月刊バスケットボール5月号

Bリーグ

2021.05.17

シーホース三河はクォーターファイナル敗戦も、若手の成長を未来の糧に

 レギュラーシーズンシリーズと違い、同じ相手に2敗した時点でシーズンが終了する。それがチャンピオンシップだ。前日のクォーターファイナル第1戦を落とした三河にとって、千葉との第2戦は文字通り「win or go home」を決定付ける試合となった。

 

 前日に千葉に105もの得点を許し完敗を喫した三河は、その教訓を生かしこの試合では最後まで勝敗が分からない大激戦を演じることとなる。

 

 前半(33-46)こそ、うまく流れをつかめずに第1戦同様に苦しい試合展開となったが、「(前半は)オフェンスで肩に力が入って、そこにエネルギーを使ってリバウンドや速攻をやられてしまいました。なのでハーフタイム、『頑張るところが違うよ、もっとオフェンスはリラックスしてやらないと』という話しをして、後半はみんながオフェンスで我慢して、ディフェンスやリバウンドにフォーカスしてやってくれた」(鈴木貴美一HC)というように、後半に入ると金丸晃輔、ダバンテ・ガードナーの2枚看板を起点にベンチから貢献した熊谷航、40分間フル出場でインサイドを支えたシェーファーアヴィ幸樹らがリズムよく得点を積み上げた。内外とバランスよく得点したことで後半のスコアは45-34。三河らしさを見せる結果となった。

 

シェーファーは手薄なインサイドでシリーズを通して奮闘し続けた

 

 しかし、最後までリードを許さなかった千葉は、重要な局面で仕事をこなした富樫勇樹が16得点、ジョシュ・ダンカンが前日に引き続きチームトップの19得点に加え、12リバウンドのダブルダブルでチームをけん引。同点を狙ったガードナーのラストショットがリムからこぼれ、わずか2点差(80-78)で三河の猛追を跳ね除けた。

 

「今までCSやプレーオフを何回も経験していますが、これだけコンディションが悪い状態で戦ったのは初めてでした」と鈴木HCは苦しい胸の内を明かし、続けて選手をはじめとする関係者への感謝の言葉を並べた。「100%の状態じゃない、ケガ人がいる中で頑張ってくれたうちの選手たちを誇りに思っています。アウェーにも関わらず、たくさんの方が応援に来てくれて、もちろんホームでもそうですけど、そういう人たちの温かい応援に我々は助けられてきました。本当に1年間ありがとうと言いたいです。それから、バスケットに関わる人たち全員ですね。メデイアの方も、運営の方も、三河のスタッフも、本当に一生懸命裏方さんが頑張っていますし、そういう人たちの姿を見て我々もエネルギーを与えられて、一生懸命頑張れました。シーズン序盤は調子が良くて、途中でコンディションを崩して…。悔しいシーズンでしたけれど、今は精一杯やり切ったという気持ちでいっぱいです」

 

 三河はビッグマンのシェーン・ウィティングトンと根來新之助がケガで不在、ガードナーも「本当はチャンピオンシップでプレーできなかったかもしれない」と言うほどコンディションが悪い中、健康なフロントコートはシェーファー1人。

 

 第1戦でもガードナーが足を痛めてベンチに下がった時間帯には、本来ガードポジションのカイル・コリンズワースや高橋耕陽をパワーフォワードで使わざるを得ないほどに、チームは満身創痍の状態だった。これらの事実は決して負け惜しみや言い訳ではない。確かにCSは結果が全てであり、そこに至るプロセスやチーム事情は関係ないのかもしれない。ただ、結果は伴わずとも苦しい状況下でも最後まで戦うメンタリティーを持ち続けたことには大きな意味がある。

 

 

若手の成長と、足りなかったあと一歩

 

 シリーズ連敗によって三河のシーズンは終わりを告げた。最後のポゼッションでもう少し良いフォーメーションを組めていれば、終盤のフリースローが1本でも決まっていれば、あるいは結果は変わっていたのかもしれない。ただ、敗戦の中にも確かな光が見えた。それが若手選手の成長だ。インサイドで奮闘し続けたシェーファー、最後まで富樫に食らい付いていった長野誠史と熊谷、金丸不在の時間帯でアグレッシブさを見せた高橋の4人は大きな成長を見せた。

 

 特に、ガードの2人の成長は大きかった。強力なタレントを抱える一方で、長野と熊谷が担うポイントガードのポジションは、これまで三河にとっての泣きどころと見られていた。しかし、このシリーズではそうではなかった。「昨年も含めてガードの部分でやられることが多くて、(今季は)思い切ってカイルをスタメンにして、ガード2人は控えという形でやっていました。でも、彼らもそれが悔しくてシーズン後半で一生懸命練習に取り組んでいて、チームのやりたいことをやろうっていう姿勢が見えました。実際、熊谷は本当に最後の方で調子が上がってきました。ゲームに出すことも、一度使わずにベンチから見させることも含めていろいろな経験をさせると、やる気のある若い選手はCSでも成長したのかなと思います」(鈴木HC)

 

数字には表れづらいが、長野の貢献は三河にとって大きなものだった

 

 この試合のチーム最初の4得点を奪ったのは長野のペイントアタックであり、終盤の猛追を支えたのは熊谷のアグレッシブなプレーだった。「得られたのはスピードが通用するということと、思い切りよく打てたこと。シーズン序盤はあまりプレータイムがなかったけど、腐らずに毎日ハードワークをして準備をしてきたので、シーズン終盤にかけてはいい出来だったかなと思います」と熊谷。

 

 一方で課題も残る。「いらないファウルや、チームをもっとまとめられなかったことが課題」という熊谷の言葉は、この試合の内容を物語る。「いらないファウル」というのは前半終了間際で富樫に対して不用意な接触をし、4ポイントプレーを許した場面。「チームをまとめられなかった」というのは、最後のポゼッションで残り時間を計算してうまくプレーコールができなかった点だ。熊谷は「もう少し時間があると思っていて、相手もチームファウルが溜まっていたし、ダバンテも『晃輔!』って言っていたのでスクリーンから金丸さんに打たせるプレーを想定していました。でも金丸さんがディープコーナーにいて時間的に厳しかったです。本来であれば金丸さんに打たせて、打てなくてもフリースローをもらって、金丸さんなら2本決めてくれると思っていたんですけど、ちょっと甘かった」と最後のポゼッションを振り返る。

 

苦しかったシーズン序盤を乗り越え、結果を残した熊谷。まだ成長の余地は大きく残されている

 

 鈴木HCも細かなコミュニケーションの部分を含め、最後のポゼッションに見えた課題を口にしていた。「最後の場面は相手のシュートが落ちたので、タイムアウトは取れないですよね。そういうときにコート内の選手同士で『早く持っていけ』とか、そういう一言があれば、熊谷もプッシュしてレイアップにいくチャンスがあったと思います。ベンチでは『6、5、4』っていうコールはあったし、僕も『早く持っていけ』って言っていたけど観客がいたら聞こえないんですよ。その中で近くにいる選手が言葉をかけられるような。そういう単純なところを分かっているもんだと思っていても(最後の場面に関しては)分かっていなかったんです。そういうところが足りなかった」

 

 若手の成長は鈴木HCにとってはうれしいものだったことは事実だ。「負けましたけど若手の成長はうれしい、救いかなって思います。こんなこと言うのは良くないかもしれないけど、何も残らなかったらただ負けたで終わり。でも若手の成長が今回のCSでは残りました」という言葉がそれを象徴している。それだけに、最後のポゼッションを含めてまだまだすべきこと、若手をはじめとした現チームの選手に意識付けさせなければいけないことは山ほどある。

 

 最後は思い描くような結果とはいかなかった。それでも来る日の名門復活へ。その歩みは止まらない。

 

写真/B.LEAGUE、松村健人

取材・文/堀内涼(月刊バスケットボール)



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