月刊バスケットボール6月号

<車いすバスケ>切磋琢磨で金メダルへ加速中の男子U23日本代表

 2022年に千葉市での開催が予定されている「男子U23世界選手権」。日本は史上初の金メダル獲得を目指している。コロナ禍で中断していた強化育成合宿も昨年11月に再開し、今年3月には2020年度最後の合宿を行った。そこで今回はチームを率いる京谷和幸ヘッドコーチ(2020年からA代表のHCを兼任)にチームの現状を聞いた。

文・写真/斎藤寿子

 

A代表とともにU23の指揮も執る京谷和幸HC

 

A代表レベルの選手がそろう強さと課題

 

 男子U23世界選手権での過去の最高は2005年の準優勝だ。しかし09年は6位、13年は9位に沈んだ。その日本を17年に再びメダル争いをするチームへと引き上げたのが、京谷HCだ。“世界一の守備”を築き上げ、現在の日本バスケを象徴する“トランジションバスケ”で4強入りを果たした。

 同大会を機にステップアップした選手も少なくない。キャプテンを務めた古澤拓也をはじめ、川原凜、岩井孝義、緋田高大、赤石竜我と次々とA代表入りを果たしている。すでに16年リオパラリンピックに17歳で出場した鳥海連志を含め、彼らは現在ではA代表の主力となっている。17年の4強入りが、日本バスケの底上げにつながったことは間違いない。

 現在の男子U23強化育成選手たちには、その17年のチームをしのぐ強さがある、と京谷HCは感じている。鳥海、赤石とすでにA代表で活躍する2人のほか、今では東京パラリンピック代表の有力候補の一人となった髙柗義伸、昨年度に初めてA代表の強化指定選手に入った古崎倫太朗、宮本涼平と、すでにA代表の競争下にレベルが達している選手が少なくない。

 一方、彼らとその他の選手とのレベルの差が開いてはチーム一丸となって戦うことは難しい。京谷HCもこのことを一番不安に感じている。

「だからといって中心選手をほかの選手のレベルに合わせることはしたくないですし、それでは金メダルを取ることは難しい。底上げをしてチーム全体としてどこまで上げていけるかが、今のチームの最も大きな課題です」

 

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成長につながる火花散らした競争心

 

 それでもチームには二分するような雰囲気は一切ない。要因の一つは中心選手が積極的に他のメンバーとコミュニケーションを図っていることにある。

「鳥海や赤石らがいろいろと伝えてくれていて、改めて同世代の結束力は強いなと。選手同士でチームを作り上げていくでしょうから、私はそこに少し手を差し伸べるくらいでいいと思っています」

 合宿のたびに成長を感じさせる選手もいる。中でも成長著しいのが塩田理史と片岡勇登だ。塩田は4年前にもU23日本代表に選出され、アジアオセアニア予選では銀メダル獲得に貢献した。しかし個人的な事情で本番のU23世界選手権では代表を辞退している。だからこそ来年の大会に懸ける思いは誰よりも強い。その塩田について京谷HCはこう語る。

「彼は全身バネがあって、しなやかなプレーができる選手。アグレッシブにボールに向かっていくし、インサイドにも積極的に飛び込んでいける。プレーの一つ一つに今度の大会に懸ける思いの強さを感じます」

成長著しい塩田理史

 最年少16歳の片岡は、ケガをする前は陸上でスプリンターとして活躍し、地元では将来を期待されていたほど高い身体能力を持つ逸材だ。京谷HCによれば、チェアスキルが高く、守備はA代表でも通用するという。さらにスピードは、現在日本代表キャプテンを務め、同じクラス2.0で右に出る者はいない豊島英を上回るほどだ。だが、京谷HCは彼の強さはそれだけではないと語る。

「とにかく吸収しようという貪欲さがある。合宿では物おじすることなく、疑問があれば自分から私やコーチ、先輩に聞いてきますからね。分からないことをそのままにしない、分かったふりをしないんです」

 その片岡を、3月の合宿では20mのダッシュ走で打ち負かした選手がいた。2歳上の伊藤明伸だ。

「おそらく片岡に刺激を受けてトレーニングしたんでしょうね。そして片岡も伊藤に負けて悔しそうに“次は負けない”と言っていましたから、相当走り込んでくるはずです。そうやってお互いにレベルアップしていけば、このチームは金メダルを十分に狙える力があると思っています」

 若手の成長スピードがどれだけすさまじいかは4年前のチームが証明済みだ。今年の東京パラリンピックに続いて、世界の頂点に立つ日本の姿が見られることを期待したい。

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(月刊バスケットボール)

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