3プラットフォームの立ち上げ、プロリーグ創設の準備、さらにFIBAが開催するワールドツアーの招致・運営などに携わっていました。そうしたつながりもあって、3x3がオリンピック競技に決定したあと、2018年に当時のFIBA事務総長のパトリック・バウマンさん(故人)から推挙されて3x3の競技担当として組織委員会に着任することになったのです」と3x3の普及のスタート時から、オリンピックへと日本での3x3の成長を支え続けている存在なのである。

 

青海アーバンスポーツパークで行われた『READY STEADY TOKYO』


5月半ばには青海アーバンスポーツパークで待望のテストイベント『READY STEADY TOKYO』も開催した。「昨年、テストイベントを開催できずに、延期になってしまったので、いろいろと確認したいことができずにきていました。中でもスタッツシステム(選手個人の得点などを記録していくシステム)、選手の動線といった部分は気掛かりでした。オリンピックではスタッツをオンタイムで、会場で記録していきます。実はこれが3x3では初めてのことで、オメガさんに提供いただくそのシステム、機器を使うのも初めてだったのです。実際のテーブルオフィシャルやスタッツ記録員の方々は日本バスケットボール協会(JBA)の協力でトレーニングをしてきていただいており、システムもばっちりだったので一安心でした。一方で選手の動線については、選手の意見などを聞きながら、改善していく部分が出てきています。ウォームアップコートから休憩用ラウンジ、更衣室、競技コートまでの選手の動きなど、実際にやってみないと分からないことはやはり多いものです。テストイベントでは途中で雨が降ってきてしまったのですが、我々としてはそうしたことを経験できたのも収穫でした」とテストイベントで見つかった課題をクリアしていく日々を過ごしている。
「3x3は新しい競技なので、準備するスタッフたちにもベンチャー気質のようなものがあります。これまでの5人制にはない魅力を発信しようと、ウォーミングアップコートを公開しようといった試みもあります。もちろん、コロナの状況などによって変わってくることはあると思いますが、私たち現場で動くスタッフの使命は、このコートから、3x3競技初のメダリストを送り出すこと。つまり安全に競技を全うすることになります。どのような状況となっても、私たちの準備は変わりません。安全に、選手たちが安心して競技を全うできるようにしていかなければなりません」と、競技終了まで駆け抜けていく覚悟を語る。
少し気が早いが、オリンピックの後に話を向けると「オリンピックを見て、3x3を始めたいと思った人たち、子どもたちが、気軽に3x3と触れ合えるような環境を作っていければとは思っています。一方で、ほかの世界をのぞいてみたいといった私の性格もあります。いずれにしても、スポーツには関わっていたいですね」
3x3には5人制とはまた違った魅力があると言う。「スピード感だったり、エンターテインメント性だったり。そうした魅力に触れて、5人制でも3人制でも、子どもや若者、そしてシニアになっても楽しんでいってもらえれば。実際にアスリートとしてではなくとも、私みたいに『支える』立場でもいいですよね」とスポーツの“力”を拡散し続けている。

(文・飯田康二 写真・松村健人、石塚康隆/月刊バスケットボール)



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